異世界悪魔の生き方 ~最後に神が笑うと誰が決めた~

凛助

第十話

そこからは蹂躙だった。今までが着ぐるみの上に拘束具を着けている様な物だ、比べ物にならない。放つ魔弾と一閃が、舌を消し、腕を断ち、そして胴を薙いだ。霧から無数の援軍がくるが、問題なく倒しその度に死体は積み上がり。霧は薄くなっていく。
 リィナも結界で出来た弾で援護してくれるが。途中から援軍は来なくなると、なんと糸の様になった霧が射手型の死体を操ってくる。


「こいつら不死身か!? もう平均四~五回は殺してるのに」


その言葉の通りにほぼルーチンに攻撃を繰り返し、倒すが霧が傷を縫い直す。死体を直す前に腐らせようとしたり演技でも逃げようとすると無駄に過敏に動く、消耗を狙っているのは丸分かりだった。【肉体再生】は傷は癒えても傷を治す体力を動くことに使えるだけで、体力も回復はするが実際はそれほど回復しない。このままじゃジリ貧だ。
 リィナももう言葉無く集中している。敵は舌の無い今強度に特化した結界を張り、削る様なその攻撃からの維持に苦心している。


「っ!」


五体の狩人型が両手を地面に叩きつけ、ドロップキックをするように跳びくるが結界に阻まれる。
 足が無いのにこれは一体?と思った瞬間、足の射出孔から粘体が沸きだし結界に侵食する様に身体を支えた。そして残りの七体の狩人型が結界を中心に円陣を組み射出孔の狙いを定めている。


「考えたな。結界を壊すと同時に自分ごと最大火力で攻撃か」
「どうします?」
「…ちょっと滑るけど背中に乗って、そうしたら結界を強化して。後で合図に合わせて結界を消してくれ…消す合図は0で」


聞こえない様に防音しながらそう言うと、何処かゆっくりと背中に乗ってくる。…疲れてきているのかも知れない。


「もっと力掛けて」
「あっ…はいっ!」


「3」
目と耳を強化しながら意識を集中する。筋肉の動きや強ばる音、グジュグジュと足ごと溶かす様なそれに圧をかけこちらの命を狙う意思。


「2」
足と意識を高め、足で空を掴む。背に手を回して落ちない様に強く支える、そのトクトクと緊張と共に柔らかに背中に響く鼓動を消させない様に。


「1」
息を吐き、関節に魔力を渦めかせる。緊張から吹く汗を魔力が掻き消していく。強固な結界を砕く為により力を籠め天から腕を振り上げるあれを今、落とす。


「0っ!」
その瞬間、中心から波を打つその全ての力を純粋な速度へと転化させる。結界が消えたことで空振り大きな隙となった奴を、奴らを踏み台にしより高く跳ね上がる。
 そして腐敗の力と質量を持つ闇の魔力でジェットを起こし、地面と挟み潰しもう直せない様に消し去った。更に周りの狩人型は急に酸の射出を止めたせいか、足所か胴にまで赤く腫れ上がっていく。


「ちょうどいい! はぁっ!」


空中から下に向け弱化の魔力を敵全体を覆うように放出する、それによって耐えられなくなった狩人型の身体の溜め込んだ圧力が酸ごと爆発し霧を消し飛ばした。


「はっははははっ! やったっ!やったぞっ!!。リ…リィナ?」


気を確かめるがリィナは動かない、気絶している様だ。まあ、病み上がりでかなり動いたからそれも仕方ない。


「っ。あれ…おかしいな…」


動き続けて俺も無理をしたみたいだ。頭が働かない、「こんなところで寝る訳には」そう呟くと土の壁が近づいてきた。


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ザッザッザッっと重い物が地を穿つ様な音が連続して頭に響く。
 背中にある感覚から誰かに抱えられている…のか? 拘束されているでも、装備を取られているでもない。薄目を開けて確かめると。


「起きた?」


目の前に、笑みを浮かべた半透明の…──耳が上に長く水晶の様になっている──エルフか? その女性の幽霊がいた。


「ええ、助けていただいた様で。ありがとうございます」


土で出来たふとましいデッサン人形の様な物に前抱きされている、リィナも隣のもう一体に同じように運ばれていた。周りを見回すとクレバスの中と言った地面の隙間の道、上には霧が流れている。


「ここは霧の中なんですか?」


「いや。そうであり、そうではないわ。まあ簡単に言えば霧の中を結界で抜いただけ。後、敬語なんて必要ないわ。私は…いや、只敬語はいいの」


この人も何かあるんだろうな。ここは日本みたいに平和じゃ無いんだ、何かあるのは当たり前なんだろう。


「わかったよ」


そこから言葉少くノロノロと道を進んでいく、揺らさない様になのか足が遅い。
空いたこの時間で自己紹介なんかも交えたけど、ミレアと言うエルフの彼女の名前がわかった位で話が長続きしない。その話の詰まった感覚から名前に続きがあるみたいだけど、なんと言うか彼女自身が話したくないみたいだ。その笑みも表面にも触れさせない様な自己防衛なんだろう。──でも、もっとお喋りしたい。


(なっ、なにいっていやなに思ってんだよぉぉ! 俺ぇぇ! 戦いの後だからって盛ってんじゃないよぉ!)


頭を音が聞こえるほど強く振る、煩悩を叩き出すように。それを不思議そう、いや懐かしそう?に見られた。


「い、嫌。何でも無いんだ。…悪いんだけど、リィナ、隣の女の子の様子をみたいんだ。病み上がりでね、後どのくらいで着くのかな? それ以前に何処に向かっているんだ?」


「行くのはかつての私の都市で、着くのは…今ね」


今ねと聞こえた時何かを破る様な感触の後、目に入るのは木で出来た城壁が無数の傷を曝している。でもどことなく修理はしている様だ。


「連れてこれるのはここまで。じゃあね」


そう声だけ残してミレアは離れていく。そして人形いやもうゴーレムで良いか、それがリィナを俺に手渡すと熱を受けた粘土の様に地面に溶けていった。


「よし、行くか」


近づいてその木肌に手をつきながら外壁を進む。霧は中も外も何処と無くピリピリして落ち着かなかったが、結界のお陰か何処か穏やかで空気だ。


「これ、よくみれば加工してないのか」


リラックスしたことでよく見える。繋ぎ目一つ無く、まるで木を城壁の形に育てた様だ。こんなの見たことはないが、大量に水分と魔力を含んでいるのはわかる、そう易々と焼け落ちはしないだろう。


そんなことを考えながらしばらく進むと門とその衛兵が見えてきた、向こうもこっちがわかったのか観察する様に見てくる。


「そこの二人止まれ!」


エルフと人間の二人組の衛兵だ。片方は横幅の広い刃を持った大槍を片手で軽々と持ち、もう片方はメモ帳の様なものを持っている。


「とりあえず名前とどうやってここを知ったのか…は後で良いか」
「はい。自分はジーク、この子はリィナ。知った理由って必要なんですかね?」
「うん、そうだね。まあすぐ終わるから、少しだけ動かないでくれるかな」


そう言うと人間の衛兵が持っていたメモ帳を翻す。メモに書かれている文字が光輝くと、メモが自分たちを丸く覆う。


「これは一体。っ!」


メモの隙間から見える人間の衛兵のアルカイックスマイルとエルフの衛兵のウズウズした様な動きに気を取られていると、メモから青い光の線が身体に当たる。痛みのないそれに不思議に思うと、すぐにそれは消えメモは自動的にメモのカバーに集まっていった。


「霧は無し。マナは闇が多いけど歪んでないし、問題なし。通って良いよ」
「あ、ああ。はい」


良くわからない診断の後に良くわからない結果を言われてもちょっと反応に困る。それに悪魔の事はバレたのか?とそんなことを考えながら、ほどよく舗装された道を歩いていくと──


「待ってー!」


後ろから何処か陽気な声が聞こえてきた、それはさっきのエルフの衛兵だ。


「俺はアーサー、アーサー・トライ。よろしく!」


そうしてお互いに簡単な自己紹介を交えると。


「俺ちょうど交代の時間何で、ついでだから案内するよ!」
「ああ。じゃあお願いするよ」


周りを見回すとかなり発展していたと言うのがわかる。だがそれも短い時間に何度かの修繕の後のある道、魔力の流れが乱れて光りがおかしくなった街灯とその跡。人口が多い分パニックも大きかったんだろう、薄く焼き付いた様な残留思念を感じる。


「…大丈夫?」


そう言うと満面の笑みでリィナごと俺を背負ってくる。考えが顔に出ていたのか?


「ち、ちょっと」
「良いって良いって、気にしないで。それに疲れているんだろう?見て聞けばわかるよ」


そんなのでわかるって、どんな感覚してるんだ。ああ~こんなこと見られたら恥ずかしくて外に出られなくな…いやそうだった 人もいないし、もう暗くなるのに周りの街角の住宅に明かりがそんなにない。


「ああ気づいた? ここもね、一昔前は凄く活気と笑顔があったんだ朝から晩にね。でも凄く、凄くいろんなことがあって……あ、ごめんね。えっと、あ!あの辺りに美味しい串焼き屋が──」


様々な光景を思い出しているような悲痛な声色に何も言えることがない。だが途中で案内しているのを思い出したのか、良い屋台や道具屋・薬屋なんかを案内してくれる。


「誤解しないでね、こんな風でも悪いことばかりじゃないんだよ」


最近高い効力を持った薬の知識を持った人が団体で逃げてきたから戦役がちゃんと帰ってこれる様になったらしい。「ほらあのお店だよ」と指を指すと──


「あっ…」


あの時の18枚の花弁がそこにあった。かつて見た白黒のとは違い、黄と緑の色彩が追加されている。だがそれはおじいさんの、風の翁の墓石の彫刻その物だった。


「あそこはね、お姉さんが優しくてたまにスープをくれるんだ、それが美味しくて。あれ…大丈夫?」
「ああ、やりたいことが近づいただけだ」



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