小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

人生の学び


 赤とんぼが佐藤さんの周りをくるくると飛び交い,いかにも神秘的な場面を演出している。

「何の話をしていたの?」

 佐藤さんは仁王立ちして繰り返す。その姿は真夜中にいる神社の銅像よりも何倍も恐ろしかった。

「きっとまた男達でこそこそとスケベな話をしていたのね。もう知らない」

 そう言って風を切るようにしてひょうひょうと歩いて行った。
 しばらく進んだところで立ち止まり,くるりとこちらを振り返った。肩の上で切りそろえられた髪がなびく。少し遅れるようにしてスカートも世の中の物理の法則に従うようにしてくるりと回った。
 ぼくたち三人は身構えた。佐藤さんがぼくたちの横を通り抜けたとき,三人とも身動きを取ることが出来なかったため佐藤さんとの距離は三十メートルほどあった。
 佐藤さんの肩が持ち上がり、全身にくうきを取り込んでいるのが分かる。

「私だって,なつみさんみたいに素敵な女性になって見せるから! たくさん勉強して,本も読んで,出るところだってこれから出るんだから!」

 肩を上下に揺らして息を整えると,またきびすを返して去って行った。
 中川くんはほっぺたを赤くして,佐藤さんが立ち去っていく姿を見送っている。
 ぼくからこれからもたくさん勉強して,立派な大人になりたい。でも,どれだけ勉強したって,女心は分からないのだろう。この答えは世の中のどこを探しても見つからないのだ。


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