三日月
⑷ 鼻歌
5月20日 水曜日
次の日目覚めると、予定が入っている事が嬉しくて夜のジョギングのことばかりが気になった。
ジャージなら大学生の時に使っていたのがあるはずだ。それは、どこに?
履歴書も見返して、誤字脱字無し、退職日は3年前でなく半年前と盛って、スマホのアラームを19時半にセットするとジャージを探しに行くことにする。
「母さん、オレのジャージ知らない?大学時代の黒のヤツ」
畳の部屋に行くと母親が洗濯を干しながら父親の持ち帰った荷物の整理をしているようで、荷物が散乱している。
庭に居た母親に声が届いたようで、遠くから返事があった。
「え?あったかな?あるなら押入れのタンスの中よ」
ここかぁー。カビ臭いだろうな、、
ちょうど押入れの前に立っていたので
早速タンスの引き出しを開けて探そうとすると、すぐ上にあった。
こんな目に付く場所にあるとは、オフクロが、しまった場所を覚えているはずだ。
鼻を近づけみる、、
あれ?しかも、臭くない!
更に庭から声がした
「カズお隣に母恵夢持って行ってくれる?」
母恵夢というのは、お父さんが毎回買って来るひよこ饅頭の兄弟のような昭和の香りがする和菓子だ。
岡山県の定番のお土産である。
父親、弘臣(ヒロオミ)の仕事は、デニム製品のデザインで、その本社になるデニム工場が岡山にあり、そこで、ベティースミスというブランドを長年担当している。
それで、60歳を過ぎた今でも月に半分くらいづつ岡山工場と、恵比寿事務所を往復しているのだ。
両親は社内結婚で、母親はオレを妊娠するまで営業をしていた。
そんなこともあり、自宅にもサンプルや処分品のデニムや、Tシャツもろもろたくさんある。
学生時代のオレは背が低く、顔も女の子みたいだった事がコンプレックだった為に、どんなイケてるジーンズを履いてもイマイチで「僕はジーンズを履かない」と、決めた青い時もあったりした。
しかし、今は無料のサンプル品にお世話になりっぱなしで、自宅で着るランニングと短パンは全てソレだ。
「母さーん。先に飯食って良い?腹減った。」
声しか聞こえて来ない母親に大き目な声を出すと、大き目な返事が返って来た。
「カズ!昨日の鍋に、うどんかご飯を入れて食べて。卵も冷蔵庫にあるから 使って!」
お!それは、旨そうだな。
うどんを作って食って、残ったスープにご飯を入れて2度美味しい作戦を想像するだけで浮かれて来た。
お腹が空いていたので、鍋を火にかけて美味しそうな匂いがして来ると、思わず以前大好きでよく聞いたミスチルの"名もなき詩"など鼻歌していた。
"名もなき料理"にちなんで、、
そういえば鼻歌が出るのは、楽しく心踊っている時だと聞いたな。
ハッとした。
今のオレは、そんな気分だって事か?
楽しく心躍る。
これは、特別なイベントに対して起こる事では無くて、気分が晴れてると料理しているような些細なことにも心躍るんだ!!
何げない日常に転がってる事なのか?
そして、外見って、こんなに気分まで変えちゃうものなのか?
驚きで止まった手から、切っていたキューリのお新香がコロコロっと転がって流しに落ちた。
すこしくらいの汚れものならば
残さずに全部食べてやる
おお ダーリン
頭の中で、名もなき詩の歌詞を歌い、クスッと笑いが出た。
お新香を水道で流すと口の中に放り込んだ。
また、鼻歌だ。。。
認めるか!今のオレは、楽しい!
数日前とは大違いだ。
考えてみると働いている時は、鼻歌なんて出た試しはねーな。。日々が必死で。
最後の日の地獄のようなあの時間なんて、ありゃなんだ?
営業が、皆で数字の合わない事をオレの罪になすりつけて、部長だってわかっていたはずだぞ!!
営業の奴ら1人残らず、長い間会社の金を横領する様な事を集団でやっていたんだ!!
結局オレだけいつも貧乏クジさ。あんな嫌なことなんて忘れよう。。。
出来上がったうどんを食べる頃には、苦い思いにその先雑炊まで食べる気にはなれなかった。
うどんを食べ終わって、皿を洗っているとき、ふと思った。
じゃあ、恋ってどんな気分なんだ?
華やかな香水臭い営業職のヤツらを横目に、地味に地味に内勤していた、コミュ力の無いオレは合コンにも誘われず、奴らが持ち帰った数字を合わせる毎日に枯れ続けていった。。
周りは、恋人が出来ると目で見てすぐにわかるほど瞳が輝き身体から出るオーラも変わって、成績もグッと良くなった。
彼女と上手くいってない時も、オレにはわかった。
別れた時の男なんて、最悪だ。
貧乏神に取り憑かれたように、何をやっても上手くいかない負のオーラを漂わせていた。
オレも恋、してみてーな。
待て待て、ニートのオレが恋への憧れかよ?
さて、母恵夢でも持って行くか。。
試しに、ジャージに着替えてみると、流石にちょっとキツくなったような気がする。
けど、着れない事は無い
あの頃より体重が増えたと言っても、5kも増えちゃいないだろう大学の頃が痩せ過ぎだったんだ!
自分をフォローしておく。
ドンマイ!
このまま外出するか?
ジャージのまま母恵夢を持ってお隣へと向かう
自宅とよく似た作りの、お隣の玄関前まで行くと、南国好きな忍が植木鉢にハイビスカスの花を咲かせることに成功してあった。
その奥に海里の自転車が見えて、近づいてよく見るとチェーンが外れているだけだったので、簡単に修理しておいた。
手が汚れたので、家に戻って洗ってから出直した。
ピンポーン
しばらくしたら、玄関先へ忍が出て来た。
「忍さん、オヤジからいつもの母恵夢です。」
忍さんは、喜んで受け取り、昨日の5000円もちゃんと渡したとを伝える。
ついでに、自転車を修理したこと、鍵がかかってないから鍵をかけることを伝えると、丁寧にお礼された。
「そうだ、忍さん。自転車を試運転してみても良いですか?」
更に、喜んでくれた。
「カズくん、ありがとう。お願いします」
良い事をすると、良い気分だ。
チェーンがまた外れるかも知れないな、近所を一回りしてついでに、今夜のジョギングコースを決めるか。
ジャージのまま、公園や例のパン工事、海里の会社を通って、ハサミの経営する美容室なども通る。帰り道、人気の無い道が数か所あって「チカン注意」の看板がいくつか置かれていて、気になった。
次の日目覚めると、予定が入っている事が嬉しくて夜のジョギングのことばかりが気になった。
ジャージなら大学生の時に使っていたのがあるはずだ。それは、どこに?
履歴書も見返して、誤字脱字無し、退職日は3年前でなく半年前と盛って、スマホのアラームを19時半にセットするとジャージを探しに行くことにする。
「母さん、オレのジャージ知らない?大学時代の黒のヤツ」
畳の部屋に行くと母親が洗濯を干しながら父親の持ち帰った荷物の整理をしているようで、荷物が散乱している。
庭に居た母親に声が届いたようで、遠くから返事があった。
「え?あったかな?あるなら押入れのタンスの中よ」
ここかぁー。カビ臭いだろうな、、
ちょうど押入れの前に立っていたので
早速タンスの引き出しを開けて探そうとすると、すぐ上にあった。
こんな目に付く場所にあるとは、オフクロが、しまった場所を覚えているはずだ。
鼻を近づけみる、、
あれ?しかも、臭くない!
更に庭から声がした
「カズお隣に母恵夢持って行ってくれる?」
母恵夢というのは、お父さんが毎回買って来るひよこ饅頭の兄弟のような昭和の香りがする和菓子だ。
岡山県の定番のお土産である。
父親、弘臣(ヒロオミ)の仕事は、デニム製品のデザインで、その本社になるデニム工場が岡山にあり、そこで、ベティースミスというブランドを長年担当している。
それで、60歳を過ぎた今でも月に半分くらいづつ岡山工場と、恵比寿事務所を往復しているのだ。
両親は社内結婚で、母親はオレを妊娠するまで営業をしていた。
そんなこともあり、自宅にもサンプルや処分品のデニムや、Tシャツもろもろたくさんある。
学生時代のオレは背が低く、顔も女の子みたいだった事がコンプレックだった為に、どんなイケてるジーンズを履いてもイマイチで「僕はジーンズを履かない」と、決めた青い時もあったりした。
しかし、今は無料のサンプル品にお世話になりっぱなしで、自宅で着るランニングと短パンは全てソレだ。
「母さーん。先に飯食って良い?腹減った。」
声しか聞こえて来ない母親に大き目な声を出すと、大き目な返事が返って来た。
「カズ!昨日の鍋に、うどんかご飯を入れて食べて。卵も冷蔵庫にあるから 使って!」
お!それは、旨そうだな。
うどんを作って食って、残ったスープにご飯を入れて2度美味しい作戦を想像するだけで浮かれて来た。
お腹が空いていたので、鍋を火にかけて美味しそうな匂いがして来ると、思わず以前大好きでよく聞いたミスチルの"名もなき詩"など鼻歌していた。
"名もなき料理"にちなんで、、
そういえば鼻歌が出るのは、楽しく心踊っている時だと聞いたな。
ハッとした。
今のオレは、そんな気分だって事か?
楽しく心躍る。
これは、特別なイベントに対して起こる事では無くて、気分が晴れてると料理しているような些細なことにも心躍るんだ!!
何げない日常に転がってる事なのか?
そして、外見って、こんなに気分まで変えちゃうものなのか?
驚きで止まった手から、切っていたキューリのお新香がコロコロっと転がって流しに落ちた。
すこしくらいの汚れものならば
残さずに全部食べてやる
おお ダーリン
頭の中で、名もなき詩の歌詞を歌い、クスッと笑いが出た。
お新香を水道で流すと口の中に放り込んだ。
また、鼻歌だ。。。
認めるか!今のオレは、楽しい!
数日前とは大違いだ。
考えてみると働いている時は、鼻歌なんて出た試しはねーな。。日々が必死で。
最後の日の地獄のようなあの時間なんて、ありゃなんだ?
営業が、皆で数字の合わない事をオレの罪になすりつけて、部長だってわかっていたはずだぞ!!
営業の奴ら1人残らず、長い間会社の金を横領する様な事を集団でやっていたんだ!!
結局オレだけいつも貧乏クジさ。あんな嫌なことなんて忘れよう。。。
出来上がったうどんを食べる頃には、苦い思いにその先雑炊まで食べる気にはなれなかった。
うどんを食べ終わって、皿を洗っているとき、ふと思った。
じゃあ、恋ってどんな気分なんだ?
華やかな香水臭い営業職のヤツらを横目に、地味に地味に内勤していた、コミュ力の無いオレは合コンにも誘われず、奴らが持ち帰った数字を合わせる毎日に枯れ続けていった。。
周りは、恋人が出来ると目で見てすぐにわかるほど瞳が輝き身体から出るオーラも変わって、成績もグッと良くなった。
彼女と上手くいってない時も、オレにはわかった。
別れた時の男なんて、最悪だ。
貧乏神に取り憑かれたように、何をやっても上手くいかない負のオーラを漂わせていた。
オレも恋、してみてーな。
待て待て、ニートのオレが恋への憧れかよ?
さて、母恵夢でも持って行くか。。
試しに、ジャージに着替えてみると、流石にちょっとキツくなったような気がする。
けど、着れない事は無い
あの頃より体重が増えたと言っても、5kも増えちゃいないだろう大学の頃が痩せ過ぎだったんだ!
自分をフォローしておく。
ドンマイ!
このまま外出するか?
ジャージのまま母恵夢を持ってお隣へと向かう
自宅とよく似た作りの、お隣の玄関前まで行くと、南国好きな忍が植木鉢にハイビスカスの花を咲かせることに成功してあった。
その奥に海里の自転車が見えて、近づいてよく見るとチェーンが外れているだけだったので、簡単に修理しておいた。
手が汚れたので、家に戻って洗ってから出直した。
ピンポーン
しばらくしたら、玄関先へ忍が出て来た。
「忍さん、オヤジからいつもの母恵夢です。」
忍さんは、喜んで受け取り、昨日の5000円もちゃんと渡したとを伝える。
ついでに、自転車を修理したこと、鍵がかかってないから鍵をかけることを伝えると、丁寧にお礼された。
「そうだ、忍さん。自転車を試運転してみても良いですか?」
更に、喜んでくれた。
「カズくん、ありがとう。お願いします」
良い事をすると、良い気分だ。
チェーンがまた外れるかも知れないな、近所を一回りしてついでに、今夜のジョギングコースを決めるか。
ジャージのまま、公園や例のパン工事、海里の会社を通って、ハサミの経営する美容室なども通る。帰り道、人気の無い道が数か所あって「チカン注意」の看板がいくつか置かれていて、気になった。
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