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小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

観察

 その日は一日,佐藤さんを観察していた。相手が求めているものは何かということを見極めるためだ。
 いったい佐藤さんは何に怒っているのだろう。もしかしてぼくが魔法にまんまと引っかかったから? でもそれは佐藤さんには一切関わりの無いことなのに。
 頭の中で考えが浮かんでは消える。

「佐藤,いい女だよな~。あれはべっぴんになるぞ。頭も良いし,気は強いけど優しいところもあるからな。お前の気持ちも分かるぞ」

 いつの間にか横に中川くんがいた。彼も佐藤さんを見つめながら,ぼくに話しかけている。

「コウシ,お前ずっと佐藤のこと見てたな。惚れたのか?」

 周りの目を伺いながら,そしてその答えを決して聞き逃す前とぼくの口元に耳を寄せるような格好で中川くんは尋ねた。中川くんは,佐藤さんが好きなのだ。

「確かに,ぼくは佐藤さんを見ていた。それは認めるよ。でも,中川くんとは全く違う感情が原因であることは明らかにしておく必要があるな」
「何だよ,違う原因って」
「それを話すのには骨が折れそうなんだ。というより,ぼく自身その答えを持っていないからね」
「また難しいこと言っちゃって」

 二人で話し込んでいると,「こそこそとみっともないわね,男のくせに」と声がした。
 そこには般若のような顔をした佐藤さんがいた。そして,ちょっといいかしら,と言ってくるりと背中を向け,廊下へと歩いて行った。


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