小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

微笑む表紙

 家に着くと,さっそく本を開いた。まえがきを読んで目次から読みたいページを開き読み進めると,時間が経つのも忘れて夢中に読み進めた。
 今まで読んだ本と共通するところがあれば,新しい発見や今までに無い視点を与えてくれるところもあった。エピソードと共に幸せに生きる方法を教えてくれるその本はとても魅力的だった。なつみさんは良い本を紹介してくれた。
 脳が疲れてきたので人休みすることにした。本当に集中すると,もちろん目も疲れるのだが脳みそが疲労する。たくさんの栄養と刺激をもらって休憩を求める。そうして休んでいるときに,ぼくは心地よさを感じる。脳みそを休ませながら学んだことを整理したり感じたことをおさらいしていると,なんだか賢くなっている気がする。
 一通り考えを巡らせていると,丸堂書店でなつみさんに言われたことが頭によぎった。


 女の人は敏感だから気をつけるのよ


 その言葉を思い出すと,ぼくが大人の雑誌を指さされてドギマギしていたことや,三浦くんの家で魔法にかけられていたことを見抜かれた恥ずかしさで顔が熱くなる。いや,魔法をかけたのは夏美さんなのだからぼくが引け目を感じる必要は無いという気持ちもするのだが,そんなことを言ってもしょうがない。
 それよりも,ぼくの心の中でつっかえているのはその後に言われた言葉だ。


 佐藤さんにも謝った方がいいかもね。言葉は十分に選ぶのよ


 思い出した途端,なつみさんのその言葉が頭の中でリピートボタンを押したみたいに何度も再生された。
 ぼくはいったい何を謝れば良いのだろう。そして,言葉を選ぶとはどんな言葉を選べば良いのだろう。もしかしたらその問題に対する答えがこの本に載っているかも知れない。
 ぼくは再び,その本を手に取った。表紙を飾っている外国人がぼくに向かって微笑んでいる気がした。


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