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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

38話

 竜の声は街中に響き渡っていたのか先ほどまで閑散としていた通りには避難しようとどんどん人が流れていた。逃げ出そうとしている人たちの顔は一様に恐怖の色で染められていた。セレンたちは唐突な展開にしばらく固まっていたが竜の宣告に抗うために一歩踏み出す。


「竜よ。あなた様と帝国との盟約については私も存じております。『互いの領分を犯すことを禁ズ』昔から禁忌として語り継がれてきたことは知っています。ですが、それは一部の上位冒険者や貴族の方々の間に限ってのことです。おそらく聖霧山に入ったものは知らなかったでしょう。ですから、どうか先ほどの一撃で怒りを鎮めて頂けないでしょうか?」


 セレンは強大な竜に祈るように懇願する。シンシアたちは武人としての彼女の姿しか見たことがなかったがその神聖な様子に本来の修道女としての姿を見た気がした。竜の爬虫類のような細長い楕円のような瞳孔がセレンを舐めるように見下ろす。


「確かに貴様の言うことが事実かもしれない。だが、我には関係のないことだ。我が約定を交わしたのは当時の皇帝である。何代前かは知らぬがこの国を治めるものと契約したのだ。つまり、この盟約が破られた場合その責任は皇帝に及ぶということになる。今の皇帝は契約をした当人ではないがその座は受け継がれるものだと我は認識している。よって聖域に侵入した罪は許されるものではない。関係のないこの地に住む民には悪いがな」


 セレンは竜の発言に落胆すると同時に一筋の光明を見た。彼女は大きな黄金色の瞳を見つめ、勇気をもって提案する。


「分かりました。あなた様のおっしゃることも最もだと思います。ですが、あなた様の中には過去の人間がしたしっかりと受け継がれていない盟約のつけを今の人間が払うのはよくないという考えが先ほどの発言から伺えます。もしそうならば私たちに挽回の機会を与えてくれないでしょうか?」


 竜は訝し気に目を細める。だが、数秒の思案の元了承を口にした。


「よかろう。それで具体的にはどのようなものを求める?先に言っておくが半端なものでは許さんぞ」


「分かっております。私が提案するのはあなた様と戦い、少しでも傷をつけることができたなら盟約の破棄の件は不問にして頂くというものです。ただし、あなた様と戦う人数は無制限として頂きたいのです。それと街への攻撃はなしでお願いします」


 それを聞き竜は獰猛に笑う。


「数を集め、対規模な攻撃をさせなければ勝てる算段があるということか……。いいだろう。貴様の案に乗ってやる。それでは始めるか」


 そう言うと竜の口元には光の粒子が集まり、眩い光を放っている。城を破壊したあの攻撃よりはマシなはずだがそれでも直撃すれば死ぬ可能性は高いだろう。


「竜よ。少しお待ちを」


「今度はなんだ。我は十分に譲歩したつもりだがまだ何かあるのか?」


「一分ほどで構いません。時間をください。あなた様ほどの強大な存在と戦うのです。このくらいのハンデはあってよいのではないでしょうか?」


「よかろう。折角機会を与えたのに一瞬で決着がついてもつまらないからな」


「ありがとうございます」


 セレンは美しい所作で頭を下げる。そして、素早く二人のもとへかけてくる。


「二人ともごめんなさい。厄介なことに巻き込んだわ。あなたたちは帝国人じゃないのに……」


 シンシアは優し気な笑顔を浮かべ、セレンを見つめる。


「気にしないでください。確かに私たちは帝国人ではないですが街が壊されるのを黙って見過ごせるほど冷酷ではないつもりです。それに、セレンさんにはお世話になりましたから。ね?ノイン」


「ん。セレンには借りがある」


 二人の言葉にセレンは感銘を受け、心が揺さぶられる。だが、時間のない現状を思い出しすぐに冷静になる。


「二人ともありがとう。それじゃあ、とりあえずの作戦を伝えるわ」


 そう言ってセレンは腰に付けた異次元袋から赤色の筒を取り出した。


「これは発煙筒の役割を果たす魔道具よ。これでギルドの方に合図を出す。そうすれば帝都にいる冒険者の多くはここに集まってくると思う。だから、まずは私たち三人で人数が集まるまで時間稼ぎをするわ」


「それで勝てると思ってる?」


 ノインが質問をぶつける。


「……わからないわ。でもおそらく勝てると思ってる」


「そう。ならまずはそれでいい」


「私も異論はありません」


 三人の意見がまとまったところで後ろから地底から響くような重低音の声が聞こえてくる。


「準備は整ったか?」


「はい、おかげさまで。それでは開戦の狼煙を上げさせてもらいます」


 セレンは手に持った筒に魔力を流すと赤色の煙が空に向かって勢いよく伸びていった。


 

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