話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

三日月

ghame

(18)熊

  
 5月26日火曜日

 朝礼が終わると早速山下主任が昨日のお礼をするために話しかけて来たので、すかさず
「では今夜ご馳走して下さい」
 と言ってみると、喜んでOKしてくれて仕事が終わったら近所の焼き鳥を食べに行くことを約束をしてから 今日の仕事に取りかかった。

 定時までは昨日とほぼ同じ時間を過ごして焼き鳥屋へ向かう事になるのだが、昨日と違うことがあるとしたら、新しくなったハサミ柄のマイボトルと山下主任の机に昨日から、イヤあるいは去年から積んである書類の入力を、急ぐものから順にオレも手伝うハメになった事だ。

 どうやら、この山下茂生という男は事務処理が大の苦手なくせに事務職を選んだ不思議ちゃんなようで、それをエリを含めた課のみんなは承知していてフォローしているが当の本人は気が付いていないといった感じか?
 総務課に移動したエリにまで心配かけヤガって、ホントに困ったちゃんだ!

 エリには昼ご飯の時に、今夜山下主任との食事の話はしておいたので早速男2人駅前まで向かって歩いた。

 その途中も主任は新顔のオレのことが気になるようで、家は何処かとか出身は何処かとか独身か、恋人はいるのか?などなど聞いて来て、懐っこい人柄の良さや体育会系であること雰囲気から読み取れることが出来た。
 
 到着したその店は子供の頃からあって、古い居酒屋風の店構えで会社帰りのサラリーマンの憩いの場となっている。

 モクモクした店内が今まで一度も来たことがなかった理由だったが、そこが今のオレにとっては社会人復活の喜びを倍増させてくれるにふさわしい場所だった。

 2人だったのでカウンターに座り、まずはビールを大ジョッキで2杯頼むと
「お疲れ様」と、乾杯した。

 焼き鳥や枝豆、もつ煮と定番を何品か注文してから最初の話題はオレの歓迎会で、それは今週の金曜日に計画していて内勤の親睦も兼ね盛大にする予定だが主役の君は来れそうか?という内容だった。

 主役と言われたら断れないし、なんだか強引な気もしたが予定も無い事だし了解した。
 それでLINEと電話番号を聞かれて交換して、詳細が決まったら送ってくれる事になった。

 2杯目のビールになる頃には主任は赤くなった顔で自分の話ばっかりスイッチが入って学生時代に野球部でキャッチャーをしていた事、弁当屋でアルバイトをしていた事。

 それが終わると、内勤の女の子でタイプの子はいないのか?と、いう話が始まった。

 キャッチャーをしていただけあって180位ありそうな長身でガタイも良い。
 顔も、彫が深くて良い方だと思うし、困ったちゃんでなければ彼女くらい出来そうな外見はしているんだが「桜井さんくらいイケメンだったら 僕にも彼女ができるのに」 
 と、女性とデートもしたことの無いオレに向かってそんなことを言ってくる。

 勝手にベラベラ話し始めた内容だと、大学時代から付き合っていた彼女がいたそうだが3年前30になったので結婚しますとあっさり振られたんだということだ。

 もう誰でも良いから吐き出したい愚痴が盛り沢山溜まっていたようで、聞いてて少し気の毒になっても来たが19:30になったので、今日はもう良いだろうと愚痴もお腹いっぱいになりお開きにする事にした。

 店を出て自転車を押しながらハサミの店の前を通りかかると「かずくん」と、ハサミが声をかけて来てくれた。
 「昨日はありがとう。連絡待ってるわ」
 美女とのこんなやり取りを聞いていた山下はオレに尊敬の眼差しを向け
「なんとお美しい方だ。イケメンの交友関係はやっぱり違うな」
 と、勝手な勘違いをして来た。

 そう言う決めつけに関しては、オレも今までそうだったと思い、考えさせられた。
 この世界はきっと自分が見たいように見えるものなんだ。
 見た目に自信のついたオレは、どうやら気持ちの余裕が生まれているようだった。

 (なんか熊みたいなヤツだったな〜)

 主任と別れた後、自転車に乗って自宅へ急ぎ、まずはエリに20:00で大丈夫だとメールしてからお散歩使用に着替えた。

 考えてみると、毎日夜には同じ服が用意されているのは、母さんが洗ってくれているからだ。
 こんな事に気がつくようになったのは、神からの「褒めろ」というお告げがあってからで、今では褒めるという上から目線さえもおこがましく、感謝の言葉の方が自然と口から出るようになっていた。

 そこにふと、松下幸之助の名言が浮かんでくる
「感謝の心が高まるほど、それに正比例して幸福感が高まっていく」

   先人のおっしゃる通りで、周りの人に支えられていることに気がつき、感謝を始めたとたんにオレの幸福感は高まっている。

 実はオレの生活の中には感謝が溢れていて、幸福感はそこら中に散りばめられていたんだ。
 それに気付かせてくれた神に感謝だな。と、また一つ幸福感を手に入れた



「三日月」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く