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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

32話

 操作された矢が雨のように降り注ぎ、風の刃が縦横無尽に襲い掛かる。それをアインは高速で動き躱しつつ、躱しきれないものは<虚無の斬撃>で切り払う。だが、アインも逃げ回っているだけではない。アインはその防御の合間に<窓/ウィンドウ>で自分と相手の周囲の空間を繋ぎ、防御不可能な剣戟を繰り出す。ウェントスはその攻撃を周囲に広げた風の結界で察知し、風の操作と強靭な脚力で躱す。そして、再度矢を番え放つ。この循環するような攻防はもう二時間ほど続いている。如何に膨大な魔力を保有する攻略者でも限界が近づいてきているようでウェントスの動きは段々と鈍くなっていく。このままでは泥沼に嵌っていくと察したのかウェントスは矢を番えたまま動きを止める。


「おい、アイン。お前は自身の力を証明するのではなかったのか?これでは唯の我慢比べだ。これがお前の言う『力の証明』なのか?」


 アインも動きを止め、両腕に握られた黒剣をだらりと垂らしながら悠然とウェントスを眺めている。


「まあ、その一つと言えるだろう。冷静になって自分と俺を見比べてみろよ」


 ウェントスは少し俯きながら息を整える。その瞬間顔から滴り落ちるものが目に入った。持っていた矢を矢筒にしまうと手で顔を拭う。するとその手はぐっしょりと濡れていた。その事実に驚愕し、一歩後ろに後ずさると体が長時間の疲労を自覚したのかその勢いのまま尻餅をついた。ウェントスの表情からは強い困惑が読み取れる。


「分かってないようだからはっきり言ってやる。お前には長期戦のノウハウがなかった。矢の爆破に軌道操作、魔法での攻撃に防御に索敵、そして移動。そんな風に魔力を使い続ければ俺たちのような攻略者でも限界は訪れる。当然のことだがお前は攻略者になってからまともな戦闘をしたことがなかった。だから、自分の魔力の配分さえ間違ったんだ」


 ウェントスは足に力を入れ、立ち上がる。


「……なるほど。攻略者としての戦闘経験の無さがまさかこんな事態を招くとはな」


 ウェントスは諦観の笑みを浮かべた。


「ウェントス、勘違いしてくれるなよ。あくまでもこれはお前の弱点の一つを教えてやったに過ぎない。諦めるのはまだ早いぞ」


「何を言っている。このまま戦い続ければ遠くないうちに俺の方が先に限界を迎えるだろう。この状況ではもう勝負は決まったも同然だろう」


 ウェントスは自分の愚かさを呪うように唇を噛んでいる。


「俺は俺自身がお前よりも完全に上だと証明するためにここに来たんだ。それがこんな結末ではお互い納得できないだろう。だから、仕切り直しといこう」


「仕切り直しだと。どうするというのだ」


 ウェントスの疑問にアインは意地の悪い笑みを浮かべながら答える。 


「そうだな。俺が真っ直ぐに向かっていきお前を斬る。接近してくる俺に向かって最大の攻撃をウェントスは浴びせる。それを持って雌雄を決するというのはどうだろう?」


 ウェントスはその提案に顔を歪める。それもそうだ。これはかなりウェントスに有利な条件であるが舐めているとしか思えない提案だ。


「……俺を虚仮にしているのか?」


「そんなわけはないだろう。だが、お前と俺の差を見せるのにこの方法が一番都合がよいそれだけだ。嫌なら他の案を出せ」


 アインの傲慢な発言に悔しそうにウェントスは下唇を噛む。だが、すぐに呼吸を整え冷静になるとウェントスは数秒の間考え込むように下を向いていたがどうするか決めたのか真っ直ぐにアインを見つめる。


「分かった。お前の提案に乗ろう。俺は既に一度敗北した身。贅沢は言えん」


 そう言うとウェントスは戦いの最初のようにアインと一定距離離れるために背を向けて歩き出す。その背に向かってアインは声をかけた。


「俺が剣を宙に放り、それが地面に付いたらゲーム開始だ。後悔しないように今出せる全力を出せよ」


 ウェントスは分かっているという風に片手を上げる。所定の位置まで辿り着くと体を反転させる。お互いの視線が交差するとそれが合図だったかのようにアインは右手の剣を上空へと放り上げる。ウェントスは矢を番え、莫大な魔力を使い矢に爆破の魔法を付与していく。防御や索敵に使う魔力がなくなり攻撃だけに集中できるためその威力は先ほどまでとは比べ物にならないだろう。だが、それはアインも同じだ。アインは<血の支配/ドミネイトブラッド>を発動させる。今回は剣などの物ではなく自分自身に対してだ。


 アインの全身は赤黒い不気味な色で染まり、青かった瞳も赤く輝いていた。艶やかな銀髪も頭から血を被ったように変化し人とは形容しがたい姿に変貌する。それでもウェントスは動揺していないかのように真っ直ぐにアインを観察している。その緊迫した状況を裂くように投げた剣が地に落ちる。その瞬間ウェントスの弓から矢が放たれ、アインは前進する。お互いが物凄い速度で距離を縮めていく。アインは放り投げた剣を拾い、<虚無の斬撃>で矢を迎え撃とうとしている。しかし、ウェントスもそれは分かっている。だから、ウェントスは剣の間合いに入る前に爆破させようとする。残りのほとんどの魔力を使った矢だ。軽く数百メートルは吹き飛ばす火力はあるだろう。流石にこれは防ぎようがないだろうとウェントスは心の中でほくそ笑む。


 だが、ウェントスの期待した瞬間は訪れなかった。瞬きした間に矢もアインの姿も掻き消えたからだ。ウェントスが何が起こったのか理解する前に激しい痛みと自分が後ろ向きに倒れようとしていることを知覚する。倒れ行く中で視界の端に血に濡れた剣を持つアインの姿が映る。その時ウェントスは理解した。自分は完全に負けたのだと。自分の知らなかった弱点を教えられ、有利な条件での戦いでも手も足も出ない。


(世界はこんなにも広かったのだな)


 ウェントスはその事実に満足そうに微笑んだ。

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