異世界悪魔の生き方 ~最後に神が笑うと誰が決めた~

凛助

第十五話

「今度はポーション買ってくださいね」

最初は魔力と手で押さえつけても蠢く紙束に凄い顔をしていたが、借りると言うと調子を取り戻して集客してくる。
 ポーション─魔力のこもった薬品、塗り薬もあるが飲み薬が多いと本に乗ってた─体力回復意外にも色々あるみたいだけど、今はとりあえず次の本屋だ。

蠢く紙束をもらった紐で縛って、さっきと同じように絵本以外をマントに包む。絵本はリィナにもってもらった、近いと紙束が縛っても暴れるから仕方ない。

道を更に奥に進むと、軽く瓦礫を退けただけの様な道に変わる。少し進むと先の割れ尖った木材が飛び出た瓦礫が道を塞ぎ、バリケードの様だ。

「まわり道は……上だな」

建物を軽く蹴りつけ強度を確かめる。三階建てのそれはソナーでわかった通り、俺とリィナが少し跳んだ位問題ないだろう。ソナーの様に魔力を撃ちながら【錬金術】を通し、壁に窪みを作る。 
 錬金術が火に属する、つまり熱である振動ソナーに合わせることが出来ると思い付いた。
 結果は少し大雑把にはなるが良い感じだ。

顔の赤くなったリィナを許可をとってから軽く抱き上げる、小さく「ひゃっ」と言う声が耳に届いたがそのまま屋根に駆け上がる。こんなに荒れている道なんだ、また何度かこう言うことがあるだろうな。

上から見ると、門から中心までしかちゃんと整備されていない、他は所々だ。それはまあわかる、霧に囲まれているんだ金も物も足りないんだろう。
 でも植物で出来たような教会はどんなに門や中心に近くても全く整備されていないし、もっと言えば繋がる道が瓦礫でつぶれてたり一部は教会そのものが崩落している。

崩落と言えば、目の前の崩れた家々を飛び越えないとな。

「よし、リィナ舌を噛まないように」
「はい!」

今までは脚に魔力を回すだけだったが、更に一段階効率を上げる。闇の魔力が重力を表すなら──

「ふっ!」

全身を打ち出す瞬間重さを下げ跳ぶ、そのまま建物跡を1、2、3と越えバリケード瓦礫を抜けて。防護服を足を主にリィナ含む前面に集め、擦るように着地する。さて先に進むか。

「なんでしょう、…暗い、です」

まだまだ日は明るいはずなのに人のいないそこはどんよりとした空気で、そう感じる。かつて公園と呼ばれていた場所。荒れたそこは崩れた木や溶けた木に血の乾いた地面、戦いの跡がそのままだ。
 あのゴブリンもどきは血を流さない、この血の跡はみんな人が流したものだ。それに気づいたリィナは何処か強い光を目に宿す。あの時の、一緒に戦っていた時の瞳だ。

「……あ、ごめんなさい。せっかく楽しくしていたのに」
「いいよ、大丈夫だから」

人の手がほとんど入っていないのに本当にこの先に人が居るのか? ミアさんは道が陥没していると言っていた。今まで、なだらかな道は一本しかなかった、陥没していなかったからこの先に陥没している場所があるはずだ。
 そのまま歩いて、歩いて、歩いて。

──おかしい──

上から見た時はこんなに広くなかったし、どこかねじれた様な違和感が強い。【空間操作】で緩和出来るから空間がねじ曲げられていると言うのはわかるが、干渉できても歪める位で破れない。
 リィナも土と風の複合魔術である空間術を前に土の魔術の結界術じゃ相性が悪いそうだ。ばつの悪い様な歯がゆい様な顔をしている。

「不味いな」

何度かいじくったせいか、道のループも狭まってきた。
 …即興だが仕方ない、吹き飛ばすか。

「ジ、ジークさん。何を!?」
「リィナは俺の後ろに、あと結界で守って」

空間操作で空間をねじ畳んで一気に吹き飛ばす、これは慣れてきたと言うか発想だ。外で駄目なら圧縮すれば良い、解析に精密操作があっても頭は変わらないからもうちょい早く思い浮かべばいろんな所で役に立ったろうに。
 手のひらに渦巻き波を打つ空間圧縮面を、歪めた空間に叩きつけた。

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「全くろーじんの最期の楽しみをとっちまうんだから、」

広い平屋を改装して作られた本屋に呟くエルフ耳の老婆が一人。人や物の少ない今、本来なら兼業をしなければならないが、この老婆─カーリー─は特にそのようなことはなかった。
 その手には魔槍を次ぐ者と手書きで書かれた絵本、そのページの束を撫でている。
 
「おやおや」

分割され荒れていた紙束をカーリーの手で修繕されて以来、薄く光と微弱な意思を放っていたが。少し前、ジークとリィナがミアから蠢く紙束を借りてから魔槍を次ぐ者のページの束の鼓動が強く瞬いている。
 そのページから光の波が飛び、カーリーへ意思を届ける。そのまま数十秒かした後。

「バカだねぇ、ディー坊。思ってくれた人も居ただろうに」

と、寂しそうに呟いた。
 そのままカーリーが物思いにふけていると。何かが膨らみ縮むと言う言い様のない音の後、地面に硬いものが衝突する音が響いた。

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ループ空間から飛び出すと似たような公園に出る、だけど何と地面は遥か下。叩きつけられる前にリィナを抱き寄せ、重力を下げようとするが。

「はぁぁぁっ!」 

それより速く、リィナが強く気合いを入れ全身を結界で覆う。その横顔は何処かさっきからつらそうで、つい手を握った。

「「っ!」」

──ドッ!ゴンッ!──
 地面に落ちると結界の弾力から一度跳ね、その後結界の力が変化し硬度を上げ地面にそのまま着地した。
 結界を解くと小さなクレーターの様な跡の縁に腰かける。

「……それで、さっきから一体どうしたんだい?」
「どうした…とは?」

ごまかすのが下手だなぁ、顔に出すぎだ。それに震えかけた声をいきなり治したからむせてるじゃないか。
 軽く背中を撫でて落ち着かせようとすると──

──ぱしっ──

「っあ、ご、ごめんなさい! 手、大丈夫ですか?!」 
「あ、うん。大丈夫。……ごめん」

痛みはないけど、結界で手を弾かれてしまった。遭わなくても良いのに危険な目に遭わせたし、それに……少し馴れ馴れしくし過ぎたのかな。

 公園を抜けると道路は割れの段差がある程度で瓦礫はなく、少し道なりに進んで見えてきたのは平屋だ。何処と無く古めかしいけど、傷の一つもなく見える。

「これは──」

平屋まで後二十mといったところまで近づくと、レンガ一つ一つに魔力の流れと薄く結界が見えてくる。何かあってからじゃ遅いと魔力が見えるほど上げていた【解析】の配分をガツっと頭が痛むほど強めると。
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経過時間:427年320日7分
耐久力:『182』
機能:【硬化】【吸収再生:土】
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「ジークさん? だ、大丈夫ですか?」
「うん、ちょっとしびれただけ」

特に問題ないと中に入る。一歩足を踏み入れると、何処か泡を抜ける様な感覚に包まれる。
 中に入ってわかった、上下左右に納められた本一冊一冊から魔力が溢れている。魔道書と言うやつなのかもしれない。

「なっ──」

そのまま背中の包みとリィナの手の中の紙束から光の線がエルフ耳のお婆さんが持つ本に吸い込まれ刺さる様に繋がった瞬間──
 左右斜め後ろの本棚2つが入り口を塞ぐ。冷や汗を浮かべながら見つめた相手は、手の中の本を見せ「カーリー婆ちゃんの本屋へようこそ、本の修理もやってるよ」と言い。俺たちを見るその目は、真っ直ぐと見透かすようだった。

 構えて睨み合っている数十秒間。
 魔力関係を消化しつつある今の俺の【夢魔法】は特に意思なく、悪意の有り無しを見通せるはずが何一つ見えない。普通に戻っただけなのに、ここまで怖いとは。
 戦闘を意識し解析にリソースを回す、そしてわかったのは。

「──くっ」

ここでは勝てない。
天井まである大きさの本棚で狭い、ここじゃ俺の強みである速度が出せない。
壊そうにも溜めがいるし、外に出ればどうにか出来るか? ……やるにしても時間がいるな。

「──それでいったい俺たちに何をしてほしいんだ」
「そう言っておきながら、油断の欠片も無い。良い子たちだねぇ」

隙を狙う。どんな奴にも勝利の後の余韻、そんな隙が出来るはずだ。

「まっ。その前に──」

目を閉じた、それに魔力の流れが変わった! どうする……魔術の中には人を支配する物がある、少しの差が終わりになるかもしれない。…行くしかない! 顎を狙って一撃で気絶させる!

「その『ボロボロ』をどうにかした方がいいねぇ」
「はっ!──」

顎を打つはずの手を顔を少し反らすだけで避けられた、だが──

「まだっ──だぁぁぁ!
空中で身体をひねり脚を放つ、軽い身体を活かした重心移動で腕の一撃よりさらに速く穿つ。ここの狭さは俺だけが悪く働くんじゃない、あんたも避けられはしない!

「落ち着きなよぉ、お坊ちゃん」

カーリーに当たる直前に周りの本棚に納められた無数の本からにじみ出る水の様な黒が素早く身体を縛り空中に固定する。だが、それは痛みを与えるのではなく関節を必要最小限の力で抑える技。
 拘束を外そうと結界弾を放とうとしたリィナも同様に捕まってしまった。
 …このまま、この魔女の使い魔にでもされてしまうのか──

「何を焦ってるのか知らないが、せっかちは嫌われるよ。別にあたしがあんたたちに何かひどいことしようって訳じゃ無いんだけどねぇ」

──それなら解放してくれよ

「信じられないだろうけど──」

そう言うと魔力も使わないまま頭撫でられる。いったい何をと思うがそれより手の優しげな感触が何処か暖かくて、動きを緩めた。そうすると押さえつけていた黒の力が抜け、消えた。
 
「説明した後、ちゃんと出してあげる。『約束』だ」
「……わかった」

本棚が動いて見えなくなり部屋が広くなると、床が膨れ椅子とテーブルに変わる。俺と同じように解放されたリィナと目を会わせつつ座る。

「お茶とお菓子はどれがいいかい?」

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