小学生のぼくは日記を書くことにした
中川くんの成長
この日の出来事は僕たちの関係を,いや,教室の雰囲気を一変させた。
まず何より,中川君はぼくにちょっかいを出さなくなった。それに加えて熱心に本を読むようにもなった。
こんなことは今までの様子からは考えられなかったが,昨日のやりとりが中川君に影響を与えていることは間違いなかった。
ぼくは気になり,中川君の元へと歩み寄った。集中して本でいるところ申し訳ない気持ちもしたが,ぼくとしてはどうしても中川君の心境の変化を捉えたかったのだ。それがこれからのぼくの人生を有意義な物してくれるかも知れないとなんとなく感じたからだ。できるだけ驚かせることのないように,机を回り込んで彼の正面に立ち,視界に入るように努めた。それでも集中した中川君は,本から顔を上げることはなかった。本の表紙には丸々と太った像が大きく描かれている。
「何を読んでいるの?」
ピクッとほんの少しだけ驚いたような反射を見せて,初めてそこにぼくがいたことを認識したような顔をした。
どうやらそうとう熱中していたようだ。何を読んでいるの? ともう一度尋ねた。
「あ,これか? 昨日さ,家に帰ってから母ちゃんに聞いてみたんだ。何かおもしろい本ないかって。そしたらさ,うちの母ちゃんが『本なんかうちにあるわけ無いだろ』って言ってさ。確かにうちで文字ばっかりの本を見たことはないんだけど。それで,本を買いに行きたいって言ったら『どうせ読みもしないし金の無駄だ』って最初は言ってたんだけど,昔もらった図書カードがあるっていってくれたんだ。それを持って本屋に行ったら,何を買ったら良いか分からなくて」
読んでいた本の表紙を見つめて中川君は話した。そこで一旦話は一段落して,どう話そうか考える様子を見せた。中川君が物事を順序立てて話をしようとするのを見るのは初めてかも知れない。
「それで,表紙を見ておもしろそうって思ったの?」
まるで自分が何を伝えたかったのかを今思い出したかのように中川君は答えた。
「本屋にいた店員さんに紹介してもらったんだ。そもそも本を知らないし,どんな本を読みたいのかも分からなかったからな。でも,本を読んだら賢くて立派になれるって言ってただろ? おれは賢くて立派になりたかったんだ。だからお店の人に『賢くて立派になれる本を教えてください』って言ったんだ。なぜかその女の人は笑っていたけど,『問題集のようなものかな?』って言うから『ドリルならやってないのがたくさん溜まっているからいい』て言ったんだ。そしたらお姉さんはまた笑って『読書がしたいのね』って言うからそうだって言ったら二冊紹介してくれたんだ。なんかへんてこなキャラクターが描いてあったこっちを読むことにしたんだ」
なるほど。書店員におすすめされた本を読んでいるということだ。中川君がこんなに熱中する本を見事に差し出したその店員に是非会いたいと思った。
それでな,と中川君は本の中身について話し始めた。その話は,ぼくの中川君を見る目を変えさせるのには十分な内容だった。
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