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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

34話

 アインとウェントスの激闘が繰り広げられる三十分ほど前ベントは聖霧山の山頂まで来ていた。


「やっぱりなんもねーな。だが、ここだけ霧がないってのも不思議な光景だな」


 ベントは一通り山頂をぐるりと一周する。やはりというべきかごつごつとした岩肌が広がるばかりで竜どころか生き物の一匹すらいない。


「何の発見もなかったが唯の登山で大金と復讐の機会をもらえるんだから安いもんだよな」


 ベントは貰った金貨を取り出し嫌らしい笑みを浮かべながら眺めている。しかし、その陶酔した気分を吹き飛ばすな衝撃がベントを襲う。その衝撃によってベントは金貨を落とした。不安定な岩場を金貨は転がり霧の中に入っていく。数秒ほど転がると何かに当たって金属音を響かせながら止まる。ベントは金貨を拾うために霧の中に入っていくと黄金の輝きが目に入った。その方向に金貨があるのだと確信したベントは小走りで岩肌を下る。だが、少し近づくとそれは金貨などではないとわかった。そもそも日の光もろくに通さない濃い霧の中の金貨があれほど輝くはずがないのだ。輝いていたのは竜の鱗であった。絶望的な事実に気づき青ざめた顔をしているベントを竜は悠然と見下ろしている。


「お前が落とした金貨はそれだろう。拾うといい。大切なものなのだろう?」


「あ、ああ」


 声にもならないようなか細い音を出し、竜の輝きに紛れていた金貨を呆然と見つめている。完全に恐怖にのまれ正気を失っている。


「先ほどのお前はその金がもらえるならこの山に登るのは安いものだと言っていたな。それは重大な間違いだ。この山に登るということはこの私と対峙するということだ。つまりは死。その袋の重さがお前の命の重さだったのだと理解して逝け」


 ベントは悲鳴を上げる間もなく輝く爪に引き裂かれた。あまりの勢いと纏っている膨大な魔力のせいか血の一滴すら残らず蒸発していた。


「さて、これで主人の一つ目の命令は完了したな。次は帝都だったか。やれやれ竜使いが荒くて困ったものだ」


 そう言いながらもリンドブルムは喉を鳴らし、上機嫌な様子で翼を羽ばたかせる。その姿はゆっくりと上昇していきやがて霧の中に消えていった。






 リンドブルムが帝都に向かった頃、帝城では主要な貴族たちが一堂に会していた。部屋を縦断するように置かれた大きなテーブルには豪奢なテーブルクロスが引かれおり、貴族たちはそれを挟むように並んでいる。貴族たちが思い思いに時間を潰している中、最も玉座に近い右端では皇子たちが対峙している。


「逃げずによく来たな。トランにコルネット。兄としてうれしい限りだ」


 フリューゲルは顎を上げ、不遜な態度で二人を見下す。まるでもう自分が皇帝であるかのように。


「兄上。その言い方は些か傲慢ではありませんか?まだ私たちは対等な立場であるのですから」


「私とお前たちが対等であったことなど一度たりともありはしない。私が上でお前たちが下だ。それはゆるぎない事実だ。今の貴族たちの支持からもそれは伺えるだろう?」


「それは兄上が貴族を過剰に優遇しているからです!」


 トランは思わずテーブルを力強くたたき、荒げた声を上げる。その激しい剣幕にフリューゲルは思わずたじろぐ。その諍いを収めるようにアムールが割って入る。


「お二人とも落ち着いてください。まだ会談は始まってすらないのですから」


 そう言って円筒状の物体をテーブルの上に置く。それには中央に穴が開いておりそこから煙のようなものが漂っている。


「アムールよ。これはなんだ」


「殿下、これは精神を落ち着かせる香です。特別に南方より取り寄せた高級品ですよ。その効果は見ての通りです」


 アムールは集まっている貴族たちの方を見るように促す。フリューゲルがその指示に従って見ると確かに騒がしかった貴族が皆閉口し、こちらを注目している。だが、トランの熱は収まっていないようで厳しい視線が向けられている。


「確かに効果はあるようだな。流石だ」


「光栄でございます」


 アムールは綺麗な所作で頭を深々と下げる。それと同時に大きな鐘の音が響く。会議の始まりを告げるものだ。そしてアムールはそのまま最前の皇子二人の間に立った。


「それではここに帝国国議会の始まりを宣言します。ここからはお二人の皇帝候補の議論を聞いていただきます。そして、それが終わった後にどちらが皇帝に相応しいか多数決によって決めます。双方とも異論はありませんね?」


 二人の皇子は無言で頷く。


「それでは存分にお二人の主張をぶつけ合ってください」


 その言葉によって舌戦の火ぶたが切って落とされた。

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