三日月
(40) また寝た
さて、お仕事が終わって、楽しみにしていた、お宅拝見のお時間だ
カズの家に上がるとまずキッチンにいる博子さんに挨拶をした。
それから、紅茶をお願いして部屋に向かう。
今日着ている服は先日買ったシャツのワンピースだ。
柔らかい水色で、細くストライプが入っていて胸元にネックレスが少しだけ見えている。
「先に部屋に入っててくれる?ドアを開けてあるから。」
カズの部屋は、2階奥の左手で私の部屋と向かい合わせになる。
中に入ると一番始めに目に飛び込んで来たのは窓だ。
全開なので私の部屋の窓がよく見える。
こざっぱりとしていて、シックなこげ茶のフローリングに壁はクリーム色、家具は4つしかない、カーテンと同じ紺色のソファーとベッド、それに電子ピアノとパソコンの置かれているシルバーのテーブル。
なんて物のない部屋なんだろう。 男の人ってこんな部屋で生活できるものなの?
カズが紅茶と、みかんとぶどう、それに煎餅を持って部屋へ入って来てテーブルに置くと
「ちょっと聞いてて!」と言って、ヘッドホンのコンセントを抜いて電子ピアノを弾き始める。
その曲の始まりは、冒険心や希望など掻き立てられるメロディーで、徐々に懐かしの校歌へと姿を変えていく。
好奇心膨らむあの頃が蘇る素晴らしい前奏だった。
その伴奏に合わせて、校歌で覚えているところだけ合わせて歌った
「カズ良い!とっても良いと思う。」
「これは同窓会で弾くんでしょ?カズが編曲したのね、とっても良かった、皆んなあの頃に帰れるわね!」
「だろ?天からアイディアが降って来た、自信作なんだ。」
「本番を楽しみにしてます」
「ところで、どんな服着れば良いのかな?カズは何着るの?」
「オレは普段と代わり映えしない、あの会社に着て行ってる感じじゃないかな?エリはジャージだろ?毎晩お散歩に着てるアレ。オレもジャージが無くて残念だよ」
「真面目に!」
「恵比寿で買ったワンピース着て行ったらモテるぞ!」
「じゃあそれにしよ。似合ってるって意味でしょ?言っとくけどカズからしたら私は変化してるけど、他の人からしたら興味のない事なのよ。」
「あまり言い過ぎたかな?気に障ったらごめん。」
「私の方こそ、ムキになるような事じゃないのにごめん!」
本当の恋人同士も、こんな感じて仲直りするのかな??
「紅茶飲もうか?あれっ?テーブル無いと不便だね、どうしようか?来客なんてないから、必要なものがわからなくてとりあえず全部しまった。」
だから何も無いのか!
カズったら、ホント面白いんだから。
「極端にしまいすぎじゃない?これからお友達を呼ぶなら必要かもね!今日はこれで良いとして、私はみかん食べる。」
みかんを1個取ってテーブルで剥くと、電子ピアノの椅子に座るカズの前を横切り、ソファーに座った。
「あれっ?ティッシュも必要なんじゃない?ゴミ箱とかは?」
「本当だ!無いと不便だね、1人だと全く気がつかなかった。今持ってくる、他に必要なものがあったら教えて!」
ソファーに座ると膝が出て気になった。
ヤダな、でもベットには座れないし床はクッション無いから固いよね?
「お待たせ、ティッシュどうぞ!」
「ありがとう」
「他に何か必要なものある?」
「もし出来たら、膝にかけられるものがあれば助かります。バスタオルでも」
膝小僧に視線を感じた気がして、ますます気になる。他人の部屋に来るのって、こんなに落ち着かないものなの?
「わかった、探して来る」
何か家から持ってくれば良かった。
わざわざ取りに行ってもらって申し訳ないことしちゃった、落ち着かないな、何したら良いの?
帰りたい、、。
「お待たせ、タオルケットでいいかな?」
「それ、パーフェクト!サンキュー」
サンキューって言っちゃった。
私らしさが崩壊していく、、3人に感化されて来てるよね?これで良いのかな?
「初めて部屋に来てくれたのエリで良かった。他の人だと気を遣ってしまってソワソワしたかも」
あれ?そうだ、私が部屋に呼んだときもカズだから安心したんだ。
カズも私と同じように落ち着かなかったんじゃないのかな?
「カズ、私の部屋に来てどうだった?」
「そうだな、もともと窓の外から見ていて中がどうなってるのか気になってから、見るまでは楽しみにしていたんだけど入ってからは緊張しっぱなしだった。 エリの家はうちみたいに所帯染みてなくて、なんかシャレてんな?忍さんインテリア系のお仕事だったよな?」
「そんな感じかな?外国から家具を輸入している会社よ」
  カズもやっぱり  私と同じように落ち着かなかったのね。
「そう言えば、昼休み熊に連れて行っちゃってごめん、ゆっくり休めないだろ?あの分じゃ毎日来るぞ」
「大丈夫よ!楽しいから。」
「ココハちゃんも、どうやら熊のこと気に入ってるみたいだな」
「そうね、2人の会話を聞くのは楽しいわ、カズと戯れてるとこ見るのも好きよ!気が付いたら最近お昼休みに全然ゲームもしなくなっちゃった」
     カズは紅茶をテーブルに置いてベットにゴロンと寝そべったので嫌な予感がする。
「カズ、また寝るでしょ?」
「え?ちょっとは眠いけど大丈夫、耐えれる。仕事が始まってから、お昼寝必須な体質になってしまって、、、エリは眠く無い?」
「たぶん眠く無い」
「なんか、エリの話して!子供の頃の話とか」
「ん~。あまり楽しい話では無いからしたく無いな。」
「そっか。いつか話してね、楽しくない話も、彼氏には話すものだ」
「そんなことまで 彼氏に話すものかどうかはわからないけど、ところでカズは?何か思い出話とかある?」
「そうだな。オレ、エリの視線が怖かった、ような気がする。軽蔑されたり、見下されたりしたく無くて、初めて会った時からなんていうか見透かしてるっていうか他の奴らとは全然違ったんだよな。大人びてて」
  カズって、そんなふうに感じてたんだ。
ただ私の事が嫌いなだけだと思ってた。
「うん、多感な時なのにいろんな事があって、ささくれ立っていたの。」
「エリはオレに対して、つい最近までささくれ立ってなかったか?やっと普通に話してくれるようになったよな?嫌いだったんだろ?」
   嫌いか、それも勘違いね、そんなふうには思ったことはないから。
「嫌いと感じたことは一度もないわ。たぶん悔しかったんだと思う、信じてたから、最初に会った頃、空っぽ頭の集団に妬まれて 嫌がらせされてたでしょ?それをシカトしてたよね、それで私もそんな風に強くなろうって決めたの。」
「美化し過ぎじゃない?妬まれてるとか、強いとか」
「そうかもね、話してみたら実際は 結構間抜けだったみたい。」
「そうだよ、間抜けだよ。もっと早くエリと話が出来てたら良かったよ」
   いつの間にか私もリラックスしてソファーに横になっている。
   今にも寝そうなカズの声が気になって、ベットを見ると、こっちを見てはいるが目はトリップしている。
あまりにも面白い顔だったので、スマホ、スマホ、と探して、動画をバッチリと撮るが全く気が付かないで、またもや寝てしまった。
これってさ、目を開けたまま寝てるってことよね?これは彼女に見せられないわ。。
もう!何よ、人を呼んでおいて、、帰ろ。
寝ているカズに付き合う義理は無いと、家から出たところでスマホが鳴った。
神からだ
「友達と飲みに行け」
どういうこと?明日あゆママの店に一緒に行けって事かしら。
んー?誰かに見られているような不気味な感覚ね。
ここまで私たちの行動を把握出来ている人なんていないわ。
アニメの世界なら、深層心理とか奥深いトコに潜り込んで、自分が自分をコントロールするとか?
政府の実験台にされているとか?そんな天才集団の話難し過ぎて、、そうなるとお手上げで身を委ねるしかないわ!
待って、そうなるとカズも実験台ということにならないかしら?
それならいきなりの変化も納得出来る。
カズにも神の声が聞こえていたりする?
さっき撮った動画を見て、その間抜けな顔に声が出て笑った
「カズが天才だったり神だったりすることは、間違ってもないな。目を開けたまま寝人研究の被験者?」
夜のお散歩に普段通りに現れたカズが
「また寝ちゃってごめん」
と、言うので顔に落書きでもしておけば良かったと思って
「次寝たら眉毛を繋げます」
と言っておいた(目を開けて寝てるから瞼に目玉が書けないからね。)と心の中で呟いて愉快な気分になったが
「エリが寝たら、眉毛繋げても良い?」と、言い返されて、それは困るので、ちょっと悩んでしまった。
それから、明日のあゆママのお店を一緒に行く。
と、3人で予約してもらって、別れの儀式をしてから今夜は帰った。
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