魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
40話
セレンはシンシアのいる建物の屋根によじ登り、凛とした通る声で冒険者たちに呼びかけた。
「聞け!帝国の冒険者達よ。目の前にいる竜に攻撃せよ。今は理由は聞かず従っていなさい」
周囲にいる冒険者たちは互いに頷き合い大気を揺らすほどの雄叫びで答える。そして多種多様な魔法を雨あられと繰り出した。
「中距離以上の攻撃手段がないものは魔法を使える仲間を守りなさい!黒い液体のようなものが変形して足元から攻撃してくるわ。他の攻撃手段があるものは光を放っている方の体を狙いなさい。黒い方はいくら攻撃しても瞬時に再生するわ」
冒険者たちはその指示に従い三人、もしくは四人程度で固まり守るものと攻撃する者に分かれる。シンシアがざっと確認した限りではそのパーティーが三十組近くいたので百名以上の冒険者が迅速に集まったということになる。帝都の冒険者ギルドには何回も足を運んでいるがここまで素早く行動でき、尚且つ強大な相手にもしり込みしないような勇敢な人たちには決して見えなかった。そんな気持ちを抱いていると隣のセレンがくすりと笑った。
「ろくでなしにしか見えなかった冒険者たちが何でこんなに有能なんだろうって思ってるでしょう?」
シンシアは心中を言い当たられ心臓の鼓動が高鳴る。否定しようとしたがセレンの確信めいた表情を見て言い訳は通じそうにはないと悟った。
「……はい、正直に言うとそう思いました」
「分からないでもないわ。普段の帝都の冒険者達はお世辞にも格好がいいとは言えないもの。でもね、そんな彼らもこの街を、この国を愛しているのよ。特に等級が高い人たちはね。そうでないならこれから国があれるかもしれない帝国には残らないもの」
セレンの表情には晴れやかな笑みが浮かんでいた。その美しい表情にシンシアは思わず見とれてしまった。冒険者たちの愛国心という強い絆を彼女が羨んだからかもしれない。そんなシンシアの心中をよそにセレンは語り続ける。
「そしてそろそろ現れると思うわよ。帝国最強の冒険者がね」
セレンはその人物が来るのを確信しているようだがシンシアはその意見には懐疑的であった。帝国最強ということは攻略者なのだろう。それほどの人物が凡庸な冒険者たちよりも到着が遅いとは思えないのだ。案の定その悪い予想は当たったようで数分ほど経ってもその人物の姿は影も形もなかった。
「どうして………ウェントスなら必ず来るはずなのに……」
絶望的な表情をセレンは浮かべている。どうやら時間稼ぎを最初に提案したのはその人物が来ると信じていたからのようだ。だが、その人物は現れない。この戦闘の裏で何か恐ろしいものが蠢いているのではないかという不安がシンシアの脳裏に過る。
「たぶんそれはにいが関係してるかも」
二人の背後から不意に横やりが入る。二人は勢いよく振り向いた。そこには見慣れた少女が立っていた。
「ノイン、何時からいたの?」
「ほんの少し前から。いつまで経っても動かないからどうするのか聞きに来た。それで気になる話してたから……」
「それであなたのお兄さんというと<虚空>のことよね?彼が何か言ってたの?」
「今日<天壊>のところに行くって言ってた。何してるかは知らないけど。この状況で来ないなら二人ともこの近くに居ないと思う」
「そんな……じゃああの竜を倒せる人は……」
セレンは強く奥歯を噛み締めた。それはどうしようもない現実の重さに押しつぶされているようだった。そして、無情にも竜が動き出す。
「中々楽しめたぞ、帝都の冒険者たちよ。だが、いつまでも戯れに付き合うつもりはない。我に本気で歯向かうのならその資格を見せよ!」
そう言うと竜の周囲には無数の光の球が浮かんでいた。その数はシンシアの出した光球の百倍はあることは明らかだった。
「<竜光/ドラゴンライト>」
浮かんでいた光がまるで物凄い速度で冒険者やシンシアたちに飛んでいく。それを躱そうと全員が動き出すが光がまるで生き物のように動き追尾する。その精度の高さは恐ろし程高くほぼすべての人間はその攻撃を受けてしまった。シンシアたち一部の高位冒険者たちは辛うじて軽症で済んだが半分以上の人間が地に付している。
「これは不味いわね。竜への対応策も浮かんでないのに大量の怪我人万事休すね」
セレンは諦めの滲んだ表情で力なく笑う。
「まだ終わってませんよ」
「ん。まだ終わってない」
「あれを見てください」
シンシアは竜の方を指さす。
「竜の体から出る光の量が減っています。おそらく無限に魔力を作ることはできてもそれを常に保っているわけではないんだと思います」
シンシアの言を聞いて竜の方を見ると確かに先ほどよりも輝きが小さくなっていた。そして、シンシアの仮説を裏付けるように竜の輝きが増していく。
「でも、もう元に戻ってしまったわ。あの隙を突きたいならあの人数に放ったほどの大魔法を使わせなければならないわよ」
「大丈夫です。案はあります。成功するかは分かりませんが」
「でも何もしないよりはマシね。その作戦教えてくれるかしら」
「もちろんです。二人の力がなくては成り立ちませんから」
そう言うシンシアの瞳には諦めのような悲観的な感情は一切見えなかった。セレンは自嘲的な笑みを一瞬浮かべ少女に明暗を託した。
「聞け!帝国の冒険者達よ。目の前にいる竜に攻撃せよ。今は理由は聞かず従っていなさい」
周囲にいる冒険者たちは互いに頷き合い大気を揺らすほどの雄叫びで答える。そして多種多様な魔法を雨あられと繰り出した。
「中距離以上の攻撃手段がないものは魔法を使える仲間を守りなさい!黒い液体のようなものが変形して足元から攻撃してくるわ。他の攻撃手段があるものは光を放っている方の体を狙いなさい。黒い方はいくら攻撃しても瞬時に再生するわ」
冒険者たちはその指示に従い三人、もしくは四人程度で固まり守るものと攻撃する者に分かれる。シンシアがざっと確認した限りではそのパーティーが三十組近くいたので百名以上の冒険者が迅速に集まったということになる。帝都の冒険者ギルドには何回も足を運んでいるがここまで素早く行動でき、尚且つ強大な相手にもしり込みしないような勇敢な人たちには決して見えなかった。そんな気持ちを抱いていると隣のセレンがくすりと笑った。
「ろくでなしにしか見えなかった冒険者たちが何でこんなに有能なんだろうって思ってるでしょう?」
シンシアは心中を言い当たられ心臓の鼓動が高鳴る。否定しようとしたがセレンの確信めいた表情を見て言い訳は通じそうにはないと悟った。
「……はい、正直に言うとそう思いました」
「分からないでもないわ。普段の帝都の冒険者達はお世辞にも格好がいいとは言えないもの。でもね、そんな彼らもこの街を、この国を愛しているのよ。特に等級が高い人たちはね。そうでないならこれから国があれるかもしれない帝国には残らないもの」
セレンの表情には晴れやかな笑みが浮かんでいた。その美しい表情にシンシアは思わず見とれてしまった。冒険者たちの愛国心という強い絆を彼女が羨んだからかもしれない。そんなシンシアの心中をよそにセレンは語り続ける。
「そしてそろそろ現れると思うわよ。帝国最強の冒険者がね」
セレンはその人物が来るのを確信しているようだがシンシアはその意見には懐疑的であった。帝国最強ということは攻略者なのだろう。それほどの人物が凡庸な冒険者たちよりも到着が遅いとは思えないのだ。案の定その悪い予想は当たったようで数分ほど経ってもその人物の姿は影も形もなかった。
「どうして………ウェントスなら必ず来るはずなのに……」
絶望的な表情をセレンは浮かべている。どうやら時間稼ぎを最初に提案したのはその人物が来ると信じていたからのようだ。だが、その人物は現れない。この戦闘の裏で何か恐ろしいものが蠢いているのではないかという不安がシンシアの脳裏に過る。
「たぶんそれはにいが関係してるかも」
二人の背後から不意に横やりが入る。二人は勢いよく振り向いた。そこには見慣れた少女が立っていた。
「ノイン、何時からいたの?」
「ほんの少し前から。いつまで経っても動かないからどうするのか聞きに来た。それで気になる話してたから……」
「それであなたのお兄さんというと<虚空>のことよね?彼が何か言ってたの?」
「今日<天壊>のところに行くって言ってた。何してるかは知らないけど。この状況で来ないなら二人ともこの近くに居ないと思う」
「そんな……じゃああの竜を倒せる人は……」
セレンは強く奥歯を噛み締めた。それはどうしようもない現実の重さに押しつぶされているようだった。そして、無情にも竜が動き出す。
「中々楽しめたぞ、帝都の冒険者たちよ。だが、いつまでも戯れに付き合うつもりはない。我に本気で歯向かうのならその資格を見せよ!」
そう言うと竜の周囲には無数の光の球が浮かんでいた。その数はシンシアの出した光球の百倍はあることは明らかだった。
「<竜光/ドラゴンライト>」
浮かんでいた光がまるで物凄い速度で冒険者やシンシアたちに飛んでいく。それを躱そうと全員が動き出すが光がまるで生き物のように動き追尾する。その精度の高さは恐ろし程高くほぼすべての人間はその攻撃を受けてしまった。シンシアたち一部の高位冒険者たちは辛うじて軽症で済んだが半分以上の人間が地に付している。
「これは不味いわね。竜への対応策も浮かんでないのに大量の怪我人万事休すね」
セレンは諦めの滲んだ表情で力なく笑う。
「まだ終わってませんよ」
「ん。まだ終わってない」
「あれを見てください」
シンシアは竜の方を指さす。
「竜の体から出る光の量が減っています。おそらく無限に魔力を作ることはできてもそれを常に保っているわけではないんだと思います」
シンシアの言を聞いて竜の方を見ると確かに先ほどよりも輝きが小さくなっていた。そして、シンシアの仮説を裏付けるように竜の輝きが増していく。
「でも、もう元に戻ってしまったわ。あの隙を突きたいならあの人数に放ったほどの大魔法を使わせなければならないわよ」
「大丈夫です。案はあります。成功するかは分かりませんが」
「でも何もしないよりはマシね。その作戦教えてくれるかしら」
「もちろんです。二人の力がなくては成り立ちませんから」
そう言うシンシアの瞳には諦めのような悲観的な感情は一切見えなかった。セレンは自嘲的な笑みを一瞬浮かべ少女に明暗を託した。
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