小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

備忘録

 備忘録として,ぼくが今日学校でしたことを書き記しておこう。
 まず登校してから校門をくぐった時に立ち止まった。教室に行くべきか校長室に行くべきか考えたためだ。校長室に行こうと考えたのは,教室で学ぶ前にこの学校で一番偉い人にあいさつをするべきではないかと考えたためだ。少しの時間考えていると,そもそも校長先生は今学校にいるのかを確認するべきだと思った。偉い人はものすごく早く来るか,仕事が始まるぎりぎりに来るかのどちらかだと何かで見たからだ。極端な人が人の上に立てるという言葉が大変印象に残っている。
 ともかく,校長先生は学校にいるのだろうか。駐車場の方へ眼をやると,校長先生クラスが乗っている高級車はまだ学校の駐車場の一番玄関の近くには停まっていなかった。偉くなると,車も部屋の座るところも,一番便利なところを使えることをぼくは知っている。だからぼくはそのまま教室に向かうことにした。壁に掛けてある時計を見ると7時45分。いつもと同じ時間に家を出た。この壁に掛けられた時計を見るといつもは7時30分だから,15分ほど校門をくぐってから時間を使ったようだ。ずいぶんと頭をつかったものだ。
 それからまっすぐに教室の入口へとたどり着いたのだが,そこでもまた立ち止まった、教室に入ってまず何をするべきか考えたためだ。生きるということは考えるということだ。ぼくは凄いペースで立ち止まって考えている。ぼくは今を生きている。考えていたことは,教室に入ってまずは荷物を整理するべきか,それとも友達の所へ行って雑談をするべきか,佐藤さんの様子を伺うべきかということだった。この答えを見つけるのは大変難しい。どれも大変大切なことのように思われたからだ。しばらく教室の入り口で立ち尽くしていると,「コウシくん,さっきから何をしているの」と三浦くんに声をかけられたわけだ。
 こうして今日のことを振り返ってみると,朝から大変不思議なことをしていたようだ。

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