異世界悪魔の生き方 ~最後に神が笑うと誰が決めた~

凛助

第十三話



トレーニングの休憩に簡単な雑談をする、この切磋琢磨する環境もあってか話は能力の方向に移っていった。


「僕は魔力を…どうしてそんなに離れるんだい?」


アーサーのさっきのでちょっと近寄りがたい。それがわかったのか、強く弁解してくる。


「勘違いしないでくれっ! 僕は魔具が好きなだけで変態じゃない! 只、魔力を五感で感じとれるだけなんだ!」
「…わかった、勘違いしてごめん」
「ごめんなさい」


その能力で魔具の魔力を見て聞いて嗅いで味わって触れる、最初はそれだけで満足していたらしいがそのうち魔具の歴史や伝説の方にも興味があるようになったと喋ってくれた。


「私はやっぱり結界です!」


リィナは手のひら作った俺の迷宮領域の様な球状の結界を最初に、形を自由に変えていく。丸から四角、三角、棒状。複数にバラけさせそれぞれ別々の形にし最後は万華鏡の様にして終わらせた。


「話に聞いていた、結界に近い迷宮領域のことを知りたいです」
「いや別にそんな凄いものじゃないよ、丸でしかないし。リィナのとは全然」


まあそんなこと言っても見せるんだけどさ、とりあえず見栄張るかな。【迷宮核作成】に今まで使って増えてきた魔力を盛大に入れる、何処か星の様にくるくると回って魔力が凝縮していく。その強い力は【圧力】の力もあるのかも知れない。


「なんでしょう、何処か気持ちいいです」
「へぇ、これがそうなんだ…っ!?」


迷宮核だけでもう力の膜が出来てきている、ここで【迷宮領域作成】を合わせると少しずつ膜の中に黒い粒子が現れ結界が構築され──


「っ?!」


突然脇から瞬間移動したような腕に腕を押さえられバギンと言う音と共に迷宮核を残して、全ては霞と消えた。


「ふぅー。申し訳ないがあまりこう言うことはしてもらっては困るね、ミレア様の結界に異常が出てしまう」
「すいませんディールス様! 自分が話を振ってこんなことに!」
「……まあ良い、次からはアーサー君。君でも免ずることは出来ないよ」 


そう言うと入り口の方にいる、かなり大きな女性の方に歩いていった。目立たないように頭を下げていたが、これは。


「ジークさん?」


あの男がミレア様と発音する程膨らむ不快感と何処か感じた感覚、…あいつは危険だ……!。 


「ジークさん…大丈夫」


震える程強く握っていた手をギュっと優しく握られる。リィナがいるんだ、抱え込むなんて土台無理な話か。


「いやーあぶなかったね! 戦役長に見られなくて良かったよ。ディールスさんを煩わせたと思われたら何をされたか」
「あの…ディールスか、どういう人なんだい?」
「このエルフの元四大主要都市の一つ『冬の根』を今納めている人であり、僕からすれば幼なじみのお父さんでもあるね。まぁ今はあんまり近くにはいけないけど」


知らない単語が増えたな。戦役長に四大主要都市か、まあだがあの不快感は多少意味があるみたいだ。アーサーのあんまり近くにはいけないと言う言葉は、その顔色から言葉裏に行きたくないと言った風に聞こえる。


「後ミレア…様ってのは」
「霧に埋もれる前にここを納めていた人かな、自分の命全てを使って結界をはったらしい。…でも結界術を使うなんて話、聞いたことなかったな」
「おーい、そこの新入り二人あつまれぇーい!」


ヒューが集まる様に呼んでいる。走っていくと、ヒューの後ろに昨日よりかは甘い隠密をした隊長がたっていた。そして何処か最初の無表情とは違いヒューはバカにしたように笑っている。


「俺はなんていったかなぁ、それが限界なのかなぁ、そんなんでここには入れないと!思うなぁ。俺は」


そう言うと息を吸い強く「出ていけばこのガ──」後ろにいたウォル隊長から首を絞められた。


「お前は何度も何度も簡単に追い返しすぎた」


ヒューは首を押さえていた腕を握りつぶす様に掴むと強く睨みながら言った。


「っ!はぁ…何でこんなガキを俺たち精鋭なる冬陣戦団の一員──」
「いつまでお気楽気分なんだお前は! これが精鋭?!調達係となった今。たった一人でいつまで夢見てるんだ!」


なんと言うかヒューの教材にでもされたのか?…昔だったら別に試験を受けたり、戦役にでもなってたんだろうが。もう違う。


「子供ですかあなた、恥ずかしくないんですか?」


まだ、うだうだしていたヒューに、一喝したリィナに目をかっ開いたヒューがつかみかかる。そこに割り込んで──


「俺と戦え。負けたら好きに追い返せば良い、でも勝ったら好きにさせてもらう」


意思を叩きつける、本当なら無駄だし不都合だろう。でも同族嫌悪か、現実が見えないこいつが今を見れる様にプライドをへし折りたくなった。


「どいつもこいつもなめ腐りやがって、ガキども」


それにはこの身体が好都合だ。


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「取り消すなら今の内だ」
「逃げるなら今の内だけど?」


隊長に軽く説明し腕試しとして許可をもらうと、場を開け向き合う。
 ヒューの装備は刃を潰した長剣を持った位で他には装備と言えるものはない、俺は夢喰いを錬金術で刃を潰した程度で今まで通りだ。周りの人は集まってざわめきている、だがその目は見慣れた展開を見るようで。何回かこんなこともあったんだろう。


「3、2、1。始めっ!」


助走をつけ強く剣を振りかぶってくる、刃を潰してあるとしても鉄の塊を叩きつけるのに容赦の欠片もない。技量に差はあるがその動きは見たことがあった、おじさんの杖の動きだ。


「な!なんだとっ!」


二撃、三撃とその円を重視した動きを解析の補正もあって避けられるが、なんだろう何処かもっと見たことがあるような。
 とりあえず昨日の通りに受けてみるか。【補助魔法】で夢喰いの強度を限界まで上げ、受け流しにかかるが──


「ぐっ!」


回転して追撃はせずに独特なステップを踏むと、周囲に音が大きなつむじ風が生まれ砂を巻き上げる。目に砂が入るが構わない、今は隙を少なくしないと。【夢渡り】によって現実から埋めたソナーを打ち出すのではなく球の様に広く広く身体に纏わせ、出来るだけ薄く気づかれないように。


(見えた)


風と砂が邪魔だがヒューはつむじ風に紛れ、静かに両手で刃を振り下ろす構えのまま来るのがソナーでわかった。近くの風は勢いと音量を増しているがそれ以外はヒューの速度を上げる為か、前に風の障壁、後ろに追い風と変わり身体に纏っている。間に合わないかも知れないと、【補助魔法】を身体に薄くかけ認識速度を合わせる。


「目の前から消え失せろっガキィィイ!」
「目を開けろよ、俺より歳くってんだからさ」


夢喰いで風に流れる魔力の繋がりを溶かし喰い、弾けた風でぶれた長剣を最小限の動きで避け、全身の魔力を吹き──顎を打ち上げた。防護服を爪先に集めているのもあって完全に気絶しながら、吹き飛んでいく。


「そこまでっ!」


隊長は落ちてくるヒューを抱き止めると、ゆっくりと地面に寝かす。
 その大切そうな扱いに、倒し方について何か言われるかと思ったが。


「こいつも昔はこんなんじゃなかったんだがな、あの日からここは停まったばかりだ。…流れがなければ腐る、それは人も物も変わらない。よろしく頼むぞ。新しい風、ジークよ」


っォォォオ!と喝采を上げる観客を割りアーサーが出てくる。


「凄かったよ!ジーク君! 良かったら僕と戦わないかい?」
「それって今じゃ無きゃ駄目?」


━━━━━━━━


錬金術でベンチを作って、アーサーからもらった水を飲み空を見上げる。
 何度か命の危機にさらされたからか、初めてまともに人と戦ったけど特にきつくは無いな。


「ジークさん、ありがとうございました。いきなりあんな無茶してごめんなさい」
「いや良いよ、リィナが言わなかったら俺が言ってた」


そうだ、もしかしたら一喝所か一撃だったかも知れない。
 その後戻って来たウォル隊長にリィナも「あれだけ走れればまず合格だ、また明日、来たときと同じ時間に」と言われ、使いやすそうな短槍を渡された。材質は石の様だけれど、以外と軽くリィナも軽々とは言えないが突くこともできるな。


「ん?リィナちゃんも槍なんだね、僕もなんだ」


アーサーが腕を振るうと肩まである籠手から前に見た刃の厚く広い大槍が現れた。その槍を掲げポーズを取ると語りはじめた。


「僕はね、ある伝説の武器を振るうために鍛えてるんだ。その槍はいかに投げようとも主の元に返り、空さえも切断し、風の軽さと雷の速度を持ち、水の如く砕けないとされている。外見は刃が広く厚い大槍なんだ」
「今もっているのがそれなのか?」
「あはは、違うよ。これはイミテーションさ。限界まで壊れない様に作ってもらったから物凄く重いから投げるなんて出来ないし、しまっておけるのもこの籠手の力だしね」


左腕に触れて初めて、その中で魔力が動き続けているのがわかる。門の衛兵の時にもつけていたんだから、気づけてもよかったと思うんだが。使って魔力が流れてから、それも触れていないとわからない様だ。


やっぱりスキルがあってもまだ足りないな、転生で下駄を履いても蓄積が。…よし。


「もうそろそろお昼ですね!ご──
「図書館って何処にあるんだ?」
「「えっ」」


あっ…。
 先に食事に向かうことにした、行ったのはアーサー行きつけの屋台で串焼きがメインで特にタレが美味しかった。レモンの様なスッキリした柑橘系がタレに入っているのかこってりな感じでも後に残らない。
 肉だけじゃなく、貝や果物の串焼きもあった。貝は海の匂いがしなかったが下処理のせいか?


「おごってもらっちゃってごめん、アーサー」
「良いよ、変わりに良いもの見せてもらったしね」 
「それにしても、あー美味しかった」
「そうですね。けっこうこってりめですけど、以外と後味さっぱりな感じで」


そんな風に感想を言い合っていると、突然アーサーが悪そうな顔をして「フッフッフッ」と笑う。


「実は、何度か通いつめて隠し味わかっちゃったんだよねー」
『隠し味?』
「そう、こっからは小さな声で。……実はレモンなんじゃないかって」
「そんな匂いはなかったと思うんですが、良くわかりましたね」


へぇっ? けっこう、いやかなり香ってたと思うんだけど。リィナもわかってない様だ、……俺こんなに味がわかる奴だったかな?


「えーとそれで図書館だっけ、蔵書とかは移せたみたいだけどパニックの時のまま再建出来てないんだ」
「どうして再建出来ないんだ?」
「人も大きく減っちゃったし、装備とか食事とかに集中してるからじゃないかな。で本はミーリアさんなんかの人達が保存してあるみたいだね…僕はもう少しトレーニングしてるから、それじゃ」


図書館は再建未定か、まあ理由はわかるけど仕方ないか。


「ジークさん、何を調べるんですか?…もしかして魔術とか」
「うん、ここまで結構見てきたから。一度ちゃんと調べようかなってさ」
「なら安心してください!私結構得意なんです!」


予想も当たったのもあってか胸を反らして自慢げに言う、こう言う子供っぽい所もあるんだ。今まで、やっぱり無理してたのかな。
 

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