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魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~

ノベルバユーザー465165

13話

シンシアは大きな窓から入る朝日の光で目を覚ます。一人部屋とは思えないほど広い部屋の一角にあるベッドの上に少女は転がっていた。上半身だけ体を起こして目をこすり、手を組み天井目掛けて真っ直ぐに突き上げ筋肉を刺激する。少女の意識は覚醒し始め、前日の出来事が頭をよぎる。だが、自分の体を手でぺたぺた触るが傷は見当たらず痛みも感じられない。シンシアには何発も打撃をもらい地面を何回も転がった覚えがある。それなのに、一切の傷がないのはおかしいだろう。あれは夢だったのだろうか。少女は働きの鈍い頭を必死に回転させる。そのとき、無遠慮に扉を開け一人の少女が入ってくる。


「おはよう」


「おはよう、ノイン」


 ノインはシンシアのところまで来るとベッドの端に腰かける。


「傷の方は魔法薬で直したけど体の不調とかはある?」


 シンシアはその言葉を聞き、昨日の出来事は現実なのだと改めて自覚する。目の前の少女に手も足も出なかったことが思い出され若干の悔しさを覚えた。しかし、改めて考えるとそんなことよりも精神的な面で気遣われていたのだと分かり自分がひどく情けなく感じた。シンシアはブラッドに向ける感情の中で一番大きなものは恩や期待に答えたい、報いたいというプラスのものではなく失望されたくない、見捨てられたらどうしようというマイナスな感情だった。ノインはそれを見透かしたうえでその感情を発散でき、魔法習得への取っ掛かりをくれたのだ。感謝してもしきれないだろう。


「………うん、大丈夫。それとありがとう。あなたのおかげで私は少し前に進めたみたい」


 シンシアは深く頭下げる。その様子を見てノインは平然とした様子で答える。


「気にすることじゃない。私にも思うところがあった。だから、戦った。何かつかめたならあなた自身のおかげ」


 その言葉にシンシアは心を打たれた。長い間人のぬくもりに触れてこなかったためか常人以上に優しい言葉が深く突き刺さったのだろう。目頭が熱くなり、目の端から涙が零れ落ちる。その様子にノインは少し困惑した表情を浮かべ、どうしたらいいかわからず体を硬直させる。シンシアは涙を袖で拭うとノインの方を真っ直ぐ見た。


「ごめんね。いきなり泣いたりして。でも、気にしないでもう大丈夫だから」


 シンシアのその顔には一切の陰りはなく、何か解放されたかのような晴れやかな表情が浮かんでいた。ノインはその様子を見ると胸がチクリと痛んだ。


(善意でシンシアと戦ったわけじゃない。私はユニ様の指示の通りに動いただけ。それなのに感謝されるのは落ち着かない)


 シンシアはベッドから抜け出し、拳を天高く上げると宣言した。


「今日も一日頑張ろう!」


「あ……。言い忘れてたけどさっきにいが来て今日と明日は休みだって言ってた」


 それを聞いたシンシアは間の抜けた顔をしていた。






それから1日経ち、アインはカームベルの本拠地の霧の洋館に来ていた。この館には様々な施設があり、王城並みの広さを誇っている。ブラッドはまずそこの食堂エリアに向かった。もちろんここに来た理由は外に出ていたカームベルの構成員が帰ってきたと連絡を受けたからである。歩を進め食堂の扉を開き、中に入る。そこは数百人もの人が入るほど広く、何十人も座れるほどの長椅子が並んでいた。そのうちの一つにメイド服を着た少女が座っている。アインはその少女に近づいていく。


「ウル、久しぶりだな」


 少女は首をだけをくるりと回しアインの方を向くと口に含んでいたものをごくりと飲み込むと輝くような笑みを浮かべた。


「久しぶり!数か月ぶりかしら。お互い忙しかったものね」


「そうだな。特にお前の変身魔法は様々な工作を行うのに便利だからな」


「当たり前でしょ」


 少女は誇るように胸を張る。ウルの魔法はあらゆるものに変化する能力だ。人はもちろん岩や木のような生物以外にもなれる。そのため尾行や潜入の任務でいつも方々を飛び回っており、このアジトにいることは稀なのだ。だから、何か頼みがある場合はこの機会を逃せない。


「その優秀なウルに頼みたいことがあるんだが」


「分かってるわよ。帝国のごたごたのことでしょ?」


 ウルは意地の悪い笑みを浮かべていた。アインはこの表情を見て嫌な予感を感じたが構わず話を続ける。


「………ああ、それでこいつに化けて一か月後の次の皇帝を決める会議に参加してほしい」


 アインは一枚の似顔絵を見せる。それを見てウルはにやにやしながら答える。


「別にいいわよ。それで私に対する具体的な指示はあるのかしら?」


「それは追って伝える。細かい事項は変更になるかもしれないからな。それとこれも頼めるか?」


 アインは一枚の紙きれを渡す。ウルはそれを受け取りその内容を読み込んでいく。だが、まだ読んでいる途中でウルは視線を上げ、アインをじとっとした目を向ける。


「何これ。やること多すぎじゃない?私一人でこれをやれと?」


「その通りだ。ウルならできるだろう?」


「まあ、出来るけどこれだけのことをするんだから対価は必要よね?」


 ウルは期待するような視線をちらちらと向けてくる。


「分かっている。可能な限り望むものを用意する」


 ウルは途端に喜色に溢れる表情を浮かべる。


「やった!報酬ゲット!あ、具体的な要求は後から伝えるから精々財布を温めておいてね」


「はいはい。それじゃ要件も済んだし俺は行くぞ」


 アインはその場を去ろうと背を向けようとする。


「ちょっと待った!」


 アインは顔だけ振り向き暗に要件を言えと示す。


「せっかくなんだからアインもここで何か食べていけばいいじゃない。ついでに近況報告も聞きたいし、ダメ?」


 ウルは上目遣いで甘えるような声を出し聞いてくる。アインは軽くため息をつきウルの座っている椅子の反対側に座る。


「よかった。聞いてみたかったんだよね、アインの弟子について」


 ウルの表情からは先ほどの可愛らしさは一切なくなっていた。その様子に再びアインはため息をついた。



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