三日月

ghame

(61) 挑戦

          
     6月11日 木曜日

 昨夜来た神からのメールは衝撃的だった。
クリスマスまでは、カズのバーチャル彼女でいよう。と、決めた矢先に

「運命の人は目の前です。決断の時が来ました」

 それは、今日ってこと、、よね?

 今日、ズキに返事をしないといけないってこと、よね?
 そんなの無理、まだ返事なんて出来ない。
 三人にズキの事を何って言って紹介するのよ?
間違いなく、四人の関係が崩れてしまう。
 そんな事絶対に嫌!

  そうだ。
 カズは7時半に出勤よね?
なら、まだ部屋に居るわね、顔を見に行きましょ。

 今日も、カズの部屋の窓は早くから既に開けてある。
 お隣さんの窓は毎朝6時に開けるようだ。
 私は、その窓にストーカー行為をしているとバタバタとネクタイを締めながら室内に入ってくるパリッとしたハンサムな男性が今日も見える。

 彼は私の覗き行為に気がつくと、顔いっぱいの笑顔を、窓から見せ、「オハヨ」と言う。
 私も負けずにニッコリ窓から顔を出して「オハヨ」と返す。
 清々しい朝の始まりだ。

 メールが届く
<昨日は二人を誘ってくれてありがと、楽しい夜だった。じゃ、明日あゆママのお店で!二人によろしく。行って来ます!>
<行ってらっしゃい。カズ>

 さて。と、会社へ向かうカズは考えていた
今日の神からの指令なのだが
「会社の人と飲みに行く」がやって来た。

まずは社内専用グループメールを見ると、、、
 誘いはいくつかあったが、本日一番押しが強いのが合コンだ。

 大手の会社の独身者には、この手の誘いが引く手数多だ。
 以前勤めていた会社の営業マンも、こういった飲みの席から契約を繋いでいる者も少なくは無かったようだ。
 こんなに駆り出されるなら、いっその事指輪だけでも買ってつけようかと真面目に思うほどだ。

 昼食を取りながら、もう一度グループメールを開き覚悟を決めて合コンという物に社会見学として飛び込んでみようと腹をくくる。

 40男が行ったところでなんの収穫もなく手ぶらで帰ることは目に見えてはいるが
「今日は明日より一日若い」
と言う名言を自作で掲げ
「今日は参加できます」と名乗りを挙げてみる。

 そんなオレの覚悟なんてグループラインでたらい回しにされ、近所の居酒屋の地図が送られて来た。
 時間は6時スタートだ。

 時間になったので会場に行くと一番乗りで、誰もいない。
 一人じゃビールも飲めないので一旦外に出ると、一階の洒落たバーにピアノが置いてあるのが見えた。
 ダメ元で「弾いてもいいですか?」と聞くと「良いですよ」と言うでは無いか。

 こんなに会社の近くに無料で弾ける気前のいい場所があるとは、うれしくなり早速弾いてみることにする。

 この場の一曲目に向いているのは、ディズニーのホールニューワールドだ!と、思い指の体操をして椅子を調節すると、浅く腰掛け天を仰ぎ目を閉じる。
 開いたと同時に聴き慣れたラブソングが流れる。この曲は3分なのでアッと言う間に終わった。

 次に同じく、アラジンのフレンドライクミーを陽気に弾きあげる。
 時間的に、あと二曲行けると思う。
よし、お次はリトルマーメイドだ、パートオブユワワールドと、アンダーザシー。
 この4曲弾いたらちょうど15分遅れで会場に入れるはずだ。

 ディズニーは祖父母の施設でよく弾いた。
面会に来た孫たちが喜ぶからだ。その顔を見ている老人達の優しい表情が大好きだった。

 お爺ちゃん、お婆ちゃん、行ってしまって20年経っても、こんなに胸が切なくなる物なのか?このピアノのせいかな?色々と思いが巡り、もっとひきたかったが4曲弾き終わると慌てて待ち合わせ場所に帰ろうと立ち上がる。
 すると、座席から盛大な拍手があったので、丁寧にお辞儀をした。


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