小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

正義が勝つとは限らない



 正義がいつも勝つとは限らないことは,大きくなると誰でもわかる。「正しいことをしていても報われないことがある」というのは大人が見ているドラマにも描かれているし,そういった話に共感が多いというのは人生とはそういうことだということを表しているからなのだ。
 ぼくの人生でいうならば今日がそれを実感させる日となった。ぼくとジンカクシャ三浦くんが悪代官中川くんとそのコマである宮坂くんに詰められている。小さいころから見てきたアンパンマンであれば,ここで一度はやられておいてあとで必ず借りを返すという展開になってのだろう。しかし,ぼくの考え方をここで言わせてもらうと,こんな卑怯者には一度も負けてはならない。ぼくはアンパンマンのようにお決まりのパターンでジャムおじさんがやって来るまでやられるつもりはないし,逃げるなんてのはもってのほかだ。力に屈したら男に生まれた意味がないってやつだ。

「特に何か話があるわけではないなら,どけてくれないかな。ぼくたちは賢いから力で争うつもりは全くないんだ。君たちが何もする気がないなら,特にこれから面倒なことが起こることもないと思うんだ」


中川くんは何も言わずにニヤニヤ笑ってこっちを見ている。宮坂くんはどう動けばよいのか分からないらしく中川くんの表情を伺って,一緒になって目じりを下げてこちらを見ることにしたようだ。本当につくづく情けないやつだ。

「じゃあ,そういうことでまた明日」
「ちょっと待てよ」

帰ろうとすると,案の定制止させられた。これからよろしくないことが起こりそうな予感がするけれど,恐れることはない。三浦くんは穏便に済むようにと特に口を開かず,下を向いて黙っておくことにしたようだ。さすがジンカクシャ。

「お前たち,なんだか偉そうだな。中川組の子分になるなら今日の無礼は見逃してやるぞ」
「どうして,ぼくたちが子分にならないといけないのだろうか。きみたちに教えてもらうことは何もないと思う」
「なにをーー!」

中川くんは手を振りかぶり,ぼくの頭をはたいた。口を開いて暴言を言いかけた時,

「やめなよ!!」

佐藤さんが声を荒げた。同じクラスの男子からも女子からも好かれている女の子だ。話をしたことは記憶の限りではまだない。

「よく分からないけど,一方的に暴力を振るっているみたいでひどいじゃない。中川くんはそんなことをする人じゃないと思っていたのに」
「違うんだよ。こいつらがけんかを吹っかけてくるから,ついかっとなって・・・・・・宮坂,いくぞ」

こうして,正義が勝つとは限らないけれど,ジャムおじさんのような女の子がいるかもしれないことをぼくは学んだ。

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