小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

中川くん,きみは恋をしているな


「昨日は悪かったよ」

中川くんが神妙な顔をして謝りに来た。どうしてそんな態度を取っているのか,何に対して謝っているのかも分からないぼくは中川くんの顔をじっと見つめた。
 返事の返ってこないことにじれったさを感じたのか,中川くんはもぞもぞしだした。身体がチンアナゴのようにゆらゆらしているのをみてぼくは思わず笑いそうになった。チンアナゴは,宮坂くんが授業中によくやる座ったまま眠る技で,その技は必ず先生に気付かれて怒られるというオプションまで付いている。そこで終わらずに檄を飛ばされた宮坂くんは,まさにハトが豆鉄砲を食らったような顔をして面食らったようにしてそこから動かなくなる。ぼくはこの現象を,”チンアナゴの食物連鎖”と名付けた。これを三浦くんに言うと「あまりにもネーミングセンスがなさすぎる」と返された。三浦くんが言うからきっとそうなのだ。
 そんなことを思い出しながら笑いをこらえて中川くんを見ていると,今度は目線が泳ぎだした。先生がきたのだろうか。それとも何かほかに具合が悪いことがあるのだろうか。ぼくは中川くんの目線の先を捉えようとして追った。その視線の先を捉えて,少し考えるとぼくはひらめいた。

「中川くん,きみは佐藤さんのことが好きなんだろう」

近くにいた何人かがこちらを向いた。中川くんはぼくの頭をぶった。

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