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小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

なつみさんは小悪魔


 なつみさんは迷うことなくずんずん進んでいく。さすが書店員。どこにどんな本があるかは当然のように頭に入っているらしい。それよりもぼくを驚かせたのが,どんな本を探しているのかなどを一切尋ねることなく本を紹介しようと言うことだ。顔を合わせたのは三浦くんの家に行った一度きりのことで,それ以来は話をするどころか会ってもいない。そのことが逆にどんな本を紹介してくれるのだろうという好奇心を一層書き立てた。
 これなんてどう,と指さされたのは,雑誌が並べられたコーナーだった。その指先を見ると,思わず目をむいてしまった。なつみさんが指さしていたのは,大人の女性が肌のほとんどが隠されていない水着を着てポーズを取っている表紙の雑誌だったからだ。

「こういう本を紹介されるとは思っていなかったです」

 胸がドキドキしているのが聞こえているのではないか,と不安になりながらなつみさんに言った。「ぼくは立派な大人になるために本を読みたい」と付け加えると,なつみさんは不敵な笑みを浮かべた。

「これも大人になる人が読んでいる者だと思うけど」
「いや,ぼくはまだ興味がそういうことには向いていないんです」
「そう? うちに来たときはそういうことに興味津々って感じだったけど」

 舌をぺろりと出して笑った。

「からかってごめんね。でも,女の人はそういうことにすごく敏感だから気をつけるのよ」

 ぼくの顔がゆでだこのように真っ赤になった。鏡を見なくても分かるぐらいに体温が熱くなる。
それから,と少し意地悪な顔をしてなつみさんは続けた。

「佐藤さんにも謝った方が良いかもね。言葉は十分に選ぶのよ」

 ふふっと笑ってなつみさんはくるりと振り返り、来た道を戻っていった。ぼくはなつみさんの言ったことをしばらく頭の中で考えた。


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