魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
21話
男がギルドから走り去り、一瞬場が静寂に包まれるがそれを切り裂くように二人の少女に神官風の女が近づき頭を下げる。
「申し訳ありません。あの不届き物がご迷惑をお掛けしました」
その様子に周囲がどよめく。先ほどまでの静けさが嘘のようにざわざわと騒ぎ始めた。
「別にあなたが気にすることじゃない。それにあのまま放置していてもやられていたのはあいつの方だから」
「ええ、分かっていますよ。あなたたちがあの愚物とは比べ物にならないということは。ですが、ギルドの中で暴れたとなるとあの男に非があってもあなたたちも処罰される可能性があったものですから。余計なお世話だったでしょうか?」
「いや、そんなことはない。助かった、ありがとう」
ノインはそう言って頭を下げる。シンシアはその様子を意外そうな顔で眺めていた。
「それと敬語はいい。私たちみたいな下っ端に金級の冒険者がへりくだりすぎるのは良くないと思うから」
ノインは女の胸元に光る認識票を指さしながら告げる。
「確かにそれもそうね。気を使わせてごめんなさい。私はセレン・エーカーよろしくね」
そう言ってセレンは右手を差し出してくる。
「私はノイン、それとこっちはシンシアよろしく」
ノインは一歩前に出てセレンの手を握る。その後シンシアの方にもセレンは手を出す。シンシアは恐縮した様子で恐る恐る差し出された手を握る。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ、シンシアさん。等級はあくまで指標に過ぎないから。むしろ気にし過ぎるのは良くないわ。冒険者の中には大して強くもないのにコネや金でランクを上げた輩もいるからね」
「そんな人もいるんですね。分かりました、すぐには無理かもしれませんが頑張って普通に接します」
シンシアはやる気を見せるように拳と強く握りこみ胸の前で構えるようなポーズをする。その微笑ましい様子にセレンは思わず笑みをこぼす。
「ふふっ、そうね。頑張ってね。」
三人が話していると手続きを終えたエミリーが小走りで近づいてくる。
「お待たせしました。おや、そこにいる方はセレンさんではありませんか。どうしたんですか?」
「王国のエミリーさんですか。あなたこそ何故帝国にいるのですか?私はこの二人が絡まれていたから止めに入ったんですよ」
「そうだったんですか。私はこのお二人の案内人のようなものですから本来なら私が対応しなければいけなかったのに。ありがとうございます」
エミリーがきれいな所作で深々とお辞儀する。セレンは一瞬訝しげな視線をエミリーに向けたがすぐに何事もなく話し始める。
「いえ、気にすることではありません。帝国の高位冒険者として当たり前のことをしたまでですから。それに今は神職についている身ですしね」
その言葉に反応したのかシンシアが横から口を挟む。
「神職というとルナール神殿に勤めているということでしょうか?」
「ええ、そうよ」
その返答に益々不思議だといった表情をシンシアは浮かべる。
「ルナール神殿はルナール神国直属の機関ですよね。そこに何故帝国の冒険者の方が働いているのですか?」
ルナール神国は王国、帝国と並び称される大国である。独自の宗教を国教とし、その教えを教育に組み込むことで生物の傷などを治す回復魔法と呼ばれる特異魔法を使う魔導士を量産することでどの国にも不可欠な人材を生み出している。その権威を駆使してどの国に対しても絶対中立を貫いているため国を取り締まるような立場を持っている。だから神国が他国に作る神殿にはルナール神国出身の人間を送るはずなのだ。
「別に今はおかしいことではないの。神国の国教であるルナール教の教えは厳格なものじゃないから各国に信者はたくさんいるのよ。だから、現地の人が働いても不思議ではないということよ」
「そうなんですか。私が見た本にはそんなことは書いてなかったのですが……」
「ああ、それは多分王国の神国を敵視する勢力が作ったものだったのよ。その人たちは宗教の教えを広めるのを侵略か何かと思っているから」
「大変なんですね」
シンシアは難しい顔をして呟く。そんなシンシアの肩をノインが叩く。
「そんなこと気にしても仕方ない。それよりもせっかくのチャンスを生かさないと」
「チャンス?」
シンシアは何のことか分かっていないのか小首を傾げる。その様子にノインは思い切りため息をつく。
「私たちが何しに来たか忘れたの?」
シンシアはそれでもわからないのか頭に疑問符が浮かんでいるような顔をしている。ノインはそんなシンシアを無視してセレンに声をかけた。
「私たちは討伐系の依頼に行きたいけど等級が足りない。だから私たちに付いてきてくれない?」
その願いにエミリーは苦い顔をしていた。それもそうだ。普通に考えて高位の冒険者が見知らぬ下級冒険者の付き添いなどするはずがないからだ。だが、セレンは悩む素振りもせずに意外な答えを告げた。
「いいわよ。私もあなたたちには少し興味があるから」
エミリーは驚いた表情を一瞬覗かせた程度だったがシンシアは誰の目から見ても驚愕していることがまるわかりの表情を浮かべていた。だが、ノインは敢えてそんなシンシアを無視して話を進める。
「ん。ありがとう」
セレンはその言葉を受けノインに向かってほほ笑んだ。その後セレンは行動の開始の合図のように手を打ち鳴らした。
「そうと決まればさっそく依頼を選びましょう。二人はどれがいいの?」
そう問われて二人は同時に同じ依頼表を指さした。その様子に四人全員からくすりと笑みがこぼれた。エミリーは指を指された依頼表をはぎ取り三人に笑顔を向ける。
「手続きは私がしておきますね」
三人は口々にお礼をいいセレンを先頭にギルドから出ていく。その後ろ姿をエミリーは笑顔で見送っていた。
「申し訳ありません。あの不届き物がご迷惑をお掛けしました」
その様子に周囲がどよめく。先ほどまでの静けさが嘘のようにざわざわと騒ぎ始めた。
「別にあなたが気にすることじゃない。それにあのまま放置していてもやられていたのはあいつの方だから」
「ええ、分かっていますよ。あなたたちがあの愚物とは比べ物にならないということは。ですが、ギルドの中で暴れたとなるとあの男に非があってもあなたたちも処罰される可能性があったものですから。余計なお世話だったでしょうか?」
「いや、そんなことはない。助かった、ありがとう」
ノインはそう言って頭を下げる。シンシアはその様子を意外そうな顔で眺めていた。
「それと敬語はいい。私たちみたいな下っ端に金級の冒険者がへりくだりすぎるのは良くないと思うから」
ノインは女の胸元に光る認識票を指さしながら告げる。
「確かにそれもそうね。気を使わせてごめんなさい。私はセレン・エーカーよろしくね」
そう言ってセレンは右手を差し出してくる。
「私はノイン、それとこっちはシンシアよろしく」
ノインは一歩前に出てセレンの手を握る。その後シンシアの方にもセレンは手を出す。シンシアは恐縮した様子で恐る恐る差し出された手を握る。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ、シンシアさん。等級はあくまで指標に過ぎないから。むしろ気にし過ぎるのは良くないわ。冒険者の中には大して強くもないのにコネや金でランクを上げた輩もいるからね」
「そんな人もいるんですね。分かりました、すぐには無理かもしれませんが頑張って普通に接します」
シンシアはやる気を見せるように拳と強く握りこみ胸の前で構えるようなポーズをする。その微笑ましい様子にセレンは思わず笑みをこぼす。
「ふふっ、そうね。頑張ってね。」
三人が話していると手続きを終えたエミリーが小走りで近づいてくる。
「お待たせしました。おや、そこにいる方はセレンさんではありませんか。どうしたんですか?」
「王国のエミリーさんですか。あなたこそ何故帝国にいるのですか?私はこの二人が絡まれていたから止めに入ったんですよ」
「そうだったんですか。私はこのお二人の案内人のようなものですから本来なら私が対応しなければいけなかったのに。ありがとうございます」
エミリーがきれいな所作で深々とお辞儀する。セレンは一瞬訝しげな視線をエミリーに向けたがすぐに何事もなく話し始める。
「いえ、気にすることではありません。帝国の高位冒険者として当たり前のことをしたまでですから。それに今は神職についている身ですしね」
その言葉に反応したのかシンシアが横から口を挟む。
「神職というとルナール神殿に勤めているということでしょうか?」
「ええ、そうよ」
その返答に益々不思議だといった表情をシンシアは浮かべる。
「ルナール神殿はルナール神国直属の機関ですよね。そこに何故帝国の冒険者の方が働いているのですか?」
ルナール神国は王国、帝国と並び称される大国である。独自の宗教を国教とし、その教えを教育に組み込むことで生物の傷などを治す回復魔法と呼ばれる特異魔法を使う魔導士を量産することでどの国にも不可欠な人材を生み出している。その権威を駆使してどの国に対しても絶対中立を貫いているため国を取り締まるような立場を持っている。だから神国が他国に作る神殿にはルナール神国出身の人間を送るはずなのだ。
「別に今はおかしいことではないの。神国の国教であるルナール教の教えは厳格なものじゃないから各国に信者はたくさんいるのよ。だから、現地の人が働いても不思議ではないということよ」
「そうなんですか。私が見た本にはそんなことは書いてなかったのですが……」
「ああ、それは多分王国の神国を敵視する勢力が作ったものだったのよ。その人たちは宗教の教えを広めるのを侵略か何かと思っているから」
「大変なんですね」
シンシアは難しい顔をして呟く。そんなシンシアの肩をノインが叩く。
「そんなこと気にしても仕方ない。それよりもせっかくのチャンスを生かさないと」
「チャンス?」
シンシアは何のことか分かっていないのか小首を傾げる。その様子にノインは思い切りため息をつく。
「私たちが何しに来たか忘れたの?」
シンシアはそれでもわからないのか頭に疑問符が浮かんでいるような顔をしている。ノインはそんなシンシアを無視してセレンに声をかけた。
「私たちは討伐系の依頼に行きたいけど等級が足りない。だから私たちに付いてきてくれない?」
その願いにエミリーは苦い顔をしていた。それもそうだ。普通に考えて高位の冒険者が見知らぬ下級冒険者の付き添いなどするはずがないからだ。だが、セレンは悩む素振りもせずに意外な答えを告げた。
「いいわよ。私もあなたたちには少し興味があるから」
エミリーは驚いた表情を一瞬覗かせた程度だったがシンシアは誰の目から見ても驚愕していることがまるわかりの表情を浮かべていた。だが、ノインは敢えてそんなシンシアを無視して話を進める。
「ん。ありがとう」
セレンはその言葉を受けノインに向かってほほ笑んだ。その後セレンは行動の開始の合図のように手を打ち鳴らした。
「そうと決まればさっそく依頼を選びましょう。二人はどれがいいの?」
そう問われて二人は同時に同じ依頼表を指さした。その様子に四人全員からくすりと笑みがこぼれた。エミリーは指を指された依頼表をはぎ取り三人に笑顔を向ける。
「手続きは私がしておきますね」
三人は口々にお礼をいいセレンを先頭にギルドから出ていく。その後ろ姿をエミリーは笑顔で見送っていた。
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