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三日月

ghame

(62)終わりの時

 
 今夜の合コンは、、

 同僚の話ではオレの隣に座った、ナースが有能な情報屋だと言う事なのだが、彼女は積極的に連絡先を聞いて来た。
 まだ入社し立てのオレには、そんな事に付き合う余裕も無く、ただ軽薄な香りしか感じない彼女の話を聴いているフリをして過ごした。


 それより、今夜は何故か初めて神からのメールの無かったことが気になった。

 月曜日に続き、今夜もエリは、用事がある。と、お散歩を断って来たことにも嫌な予感がしていて、カネの話を振ると、あからさまに動揺する事と関係している気がしている

終わりが近づいているような。
 メッセージの無い事が不吉なメッセージに思え胸騒ぎがして、なんだか今夜は落ち着かない


 明日も仕事があるので、二次会には参加しなかったというのに、最寄り駅に着いた頃には11時近くになっていた。

 家の前のいつもの細い路地を自転車で帰っていると、珍しくタクシーが停まっていて、中では恋人同士が別れの挨拶でもしているようだ。

 通り過ぎるときに、チラッと出口側の女性と目が合った。
 「エリ!?」
 あまりの衝撃に、自転車がひっくり返りそうになりながら、ブレーキをかけて急停車した。
 本当は見たくは無いのだが、確認をせずには居られないオレは
 スローモーションで振り向くと、、

 車の中から人影が 2つ降りて来るのを確認した
その様子は、恋人同士に見える

「カズ!!」

   弱々しいエリの声が聞こえる。

頭の中は真っ白で、状況が全く飲み込めなくて
 ただ見開いた目で、二人の顔を交互に見ることしか出来ないでいる

 普段は、自転車通勤のなのでパンツ姿しか見せることの無いエリが、今は女性らしいスカート姿で隣の男の為におめかしをしていて、それは誰が見ても明らかにデートだ!!

(へえー。エリはデートの時は、あんな服を着るんだ)
 知らない男の隣に立つエリが、知らない女に見えて来る

 一番初めに口を開いたのは、その知らない男だ

「これは驚いた!!君は、変わらないね。桜井三日月くんだね?!同窓会では会えなくて残念だったよ、。私は鈴木、ズキだよ。
 覚えてるかは知らないが。その表情から推測すると、私は君に伝えなくてはならない事があるようだ。
 今夜、佐藤海里さんにプロポーズを申し込だ
そして返事はまだもらっていない。
 私は経済力もあり独身だ。君と同じように、初めて会った中学生の頃から彼女の事が好きだ」

 この言葉は、きっとコイツからの挑戦状だろう。
男として、そんな事は悟った

 だが、つい最近までニートだったオレは、それに対して返す言葉など見つからない、こんな立派な男に叶うわけが無い。
 何か話そうとするが、目眩と、頭痛がして来て

 自転車のハンドルを強く握り、口内を前歯で噛みしめた痛みで、悔しさや、絶望感を押さえ込んだ

 鈴木の話を、ちょうど2人の真ん中で聴いていたエリが、真っ青な顔をしてオレとの距離を縮めながら彼に話しかけている
「ズキ、カズと話がしたいわ。今夜はどうもありがとう、おやすみなさい」
「ああ。エリちゃん、彼とゆっくり話をしてみて!お休みなさい。また、連絡する」

 鈴木は勝者が持つ余裕を見せ、待たせてあったタクシーに乗り込み行ってしまった

 静けさの中、2人は暗闇に取り残され、その闇はオレの周りからゆっくり広がって行くイメージにゾッとしながら飲み込まれて行った

 しばらく自転車にまたがったまま、オレはその広がり続ける闇の中で放心して動けないでいた
 そして、やはりエリに語りかける言葉も思いつかないまま
 沈黙は、長く続いた

 頭の中をグルグル回るのは、エリはあの男を選んだんだ。
 と、言う絶望的な悪夢で、アイツは誰だ?いつからだ?プロポーズとは?
 何一つ気が付いていなかった事への後悔、それ以前に40年間いったいオレは何をやっていたんだ!!と言う想いが頭を満たし、破裂寸前になっている

 祖父が話してくれた、勝負の時が どうやら訪れたらしい。

 そんな中、こうも考えてみる。
親友が、素敵なパートナーを見つけた。
 彼はオレより、エリを幸せに出来るから、祝福してあげなくては。
  
 無理だそんな気分になんてなれない。

 エリが離れて行ってしまうなんて、、
胸が張り裂けてしまいそうで、深く息を吸い込み、そして深く息を吐いた

 もう一度、深く息を吸って、深く吐いた
 
 居なくなってしまう事なんて、考えた事など無い

「カズ」

 名前を呼ぶ弱々しい声を辿り見ると
エリの顔は泣きじゃくっている。
 オレの視界に入るエリを見守っていると、何度も、何度も、目を擦って、滂沱の涙を流している

 こんなに弱り切ったエリを、オレは抱いて慰めてはいけない一線が引かれてしまった。

「カズ、泣かないで」

 何だって?オレは泣いているのか?いったいいつから?アイツがいる時からか?

「カズが泣くと、私も涙が止まらない、カズ、カズ、もう泣かないで」

 エリが、その場にうずくまり、丸く小さくなって行く、このまま消えて無くなってしまうんではないか? 
 そんな映像が浮かび、奇妙な気分になって来る。
きっと頭が錯乱しているのだろう

 今にもエリへ向かって 両手を伸ばしてしまいそうな自分を押さえていると
 無言のままのオレをよそに 

 堰を切ったような エリの一方的な話が続く

「ズキには断るから。クリスマスにピアスもカズに買ってもらう。動物園も年パス使い切る。それに、シャボン玉の液が無くなってもまた動物園に買いに行こ。それなら良い?
 カズに 本当の彼女が出来るまで練習付き合う約束する」 

何と言う事だ!エリに何を言わせているんだ?

 オレに彼女が出来るまで 練習に付き合わせていいわけが無い。
 なんとか、この状況を持ち堪えたようで、正気を取り戻した

 神は、やはり今日オレを見放したんだ。
それを理解した。

オレの大切な妖精は、飛んでいってしまった、、
  そう確信した。

「エリ、オレは大丈夫。ビックリしただけで祝福する!幸せになってくれよ。エリ、立てる?帰ろっか?」

 優しいエリを苦しめたくは無かったので、精一杯の無理をして 明るい声で伝え
 自転車から降りると、家までは並んで歩いた

 そして
今夜は儀式をしないで それぞれの家へと消えって行った



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