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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

27話

 ブラッドがウェントス邸を訪れてから数日たった。帝国の中央に聳える大きな白亜の城では半月後に行われる会議に向けての話し合いが行われていた。いや、話し合いというのは適切ではない。ここに集まっているのは単に暗殺なんかを避けるために引きこもっていると言った方がよいかもしれない。実際話してる内容は政治的な事柄は一切なく雑談の類であった。それを上座からつまらなさそうに見つめている男が一人。第一皇子フリューゲル・オブ・ロートルその人である。


「アムールよ。あいつらは何故あのような無意味な会話を何日も続けられるのだろうか。全く持って意味が分からん」


 それを隣で聞くのは帝国でも有数の名家ローゼン家の現当主アムール・レイ・ローゼンであった。


「仕方のないことなのですよ、殿下。彼らはいわゆる無能な輩。ここにいるのも私が掌握し完全に傀儡としているからです。だが、それでも家柄は立派なものが多いですからな。人として使えなくても家としてはまだまだ使い道があると言った連中なのですよ」


 アムールは立派な髭を指で撫でながらい嫌らしい笑みを浮かべている。


「そうか。それならば仕方がないな。私にはお前がいれば帝位争いは盤石だからな。他はどうでもいい」


「それは身に余る光栄でございます」


 アムールは恭しく頭を下げる。その姿を見てフリューゲルは満足そうにほくそ笑む。


「それでアムールよ。本当にトラン達に追手を放たなくてよいのか?」


「ええ、刺客を送る必要はございません。彼らを今すぐに始末しなくてもどうせあの会議の場には現れます。そこで処理してしまえば問題ありません」


 アムールは自信満々な様子で語る。


「お前がそういうのであればそれでよいのだろう。その件はお前に任せる。私は帝位に就いた後のことを考えねばならんのでな」


「それは王国への侵攻についてでしょうか?」


「その通りだ。我が国を差し置いて大陸最大と呼ばれるなど我慢ならん。身の程というものを教えてやらねばならんのだ」


 フリューゲルは邪悪に顔を歪めながらまだ見ぬ理想を語っている。アムールはそれを聞き手を揉みながら顔色を伺う。


「そのことですが殿下。何故王国に侵攻するのでしょうか?あの国はかなり強大であります。それに大きな戦争になれば確実に神国の奴らが介入してきます。そうなれば大国二つを相手取ることとなります。いくら殿下でもそうなれば厳しいかと思いまして……」


 フリューゲルは苛立ったような視線をアムールへと向ける。


「私が勝ち目のない無謀な戦をするとでも言いたいのか?」


 アムールは慌てたように口早に弁明する。


「いえいえ、そうではございません。もちろん殿下がそのような暗愚だとは思ってはおりません。ですが、何も知らない身としては不安なのですよ。計画の一端でも教えてくだされば安心できるのですが」


 フリューゲルは先ほどとは打って変わって優し気な眼差しを向けながら微笑を浮かべていた。


「そうか、すまんな。一番の忠臣であるお前を疑うようなことを言ってしまって。だが、今はまだ言えん。私が正式に帝位を取った時には作戦の全てを教えよう。それでは不満か?」


「そんなことはございません。その約束をしていただけただけで私の不安は消えました。今は余計なことは考えずあなたを皇帝にすることに全力を注ごうと思います」


「その忠誠大義である。それではその忠義を信じこの場はお前に任せ私は私のするべきことをしよう」


 そう言うとフリューゲルは部屋から出ていく。その姿を見送るとアムールは背もたれに体重を預け、体勢を崩す。


「やはりそう簡単に話してはくれないか。さて、どうしたものか……」


 アムールは冷淡な瞳をフリューゲルが出ていった扉の方へと向けている。その視線をそのまま目の前の凡愚な貴族たちへと移す。


「そろそろこの無意味な会議も終わらせるか」


 アムールが席から立ち上がり会議を終えるように言うとすぐに会話の嵐は止み、次々と貴族たちは部屋を後にしていく。


(こいつらも確実に飽きていたな。それでも自分から終わらせるように働きかけもせんとは。まったく操りやすくて実に都合の良い奴らで助かる)


 アムールは心の中で人知れずほくそ笑んでいた。そして次なる行動を起こそうと一枚の手紙を懐に忍ばせていたのだった。






 帝国の外れにある寂れた酒場にアムールの使者は来ていた。ある男に手紙を届けるためだ。


「クソ!あの子娘どもめ。あいつらのせいでまた面倒な奴に目をつけられてしまったじゃないか!」


 周りにほとんど人がいないことをいいことに酒場の真ん中で愚痴をばらまいている男がいた。その男は先日ノインたちに絡みセレンに睨まれてギルドから逃げ出したベントだった。使者の男はベントが座っているテーブルに近づいていく。


「久しぶりだな」


「ああ!なんだてめーは……」


 使者の男は目深被っていたフードから少し顔を覗かせる。


「あんたは侯爵様の使い!」


「せっかく仕事を持ってきてやったのに随分な態度だな」


 ベントの先ほどまでの荒々しい態度は鳴りを潜め、媚びるような声音を出す。


「す、すいません。最近むかつくことがあったもんですから」


「ギルドのことか?」


「知ってるんですか!」


「当たり前だろう。アムール様の情報網は些細な物事さえも捉えている。そこでだ。お前がこちらの仕事をこなしてくれれば復讐の機会を与えてやってもいいぞ」


「本当ですか!」


 ベントは驚愕と歓喜が入り混じったような表情で机を叩き立ち上がる。


「ああ、本当だとも。それだけじゃない。報酬としてこんなものも用意している」


 男はベントの前に膨らんだ皮袋を置く。袋の隙間からは黄金の輝くが漏れていた。その輝きにベントは思わず息を呑む。


「それは前金だ。依頼が完了したらまたこの酒場に来てくれ。その時に改めてお前に望む機会と残りの金を与えよう。依頼内容はこの中だがもちろんこの依頼を受けるよな?」


「もちろんです!ぜひ受けさせてください!」


「そうか。では頑張ってくれ」


 そう言うと使者の男は店を出ていった。ベントは金貨が詰まった袋を抱き寄せ、乱雑に手紙を開封する。


「依頼内容は半月後に聖霧山の調査をすることか。あの竜が住んでいるとか噂のある……」


 浮上した危険性に恐怖するどころかベントは嫌らしい笑みを浮かべていた。


(確かに危険かもしれないがこれは調査だ。馬鹿正直に戦う必要もない。適当に探索して帰ってくればいいんだから楽勝だな)


 ベントは期待を膨らませながら次の酒を注文するのだった。

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