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三日月

ghame

(30)月光

 さて、まだ時刻は10:30
 約束の時間まではたっぷりあるが着ていく服を選ぶことにした。
 今日は恵比寿に行くのと、エリが紺色のワンピースを着ていたので少しめかしこみたかったのだ。
 先日買った雑誌を広げながら恵比寿で買ったネイビーのパンツに合わせて白のTシャツにグレーのカーディガンを羽織った。
 そして明日は動物園だから茶色だろ?
 恵比寿で買ったパンツの上に合うVネックのトップスをマツゴローの店で見つける予定だ。
 動物園なら帽子もいるかな?
と、そこまで決まったら12:20でタイマーをかけてリビングのピアノで懐かしい”月光”を本気で引こうと思っていたのだ。
 1曲14分以上もあり、夢中になるとタイマーが無いと時間など忘れる自信がある。

 楽譜はリビングの本棚に並んでいるはずだ。
 あの頃は今の様にネットで検索して簡単にプリントアウトなど出来なかったので楽譜はオレの宝物で楽譜の無い曲などは、すごく時間をかけて自分で譜面に起こしたりもした。
 そんなに熱中したのには理由があって、大好きな祖父母のいる老人ホームのクリスマス、老人の日などのイベントでオレの演奏を楽しみに待ってていてくれる人が沢山いたからだ。
 喜んでもらうと嬉しくて、たくさん練習したし新しい曲もジャズにも挑戦した。
 20年以上前の話だ、もう誰も生きてはいないんだろうと思うと切なさが激しく襲った。

 さて、月光はスローテンポの第一楽章は問題ないとして第3楽章の指はきちがいの様に早い、全盛期の頃はスピードが楽しく夢中になってたが、よくこんなに指が動いたモンだ。
 今の自分なら仕上げるのに半年かかりそうだ。と、昔の自分を尊敬してしまう。
 ちなみにあゆママの話していた発表会では、第一楽章しか弾いていない。

 案の定第3楽章に挑むことに熱くなりすぎタイマーの音で我に帰って来た。
 そして午後の予定のことを考えると、変身したエリに会うのが楽しみで仕方がなくなり早速メールを入れてた。

<予定通り1時で大丈夫ですか?>
 ハサミに確認したんだろう、返事はしばらくしてから返ってきた。
<1時半なら終わるそうです。>
<りょうかい>
 と返事をして、アラームを13:00に変更すると、本棚に行き、確かここにあったはずだ。と、坂本龍一の戦場のメリークリスマスに曲を替えた。
 熱くなった気分を癒されたかったのだ。

 また、アラームの音で我に返る。
エリへ<1時半で良いですか?>とメールを入れるとしばらくしてから<はい>と、返事が来た。

 その返事を開いて見た時、胸の辺りでシャボン玉の様なものが膨らんでパンと破裂し、温かいものがオレの心臓を包んでくれた。
 そうだ!明日動物園でエリとシャボン玉を買ってやう! 

 自転車で美容室まで向かい
(エリをワンピースで自転車に乗せて駅前を走らせて大丈夫かな?)と考えていた。

 他人に対してここまで気遣いをした事など、今まであったかな??



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