三日月

ghame

(24)祖父の思い出

 
 オレは、最近お昼休み10分前になって給湯室で事前にコーヒーを用意して、休み時間が始まってからの混雑を避ける様にしている。
 今日は、早めに来た女性事務員と鉢合わせになったので「今替わります。」と、譲ってあげたんだが2人連れで20代中場くらいに見えるその女性達は普段見かけない。
 だから、たぶん1階の秘書課の人で、事務所は三木谷さんと同じなはずなのに、なぜ2階の給湯室にいるんだろう?
 と、考えていると顔を赤らめながら恥ずかしそうに話しかけて来た
(何だ?愛の告白でもする気か?)
 などと少し緊張などもしたが、違った

「桜井さん、お仕事は慣れましたか?初めは、ちょっと怖い感じもしたんですが、今朝の朝礼で山下主任と戯れてて、面白かったです」
「はい」
「早速なんですが、明日の幹事さんなんですよね?社内報にまだおアドレスが追加されていなかったので、直接ご相談にきました明日はマイクを利用したいんです。会場に詳細確認していただけませんか?」

「わかりました。失礼ですが、お名前を教えていただけますか?山下主任と話てお返事します」
「それが、山下主任に先にお話したんですが桜井さんが担当をしていると言われて。。。それと、無理そうでしたら帰りに購入するので、大岡にお返事下さい。では、明日楽しみにしてます。」
   熊のやつ、面倒なことはオレに押し付けやがっておぼえてろ!
 
 話していて遅くなったので急いで屋上に行くとエリはゲームに夢中になっていた。ヘイデイでもやってるんだろう、最近は屋上の鍵を開けてくれているので オレが入ってから閉める様にしている。

 そう言えば、中学の同窓会が来週の土曜日と迫ってるんだエリは出席するのかな?オレは特に会いたいヤツは居ないし行く気は無いけどエリが行くなら、行っても良いかな?

 学生時代の同級生に会う気になれないのには理由があって、その頃一緒に住んでいた祖父の口癖を聞いていたおかげでヤンキー染みて今が楽しければ良いと、軽薄なクラスメートとは馴染めなかったからだ。

「日本男児らしく誇り高く、愛するものを幸せにするために存在しろ!」
「勝負の時は控えている、今の自分を安売りすな。」
特にこの2つは、祖父の生き様と重なり響いた。

 戦争の為、死ぬまで記憶障害を起こしていた祖母を支え愛を貫き、更に教員だったこともあり心に刺さる大事なことをたくさん教えてもらった様に思う。

 多くの時間を語り合いオレの思想の礎となったことは間違いない。
 「流されない、学ぶ」数々ある祖父の教えから、この2つを自分なりの解釈で掲げていて、学生時代のオレは特に勉学とピアノには力を入れた。
 40になったオレを見たら一体何と言う言葉をかけてくれるんだろうか?

 エリとも日課のお散歩でよくすれ違って挨拶してをしていて、今時珍しく芯の強いしっかりした子だと褒めていた。その度にオレは反抗的にエリのことを悪く言っていて
「嫌い嫌いも好きのうち」なんてからかわれたりもした。

 エリが隣にいると、感情がどうしようもなくあふれていた時代にたちまち舞い戻ってしまい、その答えについて迷路の入口へ足を踏み入れてしまう、そして魂を抜かれた様に物思いにふけってしまうオレの横で 気にせず彼女はゲームをやっているんだ。
 そのくせ、オレの質問には、しっかり答えてくれる。
 異性なだけに男性が抱く女性に対して特有の謎にもサラッと答えてくれて、エリに恋することが出来ればお手軽で全ての問題が解決するんだが、、しかし、オレたちはこんなに長くお隣同士をやって来たのに全く無いのだ。
 爪の先ほどもエリを女として見ることが、それはエリも同じで、2人っきりになってもオフクロくらいの空気感しか存在しない。

 となると、恋ってやつをやはり自分で見つけるしか無いのだ。
 そう言えば、同窓会は何かそのヒントにはならないか?
「エリ、同窓会来週末にあるよね?出席する予定でいるの?」
 スマホの画面から相変わらず目を離さないでエリは答える

「もう食べ終わったの?本当に食べるの早いわよね?同窓会はちょっと悩んでる。カズは行くの?」
 確かにオレは食うのが早いが、エリが遅すぎるのかもしれないが他を知らないので謎だ。

「今まで一回も行ったことがなかったんだけど、エリが行くなら行っても良いかなって思ってる。みんな元気か、ちょっとは気になるし、、。」
「私もそんな感じ元気かな?ってくらいで、でも先生には会いたいかな、、転校してきたばっかりでお世話になったんだ。」
 
「そうそう、昨日の宿題の答え合わせしよっか?」
 実は答えが気になったので、返事が来るまで待って読んでから寝たんだけど、その答えを見たらいくつか疑問が生まれたので直接聞こうと思っていたのだ。

 でも、その前に今夜の予約を入れないといけないのでエリにリクエストは無いか聞いて見ると、小料理屋に行きたがった。

 考えて見ると、酒も一緒に飲んだことがないことも今更ながら思い知り、山下主任に負けた気がして、そのドヤ顔が過りイラッとした。
 そんな熊には負けじと、早速あゆさんに電話を入れて2人17:45で予約を入れ、エリに聞こえない様に連れがお誕生日だと伝えるとケーキを一つ用意しておいてくれると言ってくれた。
 

「三日月」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く