モテるのは俺の友達

Joker0808

第23話

「あ、すいません」

「あ、大丈夫で……」

帰ろうとしたところ、俺は入り口で女の子とぶつかってしまった。
そして、俺はその子の顔を見た瞬間、昔の記憶が頭の中でフラッシュバックするのを感じた。

「……島並……君」

「………村谷……」

長く茶色い髪、大きな瞳、そして俺の首元位までしかない小さな身長……。
俺はその子を見た瞬間、すぐにこの場から立ち去らねばと思ってしまった。
口からは彼女の名前以外何も出てこない。
何を話したら良いかも、何を話せばいいかもわからない。
そんなとき、俺の様子を席から見ていた高弥が俺の元に急いでやってきた。

「平斗、一体どうし……村谷さん……」

「あ、真木君もいたんだ……」

彼女は冷めた目で俺と高弥を睨んでいた。
それに負けじと、高弥もいつもは絶対にしないような冷たい視線を彼女に向ける。
そして、すぐに俺にこう言った。

「平斗、もうこの店を出よう、水がまずくなる」

高弥は彼女に向かってそういった。
皮肉だということに彼女は直ぐに気が付いたのだろう、俺と高弥を睨みながら言い返してきた。

「あら? なら出て行かなくても良いわよ? 私が出て行くから、アンタらと同じ場所でお茶なんてできないし」

「あぁ、それは偶然だね僕もだよ」

いつもは温厚な高弥が彼女にだけは怒りをあらわにしていた。
初白は少し離れた席から、俺たちの姿を見ていた。
高弥のいつもと違う雰囲気を見て、少し怯えている様子だった。

「平斗、もう行こう。彼女の顔は不愉快だ」

「あら、ありがとう私も貴方達の顔は不愉快で仕方ないの」

「そうかい……」

「高弥、悪いけど先行くわ」

「あ、あぁ……」

俺は彼女から目を逸らし、高弥にそう言って店を後にした。
その別れぎわ、彼女は俺に向かってこう言った。

「私は絶対、アンタを許さないから」

「……」

俺はそんな彼女の言葉に答えず、そのまま店を後にした。

「……まさか……またあいつと会うとはな……」

自宅に帰りながら、俺はそんなことを口にしていた。
元同級生、村谷千咲(むらや ちさき)を俺は嫌と言うほど知っていた。
だから、こそ俺は彼女と一言も口を利かなかった。
本当はもう会わないと思っていた。
もう会話をすることもないだろうと思っていた。
俺は自分でも気が付かない間に早足になっており、気が付くと既に家についていた。

「ただいま……」

「あら、お帰りなさい……どうしたの?」

「え? な、なにが?」

「顔色悪いわよ? 大丈夫?」

「あ、あぁ……だ、大丈夫だよ……」

家に帰るなり、母さんからそんなことを言われてしまった。
どうやら俺の顔色は相当悪かったらしい。
父さんにも竹内さんにも同じことを言われてしまった。





数分前、僕はこの世で最も嫌悪している女性と再会し、かなり不機嫌になっていた。
村谷千咲、僕は彼女に対して怒りの感情しか抱かない。
彼女が中学時代に平斗にしたことが今でも許せないからだ。

「あ、あの……真木先輩?」

「え? あ、あぁ! ごめんね、急に連れ出してビックリしたよね?」

「い、いえ私は全然……ところでさっきの女の人は?」

「あ、あぁ……ちょっといろいろあってね」

僕は一緒に喫茶店から連れ出した初白さんにそんなことを言う。
彼女と僕とはちょっとどころではない、たくさんいろいろなことがあり、今では憎むべき相手になっている。

「あの子が平斗の噂の元凶ってところかな……」

「え? そ、そうなんですか?」

「あぁ……だから、僕がこの世で最も嫌いな女の子だよ」

「そ、そうなんですか……」

初白さんと町の中を歩きながら、俺はそんなことを話していた。
詳しい話を初白さんにするべきか、僕は悩んだ。
しかし、僕は初白さんにこの話をするのはまだ早いと思っていた。
初白さんが信頼のできる人か、僕はもう少し見極める時間が欲しかった。
だから僕は話を逸らすために彼女にこう言った。

「さっきは少し不安な思いをさせただろうし、土曜日にお昼をごちそうするよ」

「え!? いや! そ、そんなの悪いですよ!」

「良いから、遠慮しないでよ、おいしいお蕎麦屋さんがあってね」

「そ、そうなんですか?」

そう僕に問いながら、彼女は僕の顔を見ていた。
早くこの子は僕に素の姿で話掛けてくれないだろうか?
猫を被っていることには気が付いているのだが……。

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