日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第55話

バナスタシア帝国 王城
「失礼します」
「入れ」
「陛下、大変申し上げにくいのですが」


侍従が焦った顔で皇帝がくつろいでいる私室に入ってくる。


「なに、申してみろ」
「では。昨日、バナスタシア帝国海軍及び陸軍飛行隊が反乱を起こしました」
「は?それは本当か?」
「はい。実際に、帝国海軍1・2艦隊の出撃命令が下っており、明日にでも出港するとのこと」
「ちっ。余計なことを。勅令だ。今すぐ出港を取りやめるよう伝達」
「それはちょっと出来かねます陛下。すでに軍務省が一部の海軍軍人と陸軍軍人に占拠されています」
「ということは軍務大臣は?」
「はい...」
「あいつも中身はいい奴だったのに...」


バナスタシア帝国は過去にも様々な軍部の反乱がおこってきたのだが、大抵の反乱で軍部トップが殺害されている。良識を持った軍人らが大臣を人質に取ることもあったのだが、そのような事例はごくわずかである。
そして、軍部トップが殺害されたの後の反乱軍は、大抵の場合政権トップ、つまるところの皇帝殺害へと動く。
なお、バシナリウス八世は件の軍務大臣と18歳ころから知り合いである。ひょんなことから知り合いになった彼とは、とても友好な関係を築いていたのだ。


「急いで近衛兵に連絡。厳戒態勢を整えろ」


そこに、王城に設置されているホットラインが鳴る。


「もしもし。バシナリウス八世だ」
「こちら在オルスター王国日本国大使館です。皇帝陛下、ただいまの状況をご存じですか?」


日本の大使は怒りを孕んだ声で皇帝に問いかける。


「ああ。我が国の海軍と陸軍の一部が反乱を起こしている」
『なるほど。一応申し上げますが、現在貴国の海軍艦隊と思わしき船団が日本国領海を侵犯しています。また、我が国の沿岸警備隊所属船が1隻撃沈されているのですが?』
「ちょっと失礼」


一旦皇帝は受話器を置く。その表情は厳しいものとなっていた。


「おい!出航は明日ではなかったのか!」
「申し訳ありません!」
「もうどうしようもないな。ここで死ぬ運命でしかならんのか」


ここで皇帝はある決断をする。


「もしもし。すまないな。もう私の手にはどうしようもない。なので、申し訳ないが私は日本に亡命を希望する」


王城内に激震が走る。


「陛下、なぜそのようなご決断を!」
「逆に私にどうしろというのだ!今の状況で私に軍の指揮権などあるわけないだろ!そして、確実に日本は報復に出るぞ!それで野垂れ死ぬくらいなら、いっそ脱出してやるわ!。安心しろ。帝国は捨てない。また新たに政府を樹立して再出発する。」


もともとバシナリウス八世はこの国の現況を好ましくは思っていなかった。前皇帝は汚職に汚職を重ね、この国の政治制度自体が腐敗しきっていたのだ。バシナリウス八世が幾分かは改善させたものの、根本から変えることは出来なかった。
そこに新たな国家"日本国"の登場である。それに戦争を仕掛けてしまったばかりに、国力はさらに低下。もうどうしようもなくなっていたのだ。


『皇帝陛下、本当にその決断でよろしいのですね?』
「ああ。そして現時刻を以て我がバシナリウス八世は帝国を脱出した時点で第13代バナスタシア帝国皇帝を退位する。そして、帝国政府はこの退位をもって閉鎖とする。これは私の勅令だ」


王城内は静寂に包まれる。


「最後にこの帝国に残りたい奴はいるか?別に怒ったりなどはせんから、手をあげろ」


これに手を挙げたのは誰一人としていなかった。仮にも周りにいるのは、長くの間帝国に尽くしてきた人間ばかりなのだ。バシナリウス八世は受話器を再び耳元に当てる。


「すまんが、ヘリコプターを数機よこしてくれないか?多分すぐに王城の周りを反乱軍に囲まれるからな」
『すみませんが、電話を日本政府に代わりますので、少しお待ちください』


大使館だけでは判断できない事案のため、首相官邸に電話は繋ぎ直される。


『もしもし。内閣総理大臣の有野ですが』
「バシナリウス八世である」
『これはどうも。一応話は聞いています。というか聞いていました。亡命をご希望とのことですが、本当ですか?』
「ああ。この国を再建する気力がもう私にはないな」
『そうですか。では自衛隊を王城に向かわせます。できれば無条件降伏していただきたいのですが』
「分かった。その代わり反抗してきたら別だが、できれば殺しはやめてくれ」
『承知しました。もちろん自衛のためなら武器を使用いたしますよ。あと、これからは自衛隊参謀トップに代わります』


その後、統合幕僚長と話をした皇帝は、王城内の人間に指示を出す。


「これから、日本軍が王城の脱出作戦を実施してくれるとのことだ。よって、日本軍が到着するまでは王城内の敷地に反乱軍を立ち入らせるな。なんとしてでも守り抜いてくれ。半日もすれば、日本軍が到着するからな」
「はっ!」




日本政府
「有野さん、やめといたほうが良かったのではありませんか?」


経産相が有野総理にこの対応が妥当かどうかの疑問の声を上げる。


「正直言って、私も良い判断ではないと思っているよ。しかし、皇帝は救助を求めてきた。そして、彼の代わりに即位する皇帝が必ずとも親日派ではない。というか、間違いなく反日派だろう。皇帝が話すには此度の我が国への対応が反発を招いたとのことだからね。
それなら、我が国に有利に動いてくれることが確約されている政府を支援した方が良いと思ったんですよ」
「しかし、これが囮の作戦の可能性も否定できませんよ?」
「そうなんだよなぁ。一応自衛隊に救出部隊の援護もきちんとつけて欲しいんですがね」


これに統合幕僚長が説明する。


「総理、一応救助ヘリの他に、戦闘ヘリも出撃させるように今手立てを模索しているところです。具体案といたしましては、一つ目に長距離飛行が出来るV-22オスプレイと上空で対地装備の戦闘機を向かわせる案です。しかし、十分な対地制圧力がないことが懸念されます。続いて、二つ目の案は、出動可能なヘリコプター護衛艦を周辺海域まで派遣して、護衛艦から救助ヘリ及び戦闘ヘリを発進させるというものです。しかし、これは現場海域までの派遣に時間がかかりますね」


これに、国土交通副大臣(元2等空佐)が反論する。彼は、戦闘機(F-4EJ)のパイロットを経て最終官職は航空幕僚監部防衛課である。


「一つ目の案はちょっと無理じゃないですか?V-22オスプレイはまだ導入間もない機体であるのと、戦闘機の航空支援はあまりにも非現実的だと思うのですが」
「ではやっぱり護衛艦派遣ですかね?とりあえず統幕の方でさらに作戦を協議したいですね」
「とりあえず、作戦は早々に決定したい。兎にも角にも急いでくれ」



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