日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第56話

九州南西海域
防衛出動が発令したことによって、"日本国を防衛するための必要な武力"を行使することが出来るようになった自衛隊は、佐世保基地の護衛艦を追加で3隻出航させた。なお、海上保安庁は敵が明らかな軍艦であることが判明している以上、行動が制限されることとなった。


護衛艦あさひ
「艦長、司令部より武器の無制限使用許可が下りました」
「了解。対艦戦闘用意。目標前方24マイル(約40Km)の敵艦隊。先行した巡視船が撃沈されている。総員十分気を付けるように」
「艦長、兵装は何を使用いたしましょう?」
「速射砲を使う。何せ敵の数が多い。距離10マイル(16Km)まで接近。そこから、射撃を開始する」


対艦誘導弾などの高価な兵装は数・予算の関係から使用することは憚られるため、必然的に5インチの単装砲を使用することになる。


「撃ち方用意!」


護衛艦あさひ・さわぎりの主砲が船団に向けて旋回する。あさひに搭載されている主砲、62口径5インチ(127mm)単装砲は射程圏内に余裕で収まる距離だが、さわぎりに搭載されている62口径76mm単装速射砲は、有効射程ギリギリの射撃となる。
なお、船団への警告行動は巡視船が撃沈されていることから、必要ないと判断されたため即時射撃命令が下令されている。


「主砲撃ち方始め!」


127mmと76㎜の主砲がそれぞれ射撃を開始する。5インチ砲は発射速度が76mm砲に比べて1/3まで落ちているため、周囲には不規則的な轟音が鳴り響いた。




バナスタシア帝国海軍 第2艦隊


「艦長!敵艦が現れました!」
「何隻だ?」


艦長は未知なる国家"日本"の実力の程が気になるとともに、興奮していた。


「2隻です!」
「は?なんだ日本とやらは艦隊を持っていないのか?」
「しかし、それ以外の敵艦はまだ確認できていません」
「まぁいい。でもなぜそのような敵に第6艦隊はやられてしまったのだ?」


艦長は、日本の艦隊の残念さにがっかりしていた。根っからの軍人である彼は、純粋に日本の軍事力に期待を寄せていたのである。だからこそ、その落胆は大きいものであった。
しかしながら、その落胆は打ち砕かれることとなる。


突如、轟音と共に艦隊の左舷側の巡洋艦の船体に穴が開いたのだ。


「艦長!敵艦が発砲してきました!」
「ちっ。反撃を即座に開始!」
「しかし艦長。この距離はシーランドの連中でもギリギリの距離です」
「分かっている。でも威嚇程度は出来るだろう!第1艦隊に通達。飛竜部隊による対艦攻撃を要請してくれ」
「はっ!」


第2艦隊は航空戦力が無に等しい艦隊である。本来は竜母をしっかりと配備している部隊なのだが、今回の侵攻の際に、第2艦隊が制海権の確保が目的になったため、主力艦(高速巡洋艦・駆逐艦、その他補給艦)に比べてかなり鈍足な部類に入る竜母は後続の第1艦隊に追随することとなったのである。


「全体大砲発射!」


凄まじい轟音と共に、射線が通るすべての砲が火を噴いた。


「艦長!大砲の射程が足りません!」
「くそ!飛竜部隊はまだか!」


バナスタシア帝国海軍の軍艦は、シーランド共和国海軍向けに増強を図っているが、増強を図った艦艇は帝国海軍のシーランド共和国海軍に対する第7艦隊に優先配備されている。そして、第7艦隊はその重要任務の故に今回の作戦にも参加していない。基本的に第7艦隊は、定係港から部隊が離れることは無いからである。


「巡洋艦マドレーヌが撃沈しました!」
「このままだと全滅か...とりあえず、非戦闘艦は後方に下げろ。そして、主砲の射程圏内まで全力で前進だ。補助魔法の使用も厭わない」
「はっ!」


しかし、状況は一向に好転する気配がなかった。


「第2艦隊司令として命ずる。水中攻撃を実施」
「いいんですか?はまだ試験開発段階ですが」
「今使わないならいつ使うんだ!さっさと準備だ。艦の消耗率も激しい。シーランドの連中も対応しきれなかった奴だ」
「分かりました。水中攻撃準備!」




護衛艦あさひ


「艦長、ソナーより水中に未確認の物体を発見しました。しかし、潜水艦とは認められません」
「分かった。対潜戦闘準備。ここは異世界だからな。あらゆる可能性を想定しろ」
「アクティブ捜索はじめ。攻撃はあさぎりに一任する。」


両船内には、戦闘準備の号令と共に、再びブザー音が鳴り響く。


護衛艦さわぎり


「未確認の物体が本艦に接近。大きさ推定70m」
「艦長、対潜戦闘を行います」
「承知した」
「対潜戦闘、短魚雷攻撃始め」
「短魚雷発射始め!」


護衛艦右舷側のスカートが開き、3連装の魚雷発射管が姿を現す。


「短魚雷1番管、発射用意よし」
「撃て!」


担当員が、魚雷管の発射ボタンを押す。
魚雷発射管から発射された、短魚雷はそのまま大海に沈んでいった。


「短魚雷1番管発射終わり」
「了解」


ここに、あさひからの無線が入る。


『こちらあさひ艦長。本艦より北西約54海里に複数の飛行物体を確認。帝国軍側の航空戦力であると推測。対空戦闘の要あり』
「さわぎり艦長了解」


しかしながら、護衛艦さわぎりには多数の対空目標に対する攻撃手段はほぼない状態であった。艦対空誘導弾ミサイルはシースパローが8発という少なさで、残りは76mm速射砲とCIWSとなる。
76mm速射砲は、目標に対する有効性があまり認められなかったため、射撃を中止している。
一方の護衛艦あさひの5インチ単装砲は弾薬切れのため射撃続行不能となっている。また、護衛艦あさひの対空装備もVLS内に格納されているESSMが16発分とCIWSのみである。そのため、撤退を余儀なくされる。


だが、両艦の対空レーダーにはしっかりと"機影"が映っていた。

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