日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第59話

 


 現状の自衛隊の対外行動として、(元)バナスタシア帝国皇帝のバシナリウス八世の救出計画と、日本国内における脅威の排除、同盟国に対する軍事支援が挙げられる。


 まず、皇帝救出計画は第1護衛隊群がバナスタシア帝国方面に向けて展開中である。
 続いて日本国内における脅威の排除には、今のところ海上自衛隊の部隊が九州の南西方面で対処中である。




 現状一番の課題となっているのは、同盟国に対する軍事支援である。


 この世界に転移した日本にとって、同盟国はとても重要な存在である。例えば一番の同盟国であるオルスター王国は、食糧、魔法技術などを依存している。また、戦略物資の産出をおこなっている国も存在する。


 自衛隊という組織は、もともと日本国内で活動することを念頭に置いた組織であった。だが、この状況ではベロネ教圏の北上を招く結果となってしまう。しかし、日本との同盟関係を結んでいる国家のそのほとんどは元バナスタシア帝国の植民地か保護国である。


 こういった従属国は当然のごとく武力の保持を制限された。有事が起こればバナスタシア帝国に依存すれば良いだけの話だからだ。
 だがしかし、バナスタシア帝政が崩壊した現在、従属国から独立国になった国々だが、帝政の崩壊は突然の出来事で、数十年間続いてきたものであったから、帝国本体に依存していたものの代替が未だ至っていない。
 特に軍事関係に関しては、まず技術をすべて帝国側に奪われてしまい、人員も帝国軍に流れてしまっている。


 そして先の大戦によって帝国軍はこういった従属国の隊員が多く戦死した。帝国軍は帝国出身の者と従属国出身の者とで階級が大きく異なった。もちろんのことながら前線部隊として戦場に立つのは下等兵である。


 よってこういった軍事支援を日本が行わなければならない状況となってしまったのだが、自衛隊の展開能力不足が目立ってきていた。




 統合幕僚本部


「ではベロネ教圏北上阻止のための戦力投射方法について検討していきましょう」


 会議室には、各自衛隊からの派遣要員と統合幕僚本部の人間が集まっていた。


「まずオルスター王国に対してですが、これは従来通りに輸送艦を使用して陸上自衛隊の部隊を派遣するということで行きたいのですが、旧帝国構成国への部隊の投射方法が...」


「海自の輸送艦で我々の部隊を揚陸して進撃していくのはどうだろうか?」


 と陸幕防衛部員。防衛部は各自衛隊の作戦の立案や運用などを担当する。


「ですが現在稼働可能であるおおすみ型は2隻であり、2隻とチャーター船もオルスター王国の展開に使う予定なのですが。」


 と海幕防衛部員。陸自部隊の規模で言うと旅団規模の部隊派遣である。前回の派遣ではおおすみ型を2隻投入しても不足気味であった。


「では今回の派遣は規模を縮小するか、後回しにするしかないですかね?ベロネ教圏の北上阻止の方が急務であるでしょうから」


 しかし、ここで統幕の防衛計画課が反論する。防衛計画課は防衛力の整備などを担当する。


「オルスター王国に敷設した道路を使用してみてはどうでしょう。戦車とかの装軌のやつは船で運ぶとして、装輪車両は道路を走ることの負担が少ないですからね。工程の半分以上は陸路で行くことになりますね」


「確かに。ただ燃料がかなり要るな」


 メンバーはその提案に賛成を示した。なお、まだ特域を縦断する国道は敷設中である。なにせ、特域の中央部に存在する山地を貫くトンネルの工事が長期化している。


「石油は特域で生産を開始していますから、優先的に割り当ててもらいましょう」
「そうですね。しかし本土から王国までの車両輸送はどうしましょうか」
「民間船を使うしかないでしょうな」


そうして、オルスター王国に派遣する部隊の調整が行われた。






「では旧帝国構成国家への派遣はどうしましょうか」


続いては、日本からおよそ2000kmほど離れたクルシア共和国などの国家に派遣する部隊についてだ。


「まぁセレロン共和国の沿岸から上陸する感じでいいんじゃないですかね」
「でも内陸部に位置する国家に対してはどうしましょうか。すべての国家が我々に協力的になっているとは思えません。例えば、クルシアとセレロンの間に位置するペンティアム国は、現在もいわば反日政策を取っていますからね」


そう。帝国が現在日本に反発しているのと同じように、反日本の政策を取っている国も少なからず存在している。


「そうなると進撃するのにかなりの時間がかかりますな」
「ええ。ロクに舗装されていない道を800Km近く進むことになりますな」


各員がうなりを上げる。なぜなら自衛隊創設史上初となる大規模な部隊の海外派遣。前例のない事態にみな苦悩する。


「迅速な対応を求められてますからねぇ」
「すでにベロネ教圏は帝国軍内部まで浸透していますからね。武力侵攻も近いと王国は予想しているそうです」
「では、空自さんの輸送機を使うというのはどうでしょうか。持っていく装備はコウキとLAV、迫撃砲ぐらいでしょうから」
「そうなると、使うのはC-130ですかね」


航空・海上自衛隊が保有するC-130H/Rは、未舗装の滑走路でも運用できるように設計された機体である。実際に米軍が砂漠などに離発着している。
逆に、C-2は不整地運用は考慮されずに設計されているため、今回のミッションでは使用することができない。C-1はそもそも航続距離が不足している。


「それで行きますか。しかしながらC-130の着陸の際に誘導する人員をどう送りましょうか」
「...空挺しか方法がありませんね」


自衛隊が保有するヘリコプターは、航続距離は長くても1000Kmに達しない程度。往復で1500Kmほどの行程はクリアできない。


夜も深まる中、海外派遣についてこのほかにも、様々なことが議論された。

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