魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

36話

  苦痛にうめくフリューゲルを見下ろすしウルは問う。


「さて、あなたは何で他の国を侵略してまで帝国を大きくしようとしていたの?」


 苦しみながらも気丈な瞳でフリューゲルはウルを睨み返す。


「そんなこと決まっているだろう!我が帝国こそが世界の覇権を握るべき国なのだ。王国や神国と同列視されている現状を看過できるはずがない!」


 ウルは面倒くさそうな表情を浮かべる。


「あー、はいはい、あなたの心意気は分かったわ。伝わりづらかったようだから質問を変えるわね。他国の侵略をしようと思ったのは何故かしら?別に他の国よりも優れた国にしたかったのなら武力ではない部分で行えばいいでしょ?」


「ふん、そんなことか。武力による制圧こそが帝国の根底にあるものだ。昔あるあの方にそう教わったのだ」


「あの方?」


「素晴らしいお方だった。私に帝王学を教えてくれただけでなく数々の貴族の弱みや不正の証拠となるものを託し、帝国をより円滑に支配するための屋台骨を作ってくれた。今の私があるのはあの方のおかげと言っても過言ではない」


 フリューゲルは痛みを忘れてように恍惚とした笑みを浮かべながら語る。その様子はあまりにも狂信的で傍で見ていたトランは思わずたじろいでいた。


「そう、そんな素晴らしい人がいたのね。それでその人の名前は?」


 ウルが誘導するように問いかける。フリューゲルは濁った瞳をウルに向け怪しげな笑みを浮かべていた。


「そうか、お前にもあの方の素晴らしさが分かったか!ならば教えてやろうあの方の名は……」


 名前を言おうとしたその瞬間、饒舌だったフリューゲルの言葉が止まる。そして、脈絡もない言葉を呟きだした。


「名は………あの方?誰………教えてくれた?いつから………どこで………顔………わからない………男?女?これは………何故………私は………違う………帝国を豊かに………おかしい………何故何故何故何故何故何故」


 頭を抱え、焦点の定まっていない瞳で虚空を見つめながら意味の分からない言葉を呟いていたフリューゲルの目が真っ赤に染まっていく。そして、血の涙を流し奇声を発しながら暴れだす。手の甲を貫かれ激痛が走っているはずなのに痛みを感じていないのではないかというような癇癪の起こし方だ。ウルは軽く舌打ちをし、手の変形を解除すると同時に素早く狂ったフリューゲルと距離を取る。その後もフリューゲルは数樹秒ほど赤黒い液体をまき散らしながらのた打ち回っていたが糸が切れた人形のように突然動きが止まる。ウルは警戒しつつフリューゲルに近づき首筋に手を当てる。


「………死んでるようね」


 その言葉に皇子達は目を見開いた。先ほどまで普通に話していた兄が見るも無残な最期を迎えたのだから当然と言えば当然だろう。


「兄上は何故このようなことに……」


「私にも詳しくはわからないわ。ある程度の心当たりくらいはあるけどね。でも、残念ながらそのことを話す時間はないのよね」


「何故ですか?もう決着はついたではないですか」


 トランは寂寥感を感じさせる瞳を動かなくなったフリューゲルを見ながら呟いた。その問いにウルは否という結果を突き付けるように大きく首を振る。


「まだ終わってないわよ。まあ、イレギュラーな形で会議は幕を閉じたけどこのままだったら第一皇子を殺した犯人はあなたたちだと思われるわよ。そうなればその事実を利用しようと考える輩が必ず出てくるわ。そんな不安材料を残したままじゃ依頼を完了したとは言えないでしょ?」


「確かにそうですね。それで何をすればよろしいのでしょうか?」


 今まで沈黙を保っていたコルネットが積極的に名乗りを上げた。その態度にウルはわずかに笑みを浮かべ、一枚の紙を異次元袋から取り出した。そこには会議に出席していた一部の貴族の名前が羅列されていた。


「ここに名前のある人をこの中に放り込んでほしいの」


 そう言って取り出したのは姿見だった。だが、それはただの鏡ではなく魔道具だ。鏡の上部に埋め込まれた魔封石の中にあるアインの魔力によって空間移動を可能にするのだ。その証拠に鏡に映っているのは彼らの姿ではなく城の入口からほどなく進んだところにある大広間だった。


「これはなんだ?」


「空間移動の魔道具よ。繋がってる場所は一階の広間ね」


「空間移動の魔道具ですと!王国の発明姫ですら開発に成功していないものではないですか!」


「まあ、そうね。でも色々欠点もあるから大したことじゃないわ。……それに少しずるい手を使ってるしね」


 付け足したような呟きは聞こえなかったようで聞き返されることはなかった。皇子は感心したような尊敬したような表情をし、皇女は変わらない笑みを浮かべていた。


「そろそろ運び始めるわよ。間に合わなかったらことだわ」


「何が始まるのですか?」


「時期に分かるわ」


 そう言ってウルは蠱惑的な笑みを二人に向けた。

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