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三日月

ghame

(28)気合だ

            5月29日金曜日

 今日は朝起きて8:30まで練習をして、昼は屋上に行かずにエリとホテルの会場にお弁当を持って行って食べた。
 マイクやピアノ、テーブルの確認が終わるとエリは先に会社へと帰って行った。
 それから1時間練習して、予備にディズニーアラジンからホールニューワールドも仕込んで14:00になったら一旦会社へ戻り17:00に山下主任について早めの会場入りをした。

 会場には三木谷さんが来ていて、現場のガテン系の若い男性が30人ほど居て、受付をしたりお茶を飲んだり、戯れあって宴会ムードが漂っていた。

 今夜の司会は宴会部長の山下主任だ。

 予定表にはこう書いてある
1 三木谷社長の遠吠え
2 山下宴会部長気合
3 桜井宴会副部長余興
4 時期社長?争奪戦、早食い競争参加者募集
5 乾杯一気祭り
6 告白タイム
7 一本締め
 どうやら、受付は早食い大会の参加者用だったようだ

 山下主任は、3年前まで現場にいたためガテンメンバーと顔見知りで仲がよく戯れあっていた。
 マイクのテストだと言って1人ずつマイクを口に突きつけ自己紹介をさせている。

 オレと目が合い近寄って来たので、いじられると予感し、走って逃げた。
 が、彼は早かった。
 早速捕まってマイクで質問攻めにあう

「お名前を教えてください。」
「桜井三日月です。僕はこれから丸くなる三日月です。」
「タイプの乳牛子ちゃんはどんな子ですか?」
「料理が上手で牧草にはドレッシングをかけてくれる優しい子が良いです。」
「では、告白タイムです。桜井三日月くんに愛の告白をされたい方は前に出て来てください」

 その一言で、ガテン系が一斉に全員来た。
そしてオレはいとも簡単に、わっしょいわっしょいと担ぎ上げられる。
 どうやらよくやる暗黙の了解の儀式のようだ。
すごいチームワークと、これをまとめあげた山下主任のボスザルぶりに感心した。

 会場もあったまった頃に全員集合したので皆んな席につき、先ずは社長がマイクを持ちステージに上がって舞台中央に立ち大きく深呼吸して

「うおーー!」
と大声で吠えると、ガテン系がそれに続き

「うおーー!」
と吠える、もの凄い熱気だ。

 その声を聞き終えるとステージから降りてマイクを山下主任にバトンタッチして、
 次は同じように主任が舞台中央に立ち大きく深呼吸して

「気合だ!気合だ!気合だーー!」
 と叫ぶと、ガテン系も後に続く。
プロレスでも始まりそうな空気が充満して来た。
 それを3回繰り返しマイクがオレに回ってきた。

 マイクを手渡す時
「お前何やるんだ?無理なら言えよ」
 と、気を使ってくれた。
 「大丈夫です」と言うと、舞台中央に立ち大きく息を吸ってマイクに向かって叫ぶ

「ダンスタイムだーー!」

  うおーーッ!!

 ガテンが盛り上がる。

 きっと、ウケるはずだ!!

 期待に胸を弾ませ、ワクワクして舞台の横にあるピアノまで走り、音をマイクが拾うように弦に向けて置いて椅子を引いて浅く座る。

 天井を向いて目を瞑って大きく深呼吸をして、目を開くと同時に
  強く鍵盤を叩く

「ラジオ体操第一よーい」
 力一杯、正確にラジオ体操を弾き、やや大袈裟にパフォーマンス用の動作で、陽気に鍵盤を叩く

 会場は直ちに大爆笑に包まれて、毎朝体操している皆んなは身体が反応して体操を始め、テンションが上がって来る。
 ガテン系は体操選手のような力強い体操をしながらジリジリとオレの周りに集まって来て、取り囲まれた。
 なんか先が読めて来たが、やはり曲を弾き終えると、椅子ごと担ぎ上げられてオレはお神輿になった。
 担ぎ手先頭はもちろん 山下主任だ。

 会場は笑の渦で、とっても盛り上がった。

 無事オレ担当の余興が終わりホッとしていると、申し込んだ覚えの無い早食い競争で名前が呼ばれた。
 社長も首を傾げながらステージに上がっているので山下主任の策略のようだ。

 ステージの上にセットされた長テーブルには16等分されたスイカが5個並んでいる

「ルールは赤い部分は残さず早く白にした人が1位となります、三木谷社長も過去に優勝して現在の地位を獲得しました。」
 イヤイヤ、そんなはずは無い。スイカ食って社長になれるはずがない。

「ココハお嬢様のハートは誰のもとへ?」
 主任は三木谷さんにマイクを向ける。
毎度強引なヤツだ、三木谷さんが仰天している。
 巻き込まれて気の毒だ。

「社長!わたし、まだお嫁に行きたく無い、頑張って!」
 社長は右手を上げて
「おう!」と言う。

 秘書課の女の子がストップウオッチを持って
「スタート!」と言うと 全員一斉にスタートした。
 ふと見ると主任も参加していて、どうやら第1組目は内勤組のようで結果は熊の圧勝だ。
 人間が熊に勝てるはずがない。

 2組目、3組目は現場の人ばかりのようで知った顔は1人もいなかったが皆、熊の親戚のような体付きをしていた。

 3組全ての競争が終わると、それぞれの組みの1位がステージに上がりビールの一気飲み対決だ。
 皆んなにも飲み物が配られ社長の乾杯の合図で3人はスタートする。
 その乾杯と同時に飲食もスタートした。
 ビール早飲みは、熊の圧勝に終わり、最後に告白タイムだ。

 マイクを持った山下主任はアルコールにはあまり強い方じゃないようでグルグルしながら、三木谷さんの前に立ち

「僕たちと同じ辰年の子供を作りましょう!」
と言って右手を差し出し頭を下げる

「ちょっと待った」が社長からかかる
それに続いてガテン系全員が

「ちょっと待った」と、山下主任に群がり、お約束のわっしょいわっしょいで担ぎ上げて連れて行ってしまった。

 取り残されたココハお嬢様は
「ごめんなさい」と、頭を下げる。

 余興を見終わったオレは、エリを探して隣の席に座り、毎回こうなのか?
 と尋ねると、山下主任が宴会を仕切るようになってからだと教えてくれた。
 ガテン組は言葉など通じないので本当に挨拶は一言にして欲しい。と言う事で始まった儀式なんだと言う。
 なるほど、勢いがあって楽しいステージだった。

 エリと話をしながら食事をしていると、秘書課の女の子がマイクのお礼をしに来てくれる
 「ピアノお上手ですねアンコールしても良いか?」
 と尋ねて来たので酔わないうちならと、早速ピアノへ行って用意しておいたディズニーの曲を引き始めると、他の女子社員もがピアノの周りに集まって来てうっとりする。
 まだ聞きたいようだったので、リクエストに数曲答えて 
「これが最後の曲になります」
 と、エリの好きな"名もなき詩"を弾くと、これもまた喜んでくれた。

 最後の曲は、聴いてくれているかわからないエリのために、感謝の気持ちを込めて弾いた。

 いつの間にか縁も竹縄になった頃、神からのメールが届いた。

「エリを美容室に連れて行って改造すべし」
今回は、名指しだ

 早速エリの明日の予定を抑えて、ハサミに連絡すると、9:00に予約が取れたのでエリに伝えて 明日の約束をして
 それから「今夜は疲れたからもう帰ろっか?」と、言って会社まで歩いて昨日と同じように自転車を押して並んで帰った。
 思ってた以上に疲労していて、聞きたいことはたくさんあったが無言で歩いた。

 そして、家に着くと立ち止まり向かい合って無言のまま右手の拳をエリに向かってゆっくり伸ばす。
 エリはそれに自分の拳をチョンと付ける恋人恒例の挨拶をして、お互いの玄関へと消えて行った。


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