三日月
⑺ウソばっかり
玄関から出ると、ちょうどエリも出勤時間のようで、自転車を動かす音がする。
今日は会社の人に、全員挨拶する指示だったよな、ならエリも対象者だ。
門から自転車を押して出て来たところに声をかける
「エリおはよ。オレ、今日から1週間三木谷建設で研修することになったんだ。先輩、ヨロシク。」
おっ、やっぱり想像通りの反応。ギョッとしてる。コイツ笑える。
学生時代から髪は真っ黒なロングで、いつも後頭部で一つにまとめている。
まつ毛が濃く、いつも軽く睨む目は感じが悪くて、どんな男が見ても、関わりたくないタイプの女だ。
しばらしく沈黙があって海里が話しはじめる
「カズ、会社に来るの?自転車修理してくれてありがと、待ってて借りてた鍵持ってくる」
玄関から鍵を取って手渡すと
「じゃあ」
とエリは、行ってしまいそうになる。
「エリ、同じ場所なんだから、一緒に行こうゼ。会社の場所教えてくれよ。」
と、ミエミエのウソをついてみた。
「ウソばっかり。」
だよなー、でも一人で行くのは勇気いるゼ。
藁にもすがる思いで申し出る。
「じゃあ、応接室の場所を教えて」
エリは少し考えて
「わかった。」
彼女の発する言葉は、いつも短い。
案外嫌がっているようには見えないから 悪い奴では無いのかな、オレと同じで不器用なだけか?
走り出すと、次から次へと聞いておきたいことが浮かんで来る
「お前、お昼ってどうしてるんだ?お弁当?社食?オレ、当分金ねーから弁当にしようかな?給料日っていつ?」
エリを質問責めにしたが、無愛想な顔は別として彼女は丁寧に答えてくれた。
そんな中、エリからの質問は一つだけだ。
「どこの部署に配属になるの?営業事務?」
「そうだ。営業事務だよ。なんでわかったの?」
あれっ?
今、コッソリ微笑まなかったか?
気のせいかな。
会社に着いて駐輪所を教えてくれると、受け付けまでは一緒に居てくれた。
それから、制服に着替える為に行ってしまった。
受付の女の子は、オレの顔を見て少し顔を赤らめ、来客予定表に視線を落として、桜井の名前を確認出来たようで席を立ち、案内してくれた。
受付の仕事と言えば会社の顔だけあって、彼女は若くて可愛いらしい顔をしていた。
話を聞くと3月に専門学校を卒業したばかりの20歳で今年成人式を迎えたばかりなんだそうだ。
「先程の佐藤も、以前は受付をしておりまして、いろいろ ご指導していただいています。」
さすがに初々しくて、話し方も硬い。
ヘェ〜 あの無愛想なエリも会社の顔やってたんだ
アイツに笑顔なんて出来るのかな?
ちょっと見てみたい気もする。。
ふと見ると、胸元に三木谷と書いたバッチをしていたので、もしやと思い聞いてみると三木谷社長のお孫さんだった。
昨夜の社長との楽しい時間を思い出して、いくつかお爺ちゃんである社長について質問したかったが、そこは大人としてグッとこらえた。
エレベーターで4階にある、商談用の事務所に通され、お茶を出してくれると三木谷さんは行ってしまった
彼女に勧められて茶色い皮張りのソファーに腰掛けたのだが、待っている間ソワソワして来る。
室内を見渡すと、テーブルの上の重そうな灰皿、クリーム色の壁を一周見て、壁の時計はまだ9:30を指している。
10時の約束だったのに、早目に来すぎてしまったと、少し後悔したところに三木谷社長が現れた。
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