好き同士ってめんどくさい

Joker0808

第4話

「………」

隣では彩が、その映像を黙ってじーっと見ていた。

「もういっそ殺せぇぇぇぇ!!」

叫ぶ俺を他所に、ユートはニコニコ笑いながら俺の方を見れ言う。

「ほら! 君は彼女を愛しているじゃないか!」

「違うから! そういうんじゃ無いから! こ、これは……そう! こいつの人気が無くなった時に、目の前で燃やしてやろうと……」

「違うだろ? 君は彼女を愛するあまり、彼女の載った書物を買いあさり……」

「だからちげぇって言ってんだろ!!」

必死に否定する俺だが、映像はどんどん流れて行く。 そして、今は恐らく高校に入学して少し経った頃の映像だろう、彩の初ライブの時だ。
彩に内緒で、こっそりライブに行く俺の姿が映されている。

「ほら! こうして彼女を影から応援してるじゃないか!」

「これはたまたまだ!」

ライブの映像が終わると、再び映像は切り替わり、今度は学校の屋上の画面になる。
屋上では俺がスマホを片手にベンチに座り、彩の出演する番組やラジオを細かくチャックしている様子が映し出されていた。

「彼女の出演予定まで確認してるのに?」

「もう……マジでやめてくれ……」

俺は顔を両手で隠し、泣きそうな声でユートに言う。 こいつは一体何がしたいんだ……俺を羞恥心で殺すつもりか!
俺は恐る恐る隣の彩を見る。
彩は俺の方に背を向けていた。
あぁ……気持ち悪過ぎて引かれたか……。
元から険悪だった仲が更に険悪に……。

「どうだい! 彼の思いが伝わっただろ?」

満面の笑みで彩に尋ねるユート。
伝わるわけねーだろ!!
彩は俺の事を嫌ってるんだぞ!
こんなもん見たら逆効果だっつの!
映像が終わると、俺の体の拘束は解けた。
俺は心の中でそう思いながら、ソファーに座ってうなだれる。
ユートの問いに対し彩は……。

「し、ししし知らないわよ! ただ気持ち悪いだけよ!」

気持ち悪い……。
かなりショックだった。
いや、嫌われているのは知っていたが、本人から直接言われるとキツい。
彩の表情は見えないが、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしているに決まっている。

「じゃあ次はこっちの世界の私の番ね!」

「え!? ま、待ってよ!」

「スタート!」

「ま、待ちなさいって!!」

今度は別の世界の彩、アーネが笑顔でそう言い呪文を唱え始める。
すると、鏡は光を放ち始め、再びどこかの風景を映し出す。
映し出されたのは、恐らく放課後の教室だった。
教室には彩しかおらず、何やらキョロキョロと周りを確認している。

「やめて! お願いだから! って! な、なによこれ!! う、動けない!」

「ごめんなさい、でも貴方たちに互いの気持ちを理解して貰うには、必要な事なの!」

そう言っている間にも映像は流れて行く。
映像の中の彩は周りを確認した後に、一つの座席に座って顔を突っ伏す。
その座席は彩の席では無い。
席の並びなどを考えると、その席は……。

「お、俺の席?」

「いやぁぁぁぁ!! お願いやめてぇぇぇぇ!!」

俺がそう言うと、彩は顔を真っ赤にして叫び始めた。 映像の中の彩は幸せそうな顔で、俺の机に頬をくっつける。
いや、こいつ……何やってんの?
そんな事を思っていると、再び鏡の中の映像は変わる。
またしても教室だが、今度は冬のようだ、窓の外に雪が降っているのが見える。
しかも今度は教室に彩意外にもう一人誰かがいた。

「これって……俺か?」

鏡に映っている俺は、自分の机に突っ伏して眠っていた。

「だめ! 悠人! お願いだから見ないで!!」

必死に俺にそういう彩。
そうは言われても気になって見てしまう。
鏡に映っている彩は俺に近づきスマホを構えた。

カシャリ

スマホを構えた彩は、俺の寝顔をいろいろな角度から撮影し始めた。
そして、撮影した画像を見て何やらニヤニヤしていた。
いや……こ、これって……。

「ち、違うから! これは後でネットに晒してやろうと思っただけだから!!」

顔を真っ赤にして、俺にそういう彩。
しかし、映像はこれだけでは終わらなかった。
今度は誰かの部屋の映像が流れ始めた。
恐らく流れからして、彩の部屋だろうが……。

「ダメ! これは絶対にだめ!!」

彩は顔を真っ赤にさせて叫ぶが、体が動かないようで何も出来ない。
映像の中では彩が帰宅し、ベッドに横になっていた。 そして、彩は少し休憩した後、クローゼットを開けて何かを取り出す。

「なんだ? アルバムか?」

「ダメ! 悠人! 見たら殺すわよ!!」

殺すとまで言われ始めたが、俺は見るのをやめる気は無い。
俺も色々と恥ずかしい思いをしたしな……。
鏡の中の彩は段ボールの中に大量に入っているアルバムのような物を取り出すと、ページをめくり始める。 そのアルバムの中には……。

「お、俺の写真か?」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

恐らく隠し撮りであろう、俺の写真が数多くアルバムに残されていた。
それを見てニヤニヤする、鏡の中の彩……。

「……変態」

「うっさいわね!! 私の写真集めてたでしょ!」

「いや、俺のは市販品集めてただけだし……アレってほとんど盗撮……」

「あぁそうよ! 隠し撮りよ! 隙を狙ってパシャパシャ撮ってたわよ! 文句ある!」

「無いわけないだろ!!」

真っ赤な顔で逆ギレを始める彩。

「あんたこそ何なのよ! お前がアイドルなんて、世も末だな……って言ってたくせに!! 私の大ファンじゃない!!」

「だ、だからあれは……」

「言い訳とか男らしくないわよ~、さっさと言いなさいよ、大ファンです! サイン下さい! って!」

「言うかボケ! お前こそ、俺の机に座ったり、寝てる俺の写真撮ったり! どんだけ俺の事っ……」

俺はそう言いかけて言葉を止めた。
なんだか、これを自分から言ってしまうのは、なんと言うか負けな気がしたからだ。
それは彩も同じであろう、しかし俺も彩も気がつき始めていた。
俺たちが互いに両思いであることに……。

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