魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
30話
一晩が経ち、帝国会議を行う当日となった。宿の窓から見える馬車はすべて帝都の中央に聳える建物に向かっており、その様子からも今日が帝国の未来を決める日だと伺える。異様なまでの交通量の多さからか将又暗雲漂う未来を憂いているからか帝都全体に得も言われぬ緊張感が漂っているように感じる。だが、そんな様子を尻目にアインはいつも通り装備を整え、真っ白な仮面を被りブラッドへと姿を変えた。
ブラッドは自室を後にし、シンシアたちの部屋へと向かう。戦いの前の一時を噛み締めるようにブラッドはゆっくりと歩を進める。数本ほどかけて目的地にたどり着くと軽く扉を叩く。するとすぐに扉が開き、肩口まで伸びた艶やかな黒髪を携えた少女が目に入った。
「ノイン、シンシアはどうした?」
「まだ寝てる。連日戦い詰めだから毎日昼近くまでは起きない」
ノインははっりきとした口調で淡々と告げる。流石カームベルで鍛えられているためこの程度の日程で疲労を感じることはないようだ。俺が見ていない期間も当主に絞られているため当然と言えば当然だが妹のような存在の成長には何か感慨深いものがある。だが、そんな感情は仮面で隠されているためノインには伝わらないだろう。
「そうか。それなら伝えておいてくれ。今日は帝都から出ないようにとな」
「でも今日も討伐の依頼に行くことになってる。それに同行者もいる」
その言葉を聞きアインはウェントスの隣にいた金髪の神官を思い浮かべる。ユニ様から彼女がノインたちに同行しているのは聞いているがその偶然にはどこか因果めいたものを感じていた。
「そのことは聞いている。だが、今日は断ってくれ」
「それも作戦の一部?」
「やはりユニ様から聞いてるか」
「ん。でも内容は聞いてない。私が関わることじゃないからって」
ノインはむすっとした表情でそう告げる。自分もカームベルの一員なのに作戦に参加できないのが不満なのだろう。だが、それも仕方のないことだ。ノインには戦闘以外の技能はほとんどないのだから。
「そこは諦めろ。ノイン、お前自身も分かっていることだろう」
「でも、納得できるかはまた別問題」
ノインはまだ不満そうな表情を浮かべている。
「そんなノインに朗報だ。さっきお前が聞いた質問に対する答えはイエスだ。これでお前も作戦に参加できるぞ」
「……本当に?」
ノインは疑わし気な目をアインに向ける。それはそうだ。内容は聞かせないのに参加はさせると言われても信じることはできないのが普通だ。だが、この役割に相応しいのはノインたちである。是が非でもやってもらいたいのだ。アインはノインの耳元に顔を近づけ耳打ちする。その内容を聞いたノインは目を大きく見開く。
「……にい、正気?」
「正気だ。これも必要なことだから仕方ないんだよ。それでどうだ?やれそうか?」
「そもそも断るとかいう選択肢あるの?」
「ないな」
ノインは苦い顔をする。だが、覚悟を決めたようにアインを真っ直ぐに見つめ返す。
「正直無謀だと思うけど私もカームベルの一員。やれと言われれば必ず成し遂げる」
「よく言った。だが、俺は無謀だとは思ってないぞ。お前たちなら確実にやれると思っている。期待している」
アインはノインの肩を軽くたたき鼓舞すると自室の方へと帰っていく。ノインは触れられた肩をそっと撫でると思わず頬を緩めた。そして、大きく深呼吸すると気を引き締め、扉を閉め部屋の中に入っていく。
アインは自室に戻ると仮面を外し、黒い外套を脱ぎ捨て黒い空間に投げ入れる。そして、ソファに勢い良く座ると大きく息を吐き出す。だらりと体を背もたれに預け体の力を抜く。その後アインは体の中の魔力の流れを感じながら目を閉じ、集中力を高めていく。しばらくの間、静謐な空間の中でその状態を続けていたが何か合図があったかのように目を開けた。目に飛び込んできた時計魔導時計の時刻は作戦決行の時刻だった。アインは徐に立ち上がり黒い穴を開ける。その穴を通ると美しい石づくりの廊下に出た。足元には赤い絨毯が引かれており、目の前の廊下の先にはある男が立っていた。アインは急ぐことなくゆっくりと近づいていく。数十秒ほどかけ、廊下を抜けると巨大な階段のが目についた。この上では既に次の皇帝を決める会議が始まっているのだろう。
「来たか<虚空>」
先日と違い白い仮面をつけていないのに自分の正体を断定した様子にアインはため息をつく。
「やはりお前の目的は俺と戦うことか……」
「その通りだ。俺はこの機会をずっと待ち望んでいた。他の攻略者と戦える時をな!」
「そうか。それがお前の望みなら望み通り戦ってやる。だが、その前に……」
アインは黒い穴を開ける。
「場所を変えるぞ。ここではお互い全力を出せないだろうからな」
「元よりそのつもりだ。お前と戦えればここに留まる意味もない」
二人は黒い穴に吸い込まれていく。その二人の顔にはどちらも笑みが浮かんでいた。
ブラッドは自室を後にし、シンシアたちの部屋へと向かう。戦いの前の一時を噛み締めるようにブラッドはゆっくりと歩を進める。数本ほどかけて目的地にたどり着くと軽く扉を叩く。するとすぐに扉が開き、肩口まで伸びた艶やかな黒髪を携えた少女が目に入った。
「ノイン、シンシアはどうした?」
「まだ寝てる。連日戦い詰めだから毎日昼近くまでは起きない」
ノインははっりきとした口調で淡々と告げる。流石カームベルで鍛えられているためこの程度の日程で疲労を感じることはないようだ。俺が見ていない期間も当主に絞られているため当然と言えば当然だが妹のような存在の成長には何か感慨深いものがある。だが、そんな感情は仮面で隠されているためノインには伝わらないだろう。
「そうか。それなら伝えておいてくれ。今日は帝都から出ないようにとな」
「でも今日も討伐の依頼に行くことになってる。それに同行者もいる」
その言葉を聞きアインはウェントスの隣にいた金髪の神官を思い浮かべる。ユニ様から彼女がノインたちに同行しているのは聞いているがその偶然にはどこか因果めいたものを感じていた。
「そのことは聞いている。だが、今日は断ってくれ」
「それも作戦の一部?」
「やはりユニ様から聞いてるか」
「ん。でも内容は聞いてない。私が関わることじゃないからって」
ノインはむすっとした表情でそう告げる。自分もカームベルの一員なのに作戦に参加できないのが不満なのだろう。だが、それも仕方のないことだ。ノインには戦闘以外の技能はほとんどないのだから。
「そこは諦めろ。ノイン、お前自身も分かっていることだろう」
「でも、納得できるかはまた別問題」
ノインはまだ不満そうな表情を浮かべている。
「そんなノインに朗報だ。さっきお前が聞いた質問に対する答えはイエスだ。これでお前も作戦に参加できるぞ」
「……本当に?」
ノインは疑わし気な目をアインに向ける。それはそうだ。内容は聞かせないのに参加はさせると言われても信じることはできないのが普通だ。だが、この役割に相応しいのはノインたちである。是が非でもやってもらいたいのだ。アインはノインの耳元に顔を近づけ耳打ちする。その内容を聞いたノインは目を大きく見開く。
「……にい、正気?」
「正気だ。これも必要なことだから仕方ないんだよ。それでどうだ?やれそうか?」
「そもそも断るとかいう選択肢あるの?」
「ないな」
ノインは苦い顔をする。だが、覚悟を決めたようにアインを真っ直ぐに見つめ返す。
「正直無謀だと思うけど私もカームベルの一員。やれと言われれば必ず成し遂げる」
「よく言った。だが、俺は無謀だとは思ってないぞ。お前たちなら確実にやれると思っている。期待している」
アインはノインの肩を軽くたたき鼓舞すると自室の方へと帰っていく。ノインは触れられた肩をそっと撫でると思わず頬を緩めた。そして、大きく深呼吸すると気を引き締め、扉を閉め部屋の中に入っていく。
アインは自室に戻ると仮面を外し、黒い外套を脱ぎ捨て黒い空間に投げ入れる。そして、ソファに勢い良く座ると大きく息を吐き出す。だらりと体を背もたれに預け体の力を抜く。その後アインは体の中の魔力の流れを感じながら目を閉じ、集中力を高めていく。しばらくの間、静謐な空間の中でその状態を続けていたが何か合図があったかのように目を開けた。目に飛び込んできた時計魔導時計の時刻は作戦決行の時刻だった。アインは徐に立ち上がり黒い穴を開ける。その穴を通ると美しい石づくりの廊下に出た。足元には赤い絨毯が引かれており、目の前の廊下の先にはある男が立っていた。アインは急ぐことなくゆっくりと近づいていく。数十秒ほどかけ、廊下を抜けると巨大な階段のが目についた。この上では既に次の皇帝を決める会議が始まっているのだろう。
「来たか<虚空>」
先日と違い白い仮面をつけていないのに自分の正体を断定した様子にアインはため息をつく。
「やはりお前の目的は俺と戦うことか……」
「その通りだ。俺はこの機会をずっと待ち望んでいた。他の攻略者と戦える時をな!」
「そうか。それがお前の望みなら望み通り戦ってやる。だが、その前に……」
アインは黒い穴を開ける。
「場所を変えるぞ。ここではお互い全力を出せないだろうからな」
「元よりそのつもりだ。お前と戦えればここに留まる意味もない」
二人は黒い穴に吸い込まれていく。その二人の顔にはどちらも笑みが浮かんでいた。
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