日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第41話

陸上自衛隊(と米海兵隊)は破竹の勢いで前線を押し上げていた。
機甲兵力によって、1日あたり5Km強の進撃をしていたのである。
逆に言えば5Km強の進撃しかできないのは、自衛隊が律義に敵の歩兵部隊を撃破していっていることと、敵軍にいちいち降伏勧告などを行っているからである。
これが米軍ならば、


「別に敵なんて戦車とかで轢き殺していけばいいんじゃね?」


などと言ったであろう。しかし自衛隊である。日本というお国を考えるとそんな芸当をやるわけにはいかないのだ。


陸上自衛隊第21師団司令部


「司令、捕虜からの聞き取りにより敵の司令部...というよりバナスタシア帝国皇帝が戦場に来ているとのことです」
「なるほど。だがなぜ後方で物事を決める立場の人間が現場に来ているんだ?」
「よくわかりません。しかし、これを襲撃するなりするのも一つの手かと」
「う~ん。でも敵軍は魔法を使えるようだしな。現に特科の射撃が通用しなかったという報告も来ている」
「確かに。まぁ普通科の攻撃はいまのところ防御されたという報告は受けていないことですし、試しに狙撃班でも投入してみますかね」
「投入することも検討しよう。ただ潜入方法をどうするかだな」


司令部の運用部では今回の戦争について、今後の展開を協議していた。


「次に。現段階においてはまだオルスター王国領での戦闘ですが、バナスタシア帝国領でも戦闘を継続しますかね」
「海外派兵といわれかねないな。だが、このままでは日本のジリ貧でしかない。それならば我々が処罰されても自衛隊員のことを考えれば戦闘を継続した方が良いはずだ」
「いっそ件の皇帝を脅して終戦まで持っていくとか」
「いいかもしれんな。もし投入するなら精鋭でかつ夜間だな。幸い我々日本人には魔力がないようだし」


今の"魔力がない"という発言は先日オルスター王国での実験によるものである。
我々日本人にはこの世界の人間とは違い、体内に魔力を保有していない。そのため魔力が行使できない。
しかしオルスター王国で様々な試験を行っていると、この世界の警戒装置、つまるところの侵入レーダーに日本人は反応しなかった。
この世界でのレーダーは魔力を検知して通報するシステムである。そのため魔力を保有しない日本人にはどこ吹く風である。
魔力を保有しない人間はこの世界でもごくわずかに存在するらしいが、特殊作戦などには用いられない。なぜなら魔法が行使できなければ、この世界では動く的らしい。いくら肉体を強化しても、筋力などを一時的に向上させる魔法もあるからだ。


話を戻すと、この世界において日本人は探知されない。正確には魔力に反応するレーダーに限定されるのだが、魔力に反応する方法以外はいまのところ発案されていないらしい。
また、オルスター王国によればNVD(暗視装置)に値する装置も存在しないとのこと。一定範囲内の生物を探知する魔法はあるので普段はそれで夜間警備を行うという。


これらの実験はオルスター王国で採用されているシステムであったが、このシステムは三大強国というこの世界の3つの軍事強国のうち、シーランド共和国から導入したものだという。
この三大強国はそれぞれ陸・海・空の分野に秀でている国のことを指す言葉である。シーランド共和国はその名の通り世界でトップクラスの海軍を誇っている。




もちろん国防の要である防衛システムを明かすからには、日本側も対価を要求された。
そこで、政府上部は大きな決断を下した。陸上自衛隊で使用されていた武器の退役したものの一部をオルスター王国に譲渡することとなった。
まず、第一弾として74式戦車の供与が決定した。これは、財務省より予算の大幅の増強が認められたため、現存の74式をすべて10式ないしは16式に置き換える見通しが立ったからである。
また、90式の能力向上型の開発も承認された。
そのため、全国に配備されている74式が退役となることが決定した。その中から、一部の状態の良いものをオルスター王国に供与する。
しかし、オルスター王国に過剰な戦力を保有させるのも不安であるため、供与数は制限するとした。また、弾種は当初は全弾種の供与が予定されていたが、政府上層部がオルスター王国陸軍の反逆を恐れて、最終的に倉庫に眠っていた、91式HEAT-MP(多目的対戦車榴弾)と演習弾に決定された。APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が供与されなかったのは、HEAT-MPでもこの世界では十二分な能力を持つからであるのと、日本の優位性を保つためであった。


これに合わせて、オルスター王国陸軍の兵士の志願者に戦車教育を施すことになる。しかし、自衛隊の枠組みに入る以上、新隊員教育課程よりみっちりと自衛隊の基礎を積まされることになった。




そして、その戦車の供与が決定されてる頃、バナスタシア帝国に対して水陸機動団が投入されることが防衛省にて決定された。

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