草食系男子が肉食系女子に食べられるまで

Joker0808

第12章 後編19 草食系とお嬢様

教室で男子生徒達が、雄介から優子との関係を聞き出そうとしていたのと同じ頃、女子更衣室に向かった1年2組女性陣は、優子から話を聞こうとしていた。

「美歩…どうやって聞く?」

江波に一人の女子生徒が、着替えの途中でやってきて尋ねる。美歩とは江波の下の名前で、フルネームは江波美穂(エナミミホ)という。女子からは大体下の名前で呼ばれる事が多く、クラスの女子は大体名前で呼ぶ。

「どうやってって…女子なんだから、誰かが適当に恋話して、流れで聞き出すのよ! だから、由美! あんたが切り出しなさい!」

「なんであたし?! 別に好きな人なんて……居ないし」

「じゃあ、その一瞬の間は何よ! ほら、みんなの為だと思って!」

「だから居ないって……」

「ねぇ! みんな知ってるー! 由美って、山本君の事がー」

「なんで知ってるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

高らかに宣言する美歩を由美が大声を上げてかき消そうとするが、既に遅かったらしく、着替え途中だった女子生徒全員が、由美を見て話しを始める。

「え? 由美ってまだ諦めてないの?」

「入学当時からだよね? もう諦めなって、あんたじゃあのイケメンは無理」

「なんでみんな知ってるのよ……」

肩をがっくりと落とし、へこむ由美。そんな彼女にみんな呆れた様子で口々に言う。

「だってあんた、暇さえあれば山本君見つめて、うっとりしてるじゃない?」

「いや、気持ちはわかるけど……山本君はねぇ……」

「あんたらねぇ! 良いでしょ! 好きなんだもん! 何が悪いのよ!!」

涙目で訴える由美に、みんなヤレヤレといった様子。そんな由美に一人だけ共感を持って接してくれる女子生徒がいた。

「分かる! わかるわよ由美! 私もそうだもん!!」

「優子…あなた…」

由美に一人だけ共感を持って接するその人物は、加山優子だ。噂の当人であり、由美がこんな状態になっているきっかけとなった人物。
美歩は、この状況に心の中でガッツポーズをする。流れで優子が由美に共感し、自分の恋バナを始めれば、あとは簡単だ。
優子は由美の手を取り、話を始める。

「私も好きで好きでしょうがないの! でも最近、なんだか私に構ってくれなくて……」

その場にいた女子生徒は「今村の事だな…」と思い浮かべながら、優子の話に耳を傾け、話の続きを今か今かと待っている。もちろん皆、着替えの途中である。

「それって…今村の事?」

「そう! なんか最近他の女のところに行ってるらしくて……」

加山の言葉にその場の女子全員が「今村最低」と思い。本人の知らないところで、女子からの好感度が一気に底辺まで下がり始めた。

「何それ最低! 優子があんなに好き好き言ってんのに、他の女のとこ行ってるの? そ入れでも山本君の親友?!」

(((それは関係ねーよ……)))

優子と由美の二人以外の女子生徒がそう思い、すっかり目的を忘れた由美は、どこか真剣な様子で加山と話を進める。

「良いの……だって私、一回振られてるもん…」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」

この優子の一言には、更衣室の女子生徒全員が驚きの声を上げる。この事実を知っていたのは、優子と沙月だけであり、二人は誰にもこの事を言っていなかった為、皆がこの真実を知ったのはこの時だった。

「え! 何? 振られてたの?? 私はてっきり、今村が逃げてるのかと……」

「じゃあ、もう友達で行くってこと?」

「でも、友達にしては仲良すぎない?」

優子の発言に、更衣室中が騒がしくなる。皆、服のサイズ合わせをすっかり忘れ、話に夢中になっている。
次第に優子の方にみんなの視線が集まり、説明を求めるように迫ってくる。そんなみんなに、優子は笑顔で答える。

「うん振られたよ! でも好きだから……諦めないって決めたんだ!」

(((なんて健気!!)))

評価の下がった雄介とは違い、優子の評価はみるみる上昇していく。そんな事は露知らず、優子は由美を励ましていた。

「由美はまだ振られたわけじゃないんだから! 私より望みあるよ!」

「そ…そうかな?」

「そうだよ! 私、最近よく山本君と話すけど、好きな人とかは居ないみたいだから、大丈夫だよ!!」

「ゆ…優子……」

涙目で感激する由美。そんな二人を見ながら、更衣室の女子達は今村への怒りを燃やし、新たな目的を見出していた。

「今村ぁ~あんなに健気な優子を~」

「許せないよ! いくら不良から助けたからって、振った女の子に気使わないで、他の女のところに言ってる宣言するなんて!」

雄介がすっかり悪者になり始めたそのころ、更衣室で着替えをしていた女子生徒一人が着替えを終えた。

「……フリフリね……」

沙月だ。みんなが優子の話に夢中になっている間、沙月は衣装に着替えを済ませ、サイズを合わせていた。

「あれ? 沙月着替えたの? メッチャ可愛いじゃん!」

「ありがとう。貴方もいつまでも下着姿で居ないで着替えたら? 風邪ひくわよ」

「あ、そういえばメイド服の試着に来たんだった! 早く着替えないと遅くなるわよ~」

みんな、本来の目的を思い出し、急いで着替えを始める。優子も雄介に見せようとニコニコ笑顔を浮かべながら、着替えを始めた。

「メイド服なんて、雄介の家を思い出すなぁ~」

「「「今なんて!?」」」

「え? 雄介の家を思い出すな~って…」

「「「今村の家? しかもメイド服って何??」」」

着替えを始めたのにも関わらず、優子の一言で皆手を止めて、またしても優子に注目し始める。美歩はみんなを代表して優子に聞いた。

「えっと……優子って、今村の家に行って、メイド服にどんあ思い入れがあるの?」

「え? あぁ、雄介のお姉さんと一緒に来たんだよね~。でも、その時は雄介に見せてないから、雄介は知らないよ?」

「「「今村って……」」」

今村雄介はこの時、クラスの女子から、制服好きの変態男子という認識を受けてしまった。本人がこの事実を知るのは、もう少し先の話である。

「……着替えなくていいの?」

沙月は一人、再び騒がしくなった更衣室でぽつりとつぶやいた。

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