片思い片手間ヒーロー

Joker0808

第14話

純を助けた人間は、全身を機械で武装した女性だった。
右手にはライフル銃、顔はバイザーのような物で隠れている。
女性とわかったのは、バイザーの下から覗く口元と、体格からだった。
細い手足には黒いアーマーを付け、胸が膨らんでいた事から、女性であることが想像出来た。
そして、背中には大きなウイングがついており、シルエットからこの前のIDを打ち抜いた人物と同一である事が想像出来た。

「なんなんだ……こいつ」

目の前で見せつけられた力に、純は驚きを隠せなかった。
半年以上IDと戦ってきた純以上の力を持ち、その上女性。
今までの自衛隊や警察の武装で無いことは一目瞭然だった。
女性は、IDの方にゆっくりとライフルを構え、引き金を引く。

「グギャァァア」

ライフルから放たれた線香が、IDの体を貫き、鳴き声を上げた後にそのまま倒れた。

「あの体を一発かよ……」

IDは光となって消えた。
女性はIDの消滅を確認すると、長い金髪をなびかせ純を見る。
純は思わず身構えた、敵か味方か、その判別が出来ていない以上、自分よりも確実に強い目の前の人間から、すぐに逃げられるようにするために。
そして、純は意を決して、口を開く。

「お、お前は一体……」

「………」

女性は答えない。
沈黙が続く中、女性はゆっくりとライフルを構え、そして__。

「うぉっ!」

引き金を引き攻撃してきた。
純は間一髪で避け、攻撃を回避する。
しかし、ライフルを構えた女性の攻撃は終わらない。

「のわ! またか!」

間違いなく純を狙って攻撃をしていた。
純は避けるのに精一杯で、逃げる事まで頭が回らない。
なんとか、公園の遊具の後ろ側に逃げ込み、純は体勢を立て直す。

「な、なんなんだ……あいつ」

いきなり攻撃してきたところを見て、味方では無いと確信する純。
どうやって逃げるか策を考えていると、エレスが現れた。

「ねぇ、何!? あのSFアクションに出てきそうな、重装備の人間は!! めちゃくちゃ格好いいじゃない!!」

「今の状況わかってんのか!! 攻撃受けてんだぞ! お前も何か考えろい!!」

目をキラキラさせながら、エレスは興奮気味に話す。
そんなお気楽なエレスに純は声を上げる。
女性は、ライフルの引き金を引くのを止め、純の方に近づいてくる。

「撃ってこない? 今のうちか!」

純は勢いよく上空に飛び、家の屋根に飛び移りながら、公園から逃げた。

「はぁ……危なかった」

「何者だろうね~、それにしても人間がこれだけの科学技術を持っているなんて……」

「あいつのおかげでIDは倒せたけど……攻撃してきたよな……」

IDでは無い、人間の敵。
それは純が戦い始めて、初めての事であり、どう対処するべきか悩む事だった。

「なぁ、あいつがIDを倒してくれるなら、俺が戦う必要なくね?」

「何言ってるの、戦わないと生きれないよ?」

「はぁ……やっぱりか……なら、どうにかあいつと……ん?」

何かが飛んでくる音が聞こえ、純は後ろを振り向く、するとそこには空中を自由に飛び回りながら、純を追ってくる。

「ちょっ! 飛べるとか卑怯だろ!!」

空を自由に舞う相手に、大ジャンプで移動している純が早さで勝てるはずもなく、すぐに追いつかれる。

「やばい、おい! なんとかなんねーか!」

「う~ん、確かに君が捕まって、人体実験とかされたら面倒だしな……よし、神パワーで助けてあげよう!」

そう言うと、エレスは実体を表し空を舞う女性の前に立つ。

「ごめんね、ちょっとまぶしいよ」

エレスはそう言うと、両手を前につきだす。
すると、両手の前に光の球が出来激しく発光を始める。
そしてその光の球を女性に投げつける。

「……!!」

女性は咄嗟に避けようとしたが、避ける事ができず、光の球は女性に直撃する。
直撃と同時に、光の球は更に激しく発光する。
光の影響で女性の動きが止まる。

「はい、今のうち~」

「は? え……」

純がそんな様子を見ていると、突然エレスが実体の状態で目の前に現れ、純を抱える。
そして、その瞬間純の見ていた景色が変わった。

「は……ど、どこだここ」

「君のマンション近くの路地だよ」

「は?! さっきまで確かに……」

「これが神パワー……ワープさ!」

「なんで溜めたんだよ……後、こんな便利な能力あるなら、さっさと使えよ!」

とりあえず、純は装展を解き、元の姿に戻る。
エレスも実体から、いつもの半透明の姿に戻っていた。

「一体……何者だったんだ」

「あぁ! 是非また会いたいね!!」

「もう会いたくねーよ……殺され掛けたんだぞ」

家に帰る道すがら、純はエレスとあの女性の話しをしていた。
圧倒的な力の差、そして最近IDを簡単に倒せなくなって来ているという事実。
どうすれば良いのか、純は考える必要があった。

「なぁ……さっき言ってたパワーアップって、どんな感じなんだ?」

「ん、気になるかい? まぁ、確かに最近は勝てなくなってきてるからね~、ぷぷ~だっさーい」

「こっちは素人なんだよ! 普通は勝てるはずもねーんだよ!」

相変わらずのエレスの対応に、純は若干キレながら答える。

「ま、でも僕も最近のIDの強さは感じてたよ……冗談抜きで、そろそろパワーアップしないとまずいね……」

「そう思うなら、教えろよ」

「いや、今日はやめようよ。君、結構疲れてるだろ?」

確かに純は、戦闘の疲労と逃げた時の疲労で、いつも以上に疲れていた。
意外と見ているなと、純は一瞬関心したが、偶然だろうとすぐに考えを改める。
どうせ自分が面倒なだけだろう、そう思い純はエレスの言うとおり、今日は家に帰って休むことにした。

「ただいま……はぁ……疲れた」

「あ、じゃあ僕はここら辺で~」

エレスは家に着くと、そう言って姿を消した。

「自由な奴だな……突然現れたり、居なくなったり……」

玄関先でそう呟き、一人部屋の中に入る。
相当に疲れていた事もあり、純はそのままベッドに横になり、夢の中に落ちていった。

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