三日月

ghame

(57)苦いもの

 店内に入ると一際目を引く檜一枚板のカウンターがまず目に飛び込んで来た。
 柱も淡い色の木の素材で統一されていて、明るく清潔だ。
 鈴木は個室を取っておいてくれたようで、お着物の中居さんに付いて奥へと案内される。
 そこでは私を奥の椅子を進めズキは手前に座った。
「季節のコースを注文しても良いですか?私のお勧めなんです、他に食べたいものがあれば別途で追加しましょう」
「それは楽しみです。」

 向かい合わせに座って、お互いの顔がよく見えるようになるといきなり緊張が込み上げて来て顔が熱くなる。
 カズとは、こんな事1度も無かったのに

 彼がその様子見ている視線を感じて、ますます血が顔に集中するので思い切って両手で隠す事にする。

「耳が見えてますよ!」
「向かい合わせに座るのは、ごめんなさい。私きっとお寿司食べれません」
「それは困ったな。カウンターなら大丈夫ですか?職人さんの仕事ぶりを見るのは飽きないですよ!」

 すぐに中居さんを呼んで席を用意してもらった。
席へ着くとまず、コロンと丸い小鉢に竹の子と、鮮やかなのらぼう菜の乗ったお通しが出され、それから綺麗に磨き上げられたテーブルに笹の葉を敷きガリが乗せられる。
 お寿司が乗る前に、その笹の葉の手前にお刺身の乗ったお皿と冷えた瓶ビールが用意された。
 「こちらカツオと、ノドグロです」
 違いなく美味しいお刺身の輝きに、私の目がキラーんと光り、喉が鳴る。

「エリちゃんはアルコール行けるのかな?」
と、自分のグラスにビールを注いだ後に私のグラスにもビールを注いでくれた

「目がキラキラしてるね、たくさんお上がり」
 今、彼が子供の頃からの癖を出したように感じたが、まずはノドグロという白身の刺身を食べてみた。
 さっぱりしていて、スズキのお刺身とよく似ている

 それは彼の名前と同じだと思ったけど気の利いた洒落が思いつかなかったのでストレートに疑問を投げてみる
「スズキと似ているお魚なのね」
 鈴木はクスリとして
「そう、私の仲間だよ。味は同じでしょ?アカムツとも呼ばれているんだ、気に入ったかい?」
「ええ、サッパリしていてとっても美味しいわ」

 それからは、会話が途切れると職人さんの手捌きに見惚れたりして、ゆったりと食事を楽しんだ

 それから出て来たアオリイカ、イサキ、飛魚、鳥貝、車海老、穴子、ウニ、たこどれも美味しくて食べるのに集中した為会話はほとんど進まなかったが、その間彼の視線は感じていた。
 食べ終わると
「さて、家まで送ろう」
 と、タクシーを停めて、家の前まで送ってくれた。

 その車内で週末から出張なので明後日は北千住の美味しいローストビーフを一緒にどうですか?
 と、誘われ食い気に負け6時半に現地で待ち合わせをした。

 さて、今夜もバスタブにつかって反省会をしなくては。
 ゲームのゴールは直前だ。

 着替えを取りにと、暗い部屋に入り窓を開けてカズの部屋を見たが、真っ暗でカーテンが閉まっている。

 ここ二日間はネックレスをしていない。
 明日もしないで行こう。
と、決めてからお風呂へ向かう私は美味しいものをたくさん食べたはずなのに、苦い何かが自分を満たしていた。。


        

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