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三日月

ghame

⑶ 醤油

            5月19日 火曜日 

 昨日の美容室の帰りにも神からメールが届いた

内容はこうだ
<一日最低一度は外室するべし、初回限定でご褒美を用意しておく>

 なんだ?引きこもりじゃ話にならないってことで生活改善か?ま、それはそう来るわな。

 あんなにハマっていたアニメに割くスペースが空けられないほど今日のオレは神に翻弄されている。

 昨夜は何度も鏡を見て、神へ感謝して過ごし少し崇拝しかけていたりも、しなくも無い。

 外室ってなんだ?コンビニでもセーフか?髪に合わせて服を買いに行くのが正解か?イヤイヤなぞなぞ形式では無かったはずだ、ってわかんねーぞ。

  オレ頑張れ!

 とりあえず、なんか食って表に出なくては。

 キッチンに行くと岡山に単身赴任している父親が今夜帰って来るようで母親が夕食を用意していた。

 その横でご飯をついで味噌汁を温めて食べていると「カズが男前になったサービス。今夜の分だからちょっとだけよ」
 と言って パリパリなソーセージを3本炒めてくれたので、お腹が満足して早速イケメンになった事で特をした。

 そしてオレが自転車の鍵を持っていることに気がついたオフクロは
「出掛けるのなら、ついでにお醤油買って来て」
 と、子供のお使いのように500円玉を持たせてくれた。
 特に出かける用事もまだ決まって無かったので、お醤油を買いに出かけることにした。

 スーパーに行くと久々だったこともありタイムセールや試食の売り子などが騒々しく、まるでパチンコ屋のように感じて目が回って来た。
 心なしか、主婦や、定員からの視線などを感じる気がする。
 すっかりそんな ナルシストくんになっていたが、醤油のメーカーを聞き忘れた事に気がついた。

しまった、薄口ではないよな?メーカーなんだっけ?

 醤油の前に立ち尽くし迷っていると。
「これよ!」
 後ろから聞いたことのある声がした。
 振り向くと海里の母親の忍さんがニッコリと立っていた。

「忍さん、ありがとうございます。困っていたところで、助かりました。」

 オレって、どんなキャラだっけ? イケメンぶってやしないか? 大体、忍さんとも話なんて普段はしないから、キャラ設定も無いよな。

「まあ、スッキリしたじゃ無い。とってもハンサムよ! 20代に見えるわ。 博子ちゃんから髪を切った話を聞いていたから カズくんに会うのを楽しみにしていたのよ」
 20代とは、忍さん褒め過ぎ、ぶっ 笑

「おばさんも、変わらずお若いですよ!」
 も。って付けちゃった、コレってオレも若いって自分で認めてるってことだよな? 
 自意識高くて、無しだろ、コレは? 

  考え過ぎて調子狂うな、、、。

「そういえば、さっき博子ちゃんと会ったのに また立て替えてもらっていたパン教室のお月謝を返すの忘れてしまったわ。 ダメね。 また忘れそうなのでカズくんに預けちゃっても良いかしら?」

 パン教室というのは、パン好きな二人が月に2度通い始めた お料理教室のことで、持ち帰る手作りパンは美味しいのだが、まだ家では焼いてくれた事がない。
「はい。お預かりします」  

 スーパーを出て自転車を走らせていると途中でまた足早に歩く海里の後ろ姿が見えた。

 自転車を降りて呼びかけてみた。
「エリ、今 忍さんに会ったよ。」
「それで?なんか用?」
 わっ、わっ、なんだコイツ?最悪に感じ悪い性格ブス星人だ。

「あれ?そういえば、エリなんで自転車じゃないんだ?会社まで歩くには遠いだろ?」
「カズ、何か用?」
 迷惑そうに返事を返して来る

「いや、この辺りチカンの看板が出てるし、柄悪いの見かけるから自転車の方が安心なんじゃないかと思って」

 あれっ?エリの顔が青ざめて来て、キョドキョドしてる?
 スゲー動揺ぶり!

「エリ、ビビってるんだろ?だから早足か?自転車どうしたんだ?」

 おっ!今度は赤くなった。コイツ怒ってんな

「壊れてるの!週末修理するから今週は歩きです!はい、ビビってます、さよなら」

 なんだ?顔が、素直過ぎ!笑える

「そんなにトゲトゲすんな!今週はコレ使えよ、オレ別に自転車なくても平気だから」
「………。」

 黙ってないで、何か言えよ!

「いらないわ、あと3日だけだから」

 そう言うと思った。怖いくせにコイツ意地っ張りだな!
 よし。このキョド子を、ちょっと脅してやろう。

「チカンの看板ずっと出てるってことは、まだ捕まってなくてこの辺に居るってことだぜ。」
 
 ここ足立区は治安が良くなく 物騒な事件も起きている。
 男の居ない家は不安だろうから、そう考えると気の毒になるな。

「カズ、昨日から別人見たい。自転車貸して」

 今度は青くなった。諦めたな!

自転車を手渡すと驚くことに とっとと一人で行ってしまった。

「えッ?アイツありえねーだろ?どんだけ感じ悪いんだよ?」

 …やっぱり、なんか笑える

 4回目の神からのメールは 久々に帰った親父と3人 家族団欒食事中に届いた。

 内容はこうだ
<明日の8時頃、履歴書を用意してジョギングするべし>

 夕食後にメールについて考える。

 履歴書? ジョギング? 今度はまた意味不明な内容だな、とりあえず履歴書買いにコンビニ行くか。

 コンビニに向かう途中で、夕食での出来事を思い返した。

 オレの変身ぶりに両親は仰天して、二人とも写真を写したくらいだ。 
 そして変身前を写していなかったことを残念がったり 久しぶりに家族らしい和やかな食卓に3人共ご機嫌で親父の好物の鍋を雑炊までたどり着けないほど食っちまって笑えるな。 
 それから、忍さんから預かった月謝を「お駄賃だ」ってもらえてホクホクだぜ。
 お陰で履歴書はこっそり買える。 
神が履歴書用意しろってメールくれたから買いに行くなん言えねーよな。 

 やべ、やっぱオレどうかしてるよな?
 
 履歴書と聞くと、何かを期待してしまうじゃないか。

 まっ。
 当分 神に従っとくか、ご利益あるかも。

 部屋に戻ると、何度も失敗して深夜までかかり 渾身の一枚を仕上げることに成功した。



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