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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

26話

 一晩が経ち、窓から覗くかすかな陽光でセレンは目を覚ました。勢いよく手を上げ気持ちよさげな声を漏らしながら体を伸ばす。結局あの黒鬼と遭遇した後は何事もなく調査は終わり解散となった。ギルドと神殿の方には知らせたが今の段階でどこまで動いてもらえるかは定かではない。


(まあ、今すぐに何か起こるとも考えにくいわね。後のことは任せましょう)


 セレンは思考を打ち切ると寝床から抜け出し、朝食を作るためすぐに台所に立つ。トントンと食材を刻む子気味の良い音が響かせ調理を進めていく。しばらくすると食欲をそそる匂いが漂い始める。グツグツと煮だったスープを小皿に少し汲み取る。軽く息を吐きかけ熱を冷ますと一気に飲み干す。程よい味だったのか火を止めた。その瞬間ガチャリと音を立てて扉が開く。そこには大きな弓を背負った筋骨隆々とした男が立っていた。


「……おかえり」


「……ああ」


 夫婦が短い挨拶を交わす。男は大きな弓を近くの台の上に置き部屋の中央にあるテーブルの前にある椅子に腰かける。タイミングよくセレンが食事を運び、それを二人とも淡々と食べ始める。その間特に会話はなく沈黙が場を支配していた。男が食べ終わり食卓を離れようと席を立とうとする。


「待って、ウェン」


「何だ。何か用があるのか?」


 男はぶっきらぼうに尋ねる。セレンはごくりと唾を呑み込み声を発しようとした時ドンドンと扉が叩かれた。二人の視線が入口の方へ向けられた。セレンはおt子は動かないと思い扉を開ける。そこには仮面で顔を隠し体を黒い外套で覆った怪しげな男が立っていた。だが、セレンの視線はその怪しげな風貌を捉えておらず、一点に集中していた。それは首元に下げられた白金のプレートであった。


「この家に<天壊>が住んでいると聞いてきたのだが在宅か?」


 無機質な男の声が響く。


「ええ、いるわ。でも、まずはあなたが名乗るのが先ではないかしら?」


「これは失礼した。俺はブラッド・ヴォルテン、王国の攻略者<虚空>だ」


 セレンは自分を落ち着かせるように胸に手を当て軽く深呼吸をした。


「そう、あなたがあの……。会えて光栄だわ。私はセレン・エーカー。あなたの探し人の妻よ。中に入ってウェンに話があるんでしょ?」


「ああ、では失礼させてもらう」


 ブラッドは家の中に入っていく。セレンは来客の対応をするためか台所の方へと向かっていった。ブラッドは特に案内されることなく座っている男の向かいに座る。ブラッドが勝手に座っても向かいに座っているウェントスは言葉を一切発しなかった。微妙な沈黙が漂う中セレンが飲み物を運んでくる。全員の前に置き終わるとウェントスの隣に座った。


「……おい、こいつは俺に用があるのだろう?お前は外に出ておけ」


「いいじゃない。別に私がいても。ブラッドさんが出ていけというなら出ていくけどあなたに指図されるいわれはないわ」


 その言葉にウェントスは軽く舌打ちを漏らす。


「俺はセレンさんがいても構わない。あなたは部外者というわけではないからな」


 セレンは満足げな笑みをウェントスの方へと向けた。その表情を見て男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「さて、本題に入らせてもらう。俺が来たのは<天壊>あなたにこの帝位争いから手を引いてもらうためだ。あなたが第一皇子の陣営から離れればあとは簡単に崩せる。これは王国からの正式な要請だ。もしこれを受けてくれるなら十分な報酬は約束されている。手を引いてくれるか?」


 ウェントスは腕を組みブラッドに真っ直ぐと厳しい視線を送る。


「それを本気で聞いているわけではあるまい。攻略者が国が出すような褒美程度で動かないことはお前もよくわかっているだろう。もしそれが本題ならさっさと帰れ。王国には俺が意思を変えることはないと伝えておけ」


「気が早いやつだ。物事には順序があるのだから少しは我慢してもらいたい。俺は一応王国の要請でここにきているのだから今のが本題なのは仕方がないだろう。だが、俺には他にもあんたに聞きたいことがある」


「そうか。ならさっさとしろ。俺は長話を聞くほど気が長くないからな」


 ウェントスはさっきの発言への意趣返しのような態度を取る。その様子にブラッドは軽くため息をつく。


「あんたが何を欲しているのかは俺も薄々は感じている。だから、今回の交渉が上手くいくとも思っていない。だが、一つ気になる点がある。今回のあんたの行動はあんた自身が考えたことなのか?俺にはそうは思えない。だからわざわざ聞きに来たんだ」


 それを聞き先ほどまでつまらなさそうな表情をしていたウェントスの様子が変わった。猛禽類のような鋭い瞳でブラッドを見据え、獰猛な笑みを浮かべていた。


「そうか、やはりも攻略者か。だが、すまんな。その問いには今は答えられない。しかし、然るべき時が来れば答えよう。それでは不満か?」


「いや、十分だ。問いの答えは得られなかったがある程度の核心は得られたからな」


 ブラッドは席を立ち、扉の方へと踵を返した。取っ手に手を掛けそれを捻り戸を開ける。


「じゃあな、<天壊>また会えるのを楽しみにしている。あと、セレンさんあなたにとって今の会話は意味が分からなかったかもしれないが気に病むことはない。あなたは攻略者ではないのだから。だが、もし理解したいと願うのならば隣の男に話してもらえるような人間になることだ」


 それだけ言い残すとブラッドは家を後にした。二人の間に微妙な空気が流れる。


「俺は……」


「待って」


 何かを話そうとしたウェントスをセレンは押しとどめる。


「まだ私にはそれを話してもらう資格はないと思うの。だから、私が話してって言うまで話さないで欲しい」


 ウェントスは瞑目し、呼吸を整える。


「そうか。それがお前の意思ならば尊重しよう。それとありがとう」


 ウェントスはそう言って自室へと引っ込んだ。その後ろ姿に昔の面影を感じセレンは暖かい微笑みを浮かべていた。



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