日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第45話

房総半島沖上空
「あと20分で投下だ。投下の態勢に入るぞ」


トルマン王国の翼竜は高度を下げながら、翼を羽ばたかせた。大きな風切り音と共に、翼竜は400kt近くまで加速する。翼竜は胴体の下に"何か"を抱えながら、夜にきらめく首都圏へと羽ばたいていく。


「こちらMARCH01。目標地点まで10マイル。しかしレーダーに反応はない」
『対象はロスト。繰り返す。対象はロスト』
「...了解。低高度飛行の許可を要請する」
『許可する。高度3000ftまで降下せよ』


防空識別圏内で目標を見失うという、イレギュラーの事態に、DC(防空指揮所)は低空飛行を命じた。
40年ほど前に起こったベレンコ中尉亡命の際に露見した日本の防空識別圏を脆弱さが再び証明される事態を自衛隊は望まなかった。そのため、必死にならざるを得なかった。
皮肉にも、双方のスクランブル対応がF-4だったが、現代のF-4はF-15並みにルックダウン能力が強化されている。


しかし、通常の10分の1ほどの高度に降下したF-4EJ改ではなく、東京湾沖で訓練航海を行っていた最中の護衛艦きりしまが目標を探知した。しかし、目標はすでに日本の領海上空を飛行していた。
残念ながら国民保護等派遣の発動なども為されていなかったため、きりしまは何も出来なかったため、目標の座標を共有することしかできなかった。


そして、トルマン王国空軍所属の翼竜は首都東京の上空にて3つの物体を投下した。


新宿
真夏の夜の新宿は明るく光る高層ビルが立ち並び、繁華街には多くの人がにぎやかに過ごしていた。
金曜日であったため、1週間の仕事を終えたサラリーマンたちが集結していた。


突如、東京の空が明るく光りだす。まるで太陽が出てきたような明るさに街は混乱した。
その明るさはさらに強くなっていく。


そして明るさが最高潮に達したころ、周辺の建造物や道が突然炎を上げる。
人々はその突然の事態に戸惑いを隠せなかったが、本能に従ってその場から逃げ出した。
だが、新宿はあらゆるところで炎が上がった。そのため人々は地下や、炎が上がっていないビルなどに避難をした。しかし、逃げ遅れたり、火が体に引火して火だるまになる人もいた。


数分もしないうちに、炎に包まれた新宿に東京消防庁の消防車が到着したが、数がわずかであった。これは都内十数か所で同様の被害が確認されていたからだ。
新宿では消防車によってすぐさま消火活動が開始された。
空から降ってきた燃焼していた物体は、なかなか鎮火せず、さらに被害は拡大していった。


この情報はすぐさま官邸に入り、緊急の閣議が開かれた。






一方F-4EJ改はきりしまとの連携の元、目標をレーダーで探知、接近していた。
乗員は中部航空方面隊に警告射撃許可を申請。すぐさま警告射撃許可が下った。なお、すでに日本領空に侵入していることや、対象が航空機ではないことを鑑みて、警告射撃が許可されたが、撃墜が今の時点では国民に被害が出てないため、出来ないのが日本の現実である。
まだこの時点では中部航空方面隊などに東京が"爆撃"されたことは伝えられていなかった。




目標に近づいたF-4EJ改は目標の前後に付き、前方のF-4EJ改がロックウイングを行う。地球でのロックウイングは「我に続け」という意味だったが、F-4EJ改の乗員はこの意図が伝わるとは思っていなかった。
しかし、想定外だったのは、"生物"に人が乗っていたことだった。
そこに無線が入る。


『COC(航空総隊作戦指揮所)より入電。当該機が東京上空でなんらかの爆弾ないしはそれに疑似したものを投下した疑いあり。よって当該機に対して強制着陸をさせよ。場合によっては領海海上においてのみ実弾射撃を許可する』
「MARCH01,Roger.しかしまいったな。まさか本当にAAMを撃てることになるとは」
「本当になぁ。でもあんなにでかいものが羽で空を飛ぶってすげえな」
「そんなことを言ったら、戦車を運べる輸送機ってなんだろな。とりあえず離脱だ。こんな水戸の上空で撃墜するわけにはいかんし。太平洋に追い出すぞ」
「りょーかい。無線で2番機に伝えときます」


「太平洋に出たことを確認。さっさと撃墜するか?」
「いや、やめておこう。無駄な殺傷は良くない。再び領空侵犯をするなら話は別だが」
「燃料がそろそろ半分だな。増援上がったか?」
「百里からファントムが2機上がりました。あと三沢のF-2も2機」
「おけ。F-35は結局十分数配備されなかったな。それで移駐もおじゃんになったし」
「仕方がないんじゃない?まぁ今後の戦闘機どうするのか気になるけど」
「現段階じゃ国産しかないけどな。国産するには予算が」
「やっぱ最大の敵って財務省よな」


適当な会話をしながら飛行するF-4EJ改だったが、パイロット2名(複座のため)は飛行歴10年という大ベテランである。そろそろ現役から退く頃合いでもあった。
しかし、そんなに世界は甘くはなかった。


何の前触れもなく、翼竜は急転回を行った。


「おいおい。旋回が複葉機並みって」
「射撃用意」
「馬鹿か。東京に向けてミサイル撃つのはちょっとな?左方に回り込んで機関銃で対処するぞ」
「はい了解。2番機は後方で引き続き追跡を」
「伝達しておく。じゃ行きますか」
「はいよ」


F-4EJ改は翼竜の編隊の左方後方に位置取るように速度を落とし、僚機も同士討ちを防ぐために、高度を上げて後方に下がった。
「あと5マイルで陸だ。とっととけりをつけるぞ」
「了解。FOX3!ファイア」


F-4EJ改に装備されているJM61A1 20mm機関砲が前方の敵に火を噴く。ただし、今はまだ警告射撃にとどめている。撃墜した後に陸地に墜落されては大惨事にならざるを得ないからだ。


「よし。目標転針。再び太平洋方向に進行」
「DCに撃墜許可を取ってくれ」
「入間DC,Request permission to shoot down the target」
『OK.全武器の使用を許可。ただし本土方面の射撃は控えよ」
「Roger.ミサイルぶっ放すか」
「いいんじゃないか?せっかく目標が高温の生物で全武器使用許可だし」
「どうせこいつの退役と共に俺たちもパイロット終わりだ。乗っている奴には悪いがな」
「2番機に通達。AAM-3の発射。ターゲットを左から1,2,3と呼応。我々はターゲット1,2に射撃を行う」
『了解。健闘を祈る』
「じゃあ撃ちますか。Target Look. MARCH01,FOX2」


F-4EJ改2機から3発の90式空対空誘導弾(AAM-3)が発射された。赤外線誘導により3Kmほどの距離を瞬時に飛翔したAAM-3はすべて目標に命中した。


「目標を撃墜。繰り返す。目標を撃墜」
『了解。これにて対領空侵犯措置を終了する。基地に帰還せよ』
「Roger.01,Mission Complete.RTB」
『02,Copy』


2機のF-4EJは百里基地への帰路をたどった。後続の集団が万が一いたときや、対象が復活する事態に備えるために、F-2と後続のF-4EJ改が2機づつCAP(戦闘空中哨戒)に就いたが、領空侵犯を探知できなかったため、早々に帰還した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品