小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

ぼくの視線は魔法のふくらみにくぎ付けになる



 三浦くんの家に着くと,エプロン姿のきれいなお姉さんが迎え入れてくれた。ずいぶんと若いお母さんだと思っていたら,大学生のお姉さんらしい。三浦くんのお姉さんはとても優しい。部屋に案内してくれたあと自分で焼いたというクッキーを出してくれた。それは程よい硬さで,すこししっとりしていてとても美味しかった。ぼくは「ありがとうございます。三浦さん」とお礼を言ったがひどく笑われた。なぜそんなに笑うのかよく分からなかったが,三浦くんと佐藤さんの方を見ると二人も何だかおかしそうだった。いろいろと話すうちにぼくと佐藤さんは三浦さんのことを,なつみさんと呼ぶことになった。

「今日はお母さんが少し遅くなりそうだから,おもてなしが出来なくてごめんね。今日は私がご飯を作るのだけれど,よかったら食べていかない?」

ぼくたちはなつみさんの作った晩御飯を食べて帰ることにした。おばあちゃんが心配するといけないというと,なつみさんは電話を貸してくれた。「そうかい。それはお世話になるねえ」とおばあちゃんはすんなりと受け入れてくれたが,佐藤さんは家に電話を掛けたものの一筋縄ではいかない様子だった。何度かのやり取りのうちに早めに帰るということで了承をもらったようだ。ぼくはあんなにぷんすかしている佐藤さんを初めてみた。佐藤さんはクラスの男子にちょっかいを出されてもちっとも相手にしないけれど,おうちの人に晩御飯を食べて帰ることを許されないとぷんすか怒る人なのだ。
 なつみさんはとても手際よく料理を作った。あれよあれよという間にテーブルがいっぱいになり,いただきますをする段となった。エプロンを外したなつみさんも食卓へ座った。ぼくは思わず目が行ってしまった。なつみさんの心臓のところには不思議なふくらみがある。もしかしたら人よりも心臓が大きいのかもしれない。

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