小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

変な気分


 帰りの会が終わると,風のような速さで三浦くんがぼくの席へとやってきた。きっと,あのスピードで五十メートル走を走っていたなら陸上記録会で表彰台に上がることが出来たのは疑う余地がない。しかし,教室の中では俊敏な動きができても,トラックの上ではスロービデオで撮影した映像を再生しているようにしか動けないのが三浦くんだ。そこに三浦くんがみんなから愛される理由の一つだ。

「コウシくん,今日は一緒に丸堂書店に行く約束だったね。覚えてる?」
「何をそんなに慌てているんだい。忘れるわけ無いじゃないか」

 周りをキョロキョロして不安そうな三浦くんを不思議に思っていると,来た,と呟いてそのまま固まった。その視線の先を見ると,中川くんが帰りの支度を済ませてやってきたところだった。同級生よりも一回り大きなその身体は,みんなと同じサイズのランドセルを背負っているせいでおもちゃも身に付けているようだった。

「コウシ,行こうぜ。そうだ,今日は三浦も来るんだったな。なんか,おれたちが一緒にいるって何だか変な気分だな」

 「そうかな,別に変とは思わないけど」とロボットのようなカタコトな言葉で三浦くんが返事をした。気温はそんなに高くはないのに,鼻の頭には汗をかいて唇は嫌に青い。ほんの数秒前までは桃のようにきれいな表情をしていたのに。

「三浦、お前具合悪そうだぞ。まっすぐ帰った方が良いんじゃないか?」
「ぼくは大丈夫だ! 絶対に一緒に行く!」

 自分の声の大きさにびっくりしたかのように,三浦くんは肩をすくめてまわりを伺う。近くにいた人は初めて聞く三浦くんの大きな声に少し戸惑ったようだが,すぐに教室を出て行った。

「そんなに大きな声を出すなよ。ちょっと心配しただけだって。大丈夫ならさっそく行こうぜ。ついでに三浦も本を紹介してもらえよ」

 心配してくれたの,ときょとんとした顔で三浦くんは呟いた。そして,ずんずんと進んでいく中川くんの後をまるでひよこのように付いていった。


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