三日月
(56) 運命の人
仕事が終わると明日困らないように自転車は自宅まで置きに帰り、それから着物を持ってタクシーに乗り待ち合わせのカフェに着くとカネは待っていた。
「はい、これが約束のお礼です」
と、封筒に入った現金を手渡してくれて話始める。
「ズキ昨夜は、最後までエリのことを指名してくれて、おかげで席の移動がなくて楽だったでしょ?大金を使ってくれたんだから感謝しなさいね。それから、彼昔からあなたのファンよ少し真面目に考えてあげて。」
そこにズキが現れる
「昨日はどうもありがとうございました、偶然ですね」
「ウソばっかり」
「じゃあ私はお仕事があるので失礼するわ」と、カネは行ってしまった。
彼は名刺入れから名刺を取り出し両手で手渡す
「私はお役所勤めです。そんなことで昨夜の極秘任務みたいな事がたまにあってカネには以前から色んな形でお世話になっているわけなんです。昨夜は久しぶりにエリちゃんと会えて、益々素敵な方だと再認識しました。今日もカネに無理言って、ここでエリちゃんと会う事を教えてもらいました。彼女のことは責めないであげてください」
「そうなんですね。今カネから聞いたんですが昨日は私の為に大金を払って下さったそうですね。ありがとうございました。」
「いえいえ私にも利があったので、気にしないでください。ところでエリちゃん、お腹は空いてませんか?軽くお食事でもいかがですか?」
少し考えて、頭の中に神からのメールが過り返事をする。
「昨夜も遅かったですし、昼間は勤めているもので 少しなら、おつき合いさせて下さい」
「やった!ではおすすめの場所へ行きましょう、お寿司は好きですか?」
「大好きです」
お寿司と聞いて心が弾んだ
その店は銀座でも築地寄りにあるそうで
「少し歩きますが良いですか」
と、聞かれたので承知すると二人で夜の繁華街を歩いた。
母親とは何度かこの通りを歩いた事があったのだが知らない男性と肩を並べて歩くのは不思議な気持ちではあったが夜風も雑踏も嫌な気はせず、むしろ心地よく心穏やかになってくる。
彼の後ろ姿には哀愁みたいなものが見て取れてそれは、身分相応の大人のお付き合いとはこんな感じなのか?と、彼の交際の申し込みをお受けするのが最良に決まっている、という方向へと気持ちを寄せてしまうものだった。
本来このように静かな心で日々を暮らして来た私にとってはこの選択は正解であって神は
「彼があなたの運命の人だ」とのお告げをもたらしてくれたのは明確であった。
この安定した経済力や包容力を持った将来を約束された男を今日手に入れる為にカズはあくまでも親友であり、兄弟であって、異性としてお互いを見ることを神が許さななったのだ。
そしてバーチャル彼女をした事により、確かに数日前の自分と比べると男性に対して抱く印象も変わった。
恋もどきのようなものも一通りマスターしたつもりだ。
この変化は全てこの目の前にいる男性の為にあった事だったのだ。と、ハッキリしてしまった
「神の始めたこのゲームのゴールは目の前だ。」
答えを知ってしまって愕然とした。
彼の事なんてほとんど何も知らない。
未来なんて想像もつかないというのに神は答えを教えてくれた。
立ち止まってしまった私を心配したズキは、足を止め、優しい目で見守っていてくれた。
それから小首をかしげ右手を顎の下に添えて少し女性っぽい仕草を見せた
「エリちゃんどうしたの?そんな顔して」
と言うとクスリと笑った。
私は、また自分が大人気ない態度だった事に気が付き顔が熱くなった
「その顔に見出しをつけるとしたら『忘れ物しちゃった』って感じでしたよ」
その表現が気に入ったエリは楽しい気持ちになって来た、神が選んだ彼は相性抜群に決まっていると、また確信するのだった。
「私って、そんな顔してました?その通りかもしれません」
先ほど彼がやった小首をかしげるポーズが気に入ったのでそれをコッソリ真似してみる事にした
「それは私の真似なのかな?そうだ、それは子供の頃からの癖なんだよ」
どうやら、コッソリとはいかず見られていたようだったが、笑ってくれたので心がポカポカした。
「エリちゃんって、子供の頃から物静かで大人っぽい雰囲気だったからテッキリ、イヤ良い意味でなんだけどそんなに可愛らしい面も持っていたなんて、美しい見た目とは違った幼い顔はタイムカプセルをを開いた感覚だ」
ズキとの会話は、嫌では無い。
静かで、ホッとする感じがする。
「私は昔から人と話すのが上手くなくて、社会人になってからもそうで、他人とは全く関わって来なかったんです。自分で巻いた種だから仕方ないんだけど、ズキにも笑われてばかりで、まだ人との関わり方の勉強中で、それで昨日もカネのお願いを 思い切って受けてみたんです。」
「私は幸運だったんだね、それで昨夜は、何か勉強になった?」
「もちろん、行って良かったと思ってます。世界が広がりました。」
「それは良かった。それで今日も私の食事の誘いを受けてくれたというわけですね」
「そうなんです。こうやって話も出来て、自分が他人とこんなに話せるようになっていた事に驚いていたところでした。」
「それはかなり役に立ってるように聞こえますが自惚れても良いのかな?」
「そのお返事のスキルは残念ですが まだ持ち合わせておりません」
「AIみたいだな、パーフェクトな模範解答ですよ。勉強熱心な貴方ならすぐ一般常識をも超える事でしょう。では歩けるようになったら前に進みましょうか?お寿司が待ってますよ」
お寿司と聞いてキュンとする
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