草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第13章 文化祭と新たな火種 5

「お前、柔道部に戻ったんだろ? 問題起こして試合に出れなくなってもしらねーぞ」

「バカ野郎! 友人の危機にジッとしていられるほど、俺はアホではない」

「そうかよ……俺はどうなっても知らねーからな」

「安心しろ! 柔道部には戻ったが、ほとんど部活には出ていない!!」

「お前はいい加減柔道しろ!!」

頼もしいかの、それともバカなのか。
雄介は北条をの加勢に、思わず口元を緩ませた。
正直言えば、必要なんて全くない、むしろ邪魔になるかもしれない。しかし、自分を助けるために、駆け付けたという事が雄介はうれしかった。

「なんだ? ちょっとは骨の有りそうなのが出て来たじゃねーか」

「でも、たかが二人だ。まとめてやっちまえば一瞬だろ」

相変わらず、ニヤニヤしながら雄介たちの方にジリジリと距離を詰めてくる不良たち。
しかし、そんな奴らを気にも留めずに、北条は雄介に尋ねる。

「んで、こいつらはなんなんだ?」

「あぁ、お前には説明しといた方がいいかもな……」

雄介は事の経緯と、今いる相手が何を企んでいるかを北条に説明する。
話を聞いた北条は、怒りに体を震わせ、腕をボキボキと鳴らしながら、不良たちに歩み寄っていく。

「そうか、今村。じゃあ、こいつらに遠慮は要らんのだな」

「あぁ、思いっきりやろうぜ。そうすれば、今後の俺も楽になる」

「フン、貴様のことはどうでも良い。だが、加山さんに良からぬ事をしようとした罪。絶対にゆるさん!!」

(どうでも良いならなんで俺の前に立ってんだよ……)

まるで雄介を守るかの様に、北条は雄介の前に立った。
しかし、雄介も不良たちに対して怒りを持っているのは同じ、北条ばかりにやらせてばかりでは面白くなく、雄介は北条の隣に立った。

「今村、怪我をするかもしれんぞ?」

「お前に言って無かったか? 俺って結構強いんだぜ?」

「フッ……なら信じよう」

北条は、隣に立つ雄介から視線を移し、目の前にいる大勢の不良を睨む。
そして……

「やっちまえぇ!!!」

「「「うぉぉぉ!!」」」

不良達の掛け声と共に、一斉に不良たちが、雄介と北条に襲い掛かってくる。
雄介と北条は向かってくる不良たちを一人、また一人と地面に倒れさせていく。お互いにほぼ一撃で相手に膝をつかせ、それをみた不良たちは、二人に向かって行く事をためらう。

「な…なんなだ、こいつら!」

「あっという間に、半分を……」

「まだだ!! 動けなくしちまえば、こっちのもんだ!」

不良たちは、雄介と北条を取り押さえようとする。しかし、雄介と北条は、取り押さえられる前に、体に触れようとする相手を投げ飛ばし、一切自分に触れさせようとはしない。
気が付くと、体育館裏には、雄介と北条だけが立っていた。

「なんだ、歯ごたえがないな。鍛えて出直してこい」

地面に這いつくばり、意識を失っている不良たちに、北条はため息を吐きながら言う。
雄介は喧嘩になる前に置いていたカバンを持っち帰ろうとする。

「北条、早く行こう。先生から色々聞かれたらまずい」

「ん? あぁ、そうだな。しかし、これだけの騒ぎだったのに、なんで先生は出て来なかったんだろうな…」

「んなもん怖いからだろ? 最近の若者は何しでかすか分かんねーから、事が収まるまで待って、その後警察やらなんやらに任せる気でいるんだろうぜ」

二人で話ながら、体育館裏を後にしようとする。雄介は地面に転がっている不良を横目で見ながら体育館裏を後にしようとしたのだが……

「……!? おい!」

「ひぃっ!!!」

雄介は一人の不良が持っていたナイフを見て、その不良の胸倉をつかんで無理矢理上半身を起こさせた。

「お、おい! 今村、どうした?」

北条も雄介の行動の意味が分からずに困惑する。
雄介に北条の声は届いておらず、その不良が持っていた銀色のナイフを手に持ち、不良にそれを見せながら口を開いた。

「このナイフ、一体どこで手に入れた?」

「こ、これは…ゲーセンで遊んでるときに、お前を痛めつけて欲しいって言ってきた奴から、武器としてもらった」

「誰だ? 男か? 女か? 年齢は?」

雄介はナイフを不良に突き付けながら質問をする。
その様子に、流石の北条も驚き、止めようとするが、雄介にはまるで聞こえていない。

「ひっ! し…知らない!! そん時初めて会ったんだ!! 金をやるから、今村ってやつを痛めつけて欲しいって!! それで、俺らは人を集めて!」

不良は涙を流しながら、必死に自分は何も知らない事をアピールする。雄介もこの不良が何も知らない事を納得したのであろう。ナイフを自分のポケットにしまい、不良から手を離す。

「いいか、もう俺にも、俺の関係者にも関わるな。次またやってみろ、こんなんで済まさねーからな」

「は…はぃぃぃ!!」

そのまま不良は逃げて行った。北条は先ほどまでの雄介の様子に違和感を思い、ナイフの事を尋ねる。

「おい、そのナイフがどうかしたのか?」

「ん? あぁ、ちょっとな……」

短く答える雄介に、北条もそれ以上は聞かなかった。
二人はそのまま体育館裏を後にし、昇降口の方に向かった。

「まぁ、今日は助かったよ。ありがとう」

昇降口の到着し、雄介は北条に礼を言う。
北条は、腕を組んで一言「気にするな」とだけ言いそれ以上は何も言わなかった。

「じゃあ、俺は帰るよ。あ! あと、このことは誰にも言わないでくれ、ややこしくなると面倒だ」

「それは、加山さんにもか?」

北条に背を向けていた雄介は、思わず北条の方に振り返った。

「当たり前だ。あいつが知ったら、自分のせいだっていって、自分を責めるの、お前もわかるだろ?」

「しかし、今回の事は、下手をすれば加山さんも危なかった! 忠告しておくのが優しさではないのか?」

北条の言葉に、雄介は黙ってしまう。
北条の言っている事が正しい事ぐらい、雄介もわかっていた。でも、雄介は言いたくなかった。自分を責めて、優子が何をするか分からないからだ。

「北条……お前の言うことは正しいよ。でも、俺はあいつの悲しそうな顔をもう見たくないんだ……」

「そうか……」

「じゃあな、本当に今日はありがとよ」

帰宅する雄介の背中を見ながら、北条は一人、今村雄介という男について考える。

「…今村、本当にお前は、加山さんをなんとも思っていないのか……」

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