日本は異世界で平和に過ごしたいようです

こああい

第39話



バナスタシア帝国


「オルスター王国に対する兵站破壊ってそういえばどうなった?」


バシナリウス八世は会議の場で自身の提案した作戦の進行状況を尋ねる。


「あ、その、えと」


軍務省の担当者は顔色を悪くする。


「もういいよ。正直に言っちゃって。どうせ失敗したんでしょ?」
「はい。そうです」
「なぜ失敗したかわかるか?」
「詳しくは。なにせ出撃した飛竜部隊のすべてが帰還しておりません」
「ちっ。オルスター王国に対空能力なんぞ皆無に等しかったはずだ。ニホンとやらがオルスター王国に対空火器の技術を持ち込んだか、供与したか。とにかくこちらの情報が漏洩していないよな」
「いやそれが。対空火器を装備した飛竜部隊だったのでおそらくこちら側の空対空能力は知られたかと」
「なぜ対空火器を装備していった?秘密裏に行う作戦において必要性はないだろう?」




「とりあえず現場担当者処分な。ところで軍務省。交戦準備はあとどれくらいで整う?」
「1週間ほどかと」
「わかった。早急に合戦をして制圧なりしてくれ。あと私も視察に向かおう。戦術にあやまりがあればその都度修正していく。必ず勝ちに行くぞ」




1週間後


「全軍に告ぐ。これより我々はオルスター王国を占領しに行く。決して下がろうとするな。前進あるのみである。諸君らの健闘を祈っている」
「全軍前進開始。戦車部隊及び飛竜部隊は先行せよ」


総員で10万を超すであろう軍勢が前進を開始する。
先行する戦車部隊の陰では歩兵部隊が身を隠す塹壕なども彫られていた。


「ふむ。今のところ敵襲はないな」
「まだオルスター王国ではないですからね」
「それもそうか。今日中に拠点の完成、そして戦闘は無理をするな。確実に弱点をつけ」
「承知いたしました」


見晴らしの良い丘陵で観察をしていたバシナリウス八世の一行は戦術を再確認し、作戦の立案へと戻っていった。




「敵勢力を国境より20kmほど遠方に確認した。なお飛竜部隊の大半が未帰還の模様」
「やはり敵の防空能力は秀でているようだな。我が国はやっぱり陸上勢力で攻める方がいいな。敵もまだ陸上勢力を展開できていないことから、航空戦力が優秀であろう」
「やはり陸上戦力で攻めましょうか」
「そうだな。あと海軍に通達。敵の前方と後方から挟み撃ちに航空戦力を投入、ついでにマスニカ半島の海域制圧も命令」
「了解いたしました」




陸上自衛隊 第21師団残留部隊


現在残留部隊では緊急展開が行われていた。
なぜなら、定期的に行われていた哨戒機による偵察によりバナスタシア帝国軍が本格的に行動を開始したとの情報が入ったことと、敵航空戦力の再三にわたる襲撃があったからである。
普通科部隊は散開をし、高射特科は残り少ない残弾を吐き出しながら迎撃を行っていた。野戦特科は2門しかないFH-70を稼働体制にしていた。


「残留部隊より21師団司令。現在敵航空戦力による攻撃を受けている。また、敵陸上勢力も行動を開始している模様。応援を求む」
『21師団司令了解。普通科部隊を展開する』
「了解。弾薬類の供給も頼みたい」
『了解』


陸自の部隊があたふたしているころ、オルスター王国陸軍は防衛態勢を築き上げていた。
もともとオルスター王国陸軍は全部隊が仮想敵国をバナスタシア帝国として訓練されているので、一部部隊を除き全部隊が集結していたのである。
兵站は地元民の協力を得ていたり、輸送部隊を動員するなどをして比較的余裕があったのである。(陸自比)


そして翌日。
敵の航空攻撃が止んだころ、バナスタシア帝国陸軍が国境を越えてオルスター王国への進行を再開した。
対して陸上自衛隊は2個普通科中隊しか追加展開をすることが出来なかった。特科・戦車隊の弾薬はひとまずは補給をされたものの、決して余裕のある数ではなかった。


『オルスター王国陸軍が前進を開始した。すでに塹壕の作成は済んでいるとのこと』
『了解。普通科は支援に徹せよ。機甲科は敵機甲兵力の早期破壊、特科は敵後方の攻撃を担当せよ。引き続き兵力の投入を続行する』


第21師団の司令部は本格参戦を避けることを決定した。圧倒的に兵力が不足している現在において闇雲に行動することは望ましくはなかったからだ。






「普通科の諸君らに告ぐ。我々はオルスター王国陸軍の前進支援に徹することとなった。我々は数少ない兵力である。そのため無理はするな。生きて帰ってこい。いいな。では全員前進」


残留部隊の普通科の長である第60普通科連隊長は戦場に赴く普通科隊員に対し訓示をかけた。連隊長も内心では不十分な火力で出陣することを反対していたが、日本とオルスター王国との安全保障条約上、出撃をしないといけないため、出撃命令が下った。命令は命令である。苦渋の決断によりなけなしのWAPC(96式装輪装甲車)とともに支援戦闘を行うこととした。


きちんと整列をしたWAPCがエンジン音を上げながら各自の持ち場に迅速に展開していく。


一方、オルスター王国陸軍はバナスタシア帝国陸軍に比べて旧式な装備であるためか、決して攻勢に出ようとはせず、防戦に徹していた。
もともとオルスター王国陸軍がまともに勝利できるわけがなかった。使用する武器を見ても、歩兵装備で単発式小銃を使用する王国陸軍に対して、帝国陸軍は連発式小銃を使用していた。また、帝国軍は物量・技術の面でも王国軍を圧倒していたのである。


戦場では、帝国陸軍による一方的な戦いが繰り広げられていた。帝国陸軍は機関銃を装備しており、手回し式・自動式が混在していたものの、戦場に弾幕を張っていたのである。


しかし、陸上自衛隊は普通科を支援戦闘に出した。普通科の装備する89式小銃とMINIMI(5.56mm機関銃MINIMI)はこの戦場において最高の瞬間火力を誇った。
運用は、進撃してくる敵兵に対して弾幕を張り進撃を阻止するというもので、弾薬の数に不安があるが自衛隊ならでは(?)の運用方法ではあった。


効果はてきめんで、前線の維持はもちろん、進撃しようとする敵軍の意欲を削ぐことにも成功していたという。

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