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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

45話

 あの事件から一週間ほど経ち、城の修繕も含め復興は八割方完了していた。やはり、土の魔法を使える高ランクの冒険者達が力を貸してくれているのが大きい。まあ、これも日ごろから積み重ねたトラン皇子の人徳あってこそだろう。ブラッドは城の作り直された階段を踏みしめながら取り留めのないことを考える。すると、少し後方を歩いていたシンシアが質問を口にする。


「先生、何故城に来たのですか?私の怪我もほとんど治りましたし今日迷宮都市に帰るという話だったと思うのですが……」


「ああ、今日帰るつもりだぞ。だが、まだやることが残っているからな」


 シンシアは思い当たることがないのか小首を傾げている。そんなシンシアを尻目にノインがさも当然というような口調で答える。


「ここに来たのは褒美をもらうために決まってる。成り行きだけど私たちは帝国を救ったも同然。帝国人なら爵位でも領地でも貰えた手柄。私たちは部外者だけどこれで何もなかったら今の皇子が皇帝になった時に色々不都合がある」


 ノインの知的な発言にシンシアは小さな歓声を上げ尊敬の眼差しを向ける。ノインは気分がよくなったのかしたり顔を浮かべていた。ブラッドは呆れ混じりの視線をノインに送るが顔を覆う面のせいでそれは阻まれる。そんな当たり障りのない雑談をしていると最上階にある皇帝の私室についた。軽く数回扉を叩くと扉が内側から開く。扉を開けたのは純白の法衣を身に纏っている女だった。


「セレンさん!もしかしてセレンさんも竜の撃退の件で呼ばれたのですか?」


「ええ、その通りよ。陛下、いやまだ皇子だったわね。その皇子の使者の方が今朝やってきて褒美を与えるから城に来てくれっていうものだから忙しい合間を縫ってきたのよ」


「そう言ってくれるなよ、セレン。私もこのタイミングで呼び出すのは悪いと思っているんだ」


 部屋の中から凛とした男声が聞こえてくる。セレンの肩越しに中を見るとトラン皇子とコルネット皇女が立っていた。


「あら、そう思っているのなら形のある誠意を見せて欲しいものね」


 その言葉にトランは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「はいはいセレンさん、その辺にしてあげてください。兄様もブラッド様たちも困っていますよ」


「そうね。新皇帝様をからかうのもこの辺にしときましょう」


 コルネットの鶴の一声で窮地を脱しトランは安堵の表情を浮かべる。そのやり取りに疑問を覚えたのかシンシアは部屋の中に歩を進めながら隣のセレンに尋ねる。


「セレンさんはトラン皇子と仲が良いのですか?」


「そうねー。一口にそうとは言えないけどあの二人が幼少の頃少しの間だけ教育係のような関係だったの。だから私には強く出られないのよね」


「え!あの二人の教育係ってセレンさんって何さ……」


「その先を言ってはダメよ」


 妙に迫力のある笑みを浮かべながらセレンはシンシアを咎める。シンシアもその圧を感じ取ったのか口を噤む。


「雑談もそのくらいにしてくれ。ここにいる全員に悠長にしている時間はあまりないからな。トラン皇子、話を進めてくれ」


「そうするとしよう。皆に集まってもらったのはもうわかってると思うが此度の褒美を与えるためだ。各自希望する者はあるか?」


 トランの呼びかけにセレンが率先して答える。


「私は教会への寄付金の増額を希望するわ」


「それでいいのか?元々私が皇帝になれば少なくとも今よりは教会を厚遇するつもりだったぞ」


 実際その通りである。全皇帝が倒れてから第一皇子が実権を握っている期間は神国や王国勢力に対する圧力は強かったがこれからは友好国として両国と付き合って行くだろう。よって、この場の要求としては謙虚と言えるだろう。


「私自身もう欲しいものはないもの。それに今回の件を解決したのは私じゃなくこの子たちだから」


 そう言ってセレンは二人の少女の肩に手を置く。


「そうか。セレンがそう言うならそうしよう。それで二人はどうだ?」


 シンシアは腕を組み思案顔を浮かべる。その顔を見たノインがシンシアに自分の案を耳打ちすると彼女は目から鱗が落ちたような表情を浮かべ、その意見に同調した。


「トラン皇子、私たちは武器は武器を希望します。それもできるならば竜に傷をつけることも可能なほどの業物を」


「……そうか。それが君たちの望みならば叶えよう。付いてきてくれ」


 そう言うとトランは部屋の奥に向かって歩き出し、それ以外の者もその背に追従する。移動する中ブラッドはノインの横顔を仮面越しに盗み見る。相変わらず感情の読めない表情を浮かべている。以前のノインは武器に頼ってまで強くなろうとはしなかった。おそらく周りにいる強いものたちは攻略者ばかりであったが武器のおかげで強いというわけではなかったからだろう。


「おい、ノイン。どういう風の吹き回しだ?何故強い武器を求めた」


 ブラッドはノインの耳元の空間と自分の口元の空間を繋げ囁く。そして、返事を受け取るため先ほどとは逆の関係の空間を繋げた。


「ゆっくりと強くなるわけにはいかなくなった。ただそれだけ」


 そう言ったきりノインは口を噤む。ブラッドはその言葉から真意を探ろうとするが答えは出なかった。だが良い心境の変化かもしれない。今まで組織に流されるままだったノインがなりふり構わず強くなりたいという欲求が生まれたのだから。兄代わりとしても師としてもうれしい限りだ。ブラッドは足を動かしつつも感傷に浸る。ブラッドが喜びの感情に溺れている間にどうやら目的地に着いたのか先頭のトランの足が止まる。目の前には何の変哲もない壁しかないがその一部にトランとコルネットが手を置くと突如幾何学模様が浮かび上がる。


「さあ、この先だ」


 そう言うと皇子達の姿は壁の向こうに消えていく。どうやら魔法的な仕掛けが施されているようだ。残りの四人も彼らに続いて未知の空間に踏み出していった。





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