三日月
⑻あいさつ
「おはよう桜井くん。」
「三木谷社長、おはようございます。」
昨夜とは違い、朝からシャキッとした三木谷社長は、さすがに近寄り難い空気を纏っている。
「桜井くん。昨日の今日、急な話だったのに有難い。明日の朝礼で皆んなに紹介しようと思っていたんですが、身なりも整えて準備万端のようなので、予定を早めて今日の朝礼で君を紹介してもよろしいですか?」
話す口調がソフトなので、いくらか緊張はほぐれた。
「はい。もちろんです、ヨロシクお願いします。」
朝礼は、9:35に、2階の営業事務の室内で行われた。
30人くらいが並んでいて、少し寿司詰め感があるが、外部と営業マンを繋ぐ電話対応がすぐに出来るから、この部屋なんだろう。
その中にはエリも、受付の三木谷さんもいて、他は皆知らない人ばかりだ。
驚いた事に、女子社員からの視線を感じ、明らかに騒めき立っている。
きっと、オレのイケメンな顔だろう?
何と言っても、オレにとって変身した初お披露目のイケメンパワーだ。
刺さる視線と目を合わす度、彼女達は赤くなり目を逸らす、逸らす。
エリは、どうかな?
やっぱり、オレの事なんて見てすら居ない。。
しかし顔でここまでアカラサマに女性の態度が変わるとは、この会社の女性は大丈夫か?と、少し呆れたりもした。
その女性社員達は、制服を着ていてモノトーンの千鳥子のベストに、黒のタイトスカートでブラウスは自由なようだ。
それは会社ムードをビンビン漂わせる。
社長、総務部長と短い話が続き、最後に社長がオレの紹介をする
「今日は、新しく営業事務を支えてくれるメンバーを紹介する。桜井くんです。彼は以前通信会社で15年の営業事務職経験者です。一言挨拶をお願いします。」
既に前に立ってるし、この場で挨拶しちゃって良いんだよね?
「おはようございます。
はじめまして桜井と申します。新人ですので、ビシバシしごいてください。一日も早くお役に立てるよう精進いたします、ご指導のほどヨロシクお願いします。」
最後のお辞儀は、両脇のズボンの線に手を揃えてシャキッと見えるよう細心の注意をはらった。
うわぁー。緊張したぁー。オレ大丈夫だったかな?へんじゃなかったかな?
最後は、ラジオ体操をして朝礼が終わった。
朝礼が終わると、三木谷社長はオレと目を合わせて意味深にニッコリしてから去って行った。
皆んなが散り散りに去った後、1人の男性がオレに近づいて来た。そいつはオレより絶対に若い。
「桜井さん、主任の山下です。経験者でしたら、特に指導など必要無いと思いますので、以前と違って不明な事があれば、その都度質問して頂く形で良いですか? 午後から早速担当していただく企業の書類に取り掛かって頂きたいと思っています。デスクは、応接セットのついたての前のアチラを使って下さい。必要なものは、揃えておきましたが、他に足りないものや質問があれば、女子社員か、私に尋ねてみて下さい。」
ズボンの折り目に両手をそわして一礼
「はい。ご指導ヨロシクお願いします。」
指定されたデスクには、パソコンが1台と卓上には資料などがいくつか置いてある。
まずは資料をパラパラっとめくって 自分用のパソコンを起動してみる。
暗証番号、設定などは、用意されたマニアル本を見て調べた。
画面にザッと目を通してみて、気になるページは開いてみたりすると、社員専用サークル募集や社員用の楽し気なイベントページもあった。
一通りなんとなく理解した頃には、昼飯時になっていて、全員に挨拶がまだだった事に気が付く。
しまった。。
部屋には、10人くらい居たな。1人挨拶したから、後9人だ。内訳は女性4人、男性6人か。
昼食は、周りの流れに続き1階にある社員用の社食に行ってざるそばを食べる。
食欲が無く、食べたくなかったが、食べなきゃ夕方まで持たないと思い無理して流し込んだ。
食べながら周りを見渡してエリを探すが、見当たらない。
お弁当は、いったいどこで食べているんだ?
探す気力までは余っていない、午後からの為にも温存しておこう。
食堂を見渡した時、数人と目が合ったので新顔のオレを珍しがって噂しているようだ。
しかし誰も声は、かけて来ない。
疲労しているので、そっとしておいてもらえるのはありがたかった。
午後からは、早速業務と、残り9人の挨拶のお仕事が待っている。
5:30の就業の合図の鐘が鳴り、現実へと戻った。
久しぶりのデスクワークに、意識がモウロウとする中、どうやら後半戦も無事に乗り切ったようだ。
アニメやバーチャルの世界に長く居たせいで、久しぶりのリアル世界で精神的な消耗が激しい。しかし、一日働いた達成感がムチャクチャ胸を熱くするゼ
机を片付けると、エリの元へ急いだ。
オレは、ぼっち。
唯一の顔見知りのオアシスを更衣室に行く前に捕獲しなくては!!
急げ!!
経理課の部屋の前でエリを見つけ
「家までの帰り道を教えてくれ。」
と言うと。
案の定、ギョッとした顔をしてから
あきらめたように
「ウソばっかり。」
と、本日2度目のウソばっかりを聞くことが出来た。
5月22日 金曜日
昨日は家に帰り着くと、飯もシャワーも浴びず、まずは寝た。
翌朝5時頃目覚めると、
神からのメールが来ていた。
内容は、こうだ。
「挨拶では勝て。
相手より先に挨拶すること、先に挨拶されると負けゲームです。」
神、いよいよからかってるのか?
その日の帰り道も、またエリに教えてもらった。
そして飽きずに
「ウソばっかり。」
と3度目のウソばっかり。を、聞かせてくれた。
今日は、会社から帰ると持ち帰った調べ物と、月曜日からの仕事をスムーズにする為に関連資料を検索して予習しておくことに専念した。
シャワーを浴びて食事をした後、途中わからない所があり、エリに聞きたかったが時間が遅かったので諦めた。
ふと気になり、開かずのカーテンをめくり、お隣のエリの部屋の窓を見ると明かりが付いている。
まだ起きてるのか、せめてメアドを聞いておけば良かった。
と、後悔していた時メールが鳴った。
きっと神からだ。
スマホを覗くと、やはり来ていた。
神からのメッセージの内容は、こうだ
「他人を誉めよ。
毎日男性1回 女性2回
これから毎日必ず褒めよ。」
他人を誉めよ、明日から毎日?いつまでだよ?
オレに他人を褒めるなんて、続ける事が出来るのかよ?
もう、あたりまえとして日課になってしまっている 神からのメール。
ノルマが、今回は濃厚な気がする。
不安がいっぱいだが、挑戦してみよう
と腹をくくり、泥のように眠りに落ちていった。
「三木谷社長、おはようございます。」
昨夜とは違い、朝からシャキッとした三木谷社長は、さすがに近寄り難い空気を纏っている。
「桜井くん。昨日の今日、急な話だったのに有難い。明日の朝礼で皆んなに紹介しようと思っていたんですが、身なりも整えて準備万端のようなので、予定を早めて今日の朝礼で君を紹介してもよろしいですか?」
話す口調がソフトなので、いくらか緊張はほぐれた。
「はい。もちろんです、ヨロシクお願いします。」
朝礼は、9:35に、2階の営業事務の室内で行われた。
30人くらいが並んでいて、少し寿司詰め感があるが、外部と営業マンを繋ぐ電話対応がすぐに出来るから、この部屋なんだろう。
その中にはエリも、受付の三木谷さんもいて、他は皆知らない人ばかりだ。
驚いた事に、女子社員からの視線を感じ、明らかに騒めき立っている。
きっと、オレのイケメンな顔だろう?
何と言っても、オレにとって変身した初お披露目のイケメンパワーだ。
刺さる視線と目を合わす度、彼女達は赤くなり目を逸らす、逸らす。
エリは、どうかな?
やっぱり、オレの事なんて見てすら居ない。。
しかし顔でここまでアカラサマに女性の態度が変わるとは、この会社の女性は大丈夫か?と、少し呆れたりもした。
その女性社員達は、制服を着ていてモノトーンの千鳥子のベストに、黒のタイトスカートでブラウスは自由なようだ。
それは会社ムードをビンビン漂わせる。
社長、総務部長と短い話が続き、最後に社長がオレの紹介をする
「今日は、新しく営業事務を支えてくれるメンバーを紹介する。桜井くんです。彼は以前通信会社で15年の営業事務職経験者です。一言挨拶をお願いします。」
既に前に立ってるし、この場で挨拶しちゃって良いんだよね?
「おはようございます。
はじめまして桜井と申します。新人ですので、ビシバシしごいてください。一日も早くお役に立てるよう精進いたします、ご指導のほどヨロシクお願いします。」
最後のお辞儀は、両脇のズボンの線に手を揃えてシャキッと見えるよう細心の注意をはらった。
うわぁー。緊張したぁー。オレ大丈夫だったかな?へんじゃなかったかな?
最後は、ラジオ体操をして朝礼が終わった。
朝礼が終わると、三木谷社長はオレと目を合わせて意味深にニッコリしてから去って行った。
皆んなが散り散りに去った後、1人の男性がオレに近づいて来た。そいつはオレより絶対に若い。
「桜井さん、主任の山下です。経験者でしたら、特に指導など必要無いと思いますので、以前と違って不明な事があれば、その都度質問して頂く形で良いですか? 午後から早速担当していただく企業の書類に取り掛かって頂きたいと思っています。デスクは、応接セットのついたての前のアチラを使って下さい。必要なものは、揃えておきましたが、他に足りないものや質問があれば、女子社員か、私に尋ねてみて下さい。」
ズボンの折り目に両手をそわして一礼
「はい。ご指導ヨロシクお願いします。」
指定されたデスクには、パソコンが1台と卓上には資料などがいくつか置いてある。
まずは資料をパラパラっとめくって 自分用のパソコンを起動してみる。
暗証番号、設定などは、用意されたマニアル本を見て調べた。
画面にザッと目を通してみて、気になるページは開いてみたりすると、社員専用サークル募集や社員用の楽し気なイベントページもあった。
一通りなんとなく理解した頃には、昼飯時になっていて、全員に挨拶がまだだった事に気が付く。
しまった。。
部屋には、10人くらい居たな。1人挨拶したから、後9人だ。内訳は女性4人、男性6人か。
昼食は、周りの流れに続き1階にある社員用の社食に行ってざるそばを食べる。
食欲が無く、食べたくなかったが、食べなきゃ夕方まで持たないと思い無理して流し込んだ。
食べながら周りを見渡してエリを探すが、見当たらない。
お弁当は、いったいどこで食べているんだ?
探す気力までは余っていない、午後からの為にも温存しておこう。
食堂を見渡した時、数人と目が合ったので新顔のオレを珍しがって噂しているようだ。
しかし誰も声は、かけて来ない。
疲労しているので、そっとしておいてもらえるのはありがたかった。
午後からは、早速業務と、残り9人の挨拶のお仕事が待っている。
5:30の就業の合図の鐘が鳴り、現実へと戻った。
久しぶりのデスクワークに、意識がモウロウとする中、どうやら後半戦も無事に乗り切ったようだ。
アニメやバーチャルの世界に長く居たせいで、久しぶりのリアル世界で精神的な消耗が激しい。しかし、一日働いた達成感がムチャクチャ胸を熱くするゼ
机を片付けると、エリの元へ急いだ。
オレは、ぼっち。
唯一の顔見知りのオアシスを更衣室に行く前に捕獲しなくては!!
急げ!!
経理課の部屋の前でエリを見つけ
「家までの帰り道を教えてくれ。」
と言うと。
案の定、ギョッとした顔をしてから
あきらめたように
「ウソばっかり。」
と、本日2度目のウソばっかりを聞くことが出来た。
5月22日 金曜日
昨日は家に帰り着くと、飯もシャワーも浴びず、まずは寝た。
翌朝5時頃目覚めると、
神からのメールが来ていた。
内容は、こうだ。
「挨拶では勝て。
相手より先に挨拶すること、先に挨拶されると負けゲームです。」
神、いよいよからかってるのか?
その日の帰り道も、またエリに教えてもらった。
そして飽きずに
「ウソばっかり。」
と3度目のウソばっかり。を、聞かせてくれた。
今日は、会社から帰ると持ち帰った調べ物と、月曜日からの仕事をスムーズにする為に関連資料を検索して予習しておくことに専念した。
シャワーを浴びて食事をした後、途中わからない所があり、エリに聞きたかったが時間が遅かったので諦めた。
ふと気になり、開かずのカーテンをめくり、お隣のエリの部屋の窓を見ると明かりが付いている。
まだ起きてるのか、せめてメアドを聞いておけば良かった。
と、後悔していた時メールが鳴った。
きっと神からだ。
スマホを覗くと、やはり来ていた。
神からのメッセージの内容は、こうだ
「他人を誉めよ。
毎日男性1回 女性2回
これから毎日必ず褒めよ。」
他人を誉めよ、明日から毎日?いつまでだよ?
オレに他人を褒めるなんて、続ける事が出来るのかよ?
もう、あたりまえとして日課になってしまっている 神からのメール。
ノルマが、今回は濃厚な気がする。
不安がいっぱいだが、挑戦してみよう
と腹をくくり、泥のように眠りに落ちていった。
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