異世界悪魔の生き方 ~最後に神が笑うと誰が決めた~

凛助

第九話 

起きるまでと夢渡りを一通り使って内容を確かめておいた。夢渡りはかけると少し周りから分かりにくくなって夢魔法の通し易さが変わる。目にかければどこかふわふわした物が人の頭に見えた、でもとりあえず…【夢渡り】と【夢魔法】で尻尾を隠す。
 橙色のショートヘアに筋の薄い身体。それに身長は目分で今の俺のちょい下くらいで、ステータスは見えない。それでも特には強くない様に感じる。
 まだ子供だろうに、背中、少し傷跡残っちゃうかな…。


「…よっぽど疲れてるのか、全然起きないし。食べ物を持ってくるのにもほっとけないし。困ったなぁ」


食べられれば俺も何か食べたいし、傷を治すにも栄養の有るもの食べないといけないのに。


「あーあ。森には入れそうに無いな。起きるまで休むか」


あのゴブリンを倒した後。完全に結界が剥がれたからか少しずつ眼下の森を霧が覆い隠すように動いている、とてもゆっくりだがまるで津波だ。あのまま森にいたんじゃまた霧の中に逆戻りになってたな。


それから30分くらい、眼を閉じていると。


かけていたマントが引き寄せられ「お爺ちゃん」と寝言の様な小さな声が膝元から聞こえてくる。


「あっ。起きた?」


「ひゃ…はい!……だっ誰なんですか…?」


その問いの後に少しずつ震えが始まって此方に伝わってくる。マントを抱き寄せて恐怖を押さえているのがわかる、考え中での少しの間が不安なのかも。


「なんて言ったら良いかな。君を助けた人ってことで、まあ化物じゃ無いってのはわかるでしょ?」


「はい、…異形には見えないですけど」


そう言うと落ち着いたのもあって俺の膝の上だと気づいて跳ねる様に立ち上がる。その瞬間、魔力の押さえがなくなったのもあって、ボロボロだった服が耐えきれなくなったのか布が破れる音が聞こえてくる。…目を閉じていて良かった。


「ひぃ、嫌っ!」


「見てない、見てないから。ほら目、閉じてるでしょ? とりあえずマントと上着を貸すから、ね。大丈夫大丈夫。泣かない泣かない」


「大丈夫です、泣きませんよ!……服、ありがとうございます」


━━━━━━━
軽くお互いに自己紹介をした後に、情報交換をすることにした。彼女はリィナと言う名前で、神子──土地や人々の力を選定することができる──らしい。今はほとんど意味がないから気にしないで欲しいと言われた。
俺も名乗ろうとして口が固まるのを見て、彼女は無理をしなくてもいいと言ってくれた。服は上着でミニワンピ見たいにマントをスカート変りにしている。…俺のマント


「ふうん、ここは森じゃなくてもう化物の体内ってこと?」


「はい、そうです。あの霧が無数の土地を繋げる糸であり、本体でもあるそうです。私の里もそれに」


土地を繋げる糸に里が巻き込まれているってことは、他にもまだ無事な里があると…良いなぁ。


「霧に飲まれるとどうなるんだ?」


「迷ったり、運が悪いといなくなったりします。皆が言うには悪い酒精のように中毒になるらしいです。私は結界しか能がないのに、守られてばかりで」


「らしいってことは、詳しくはわからない。か」


そう小さく考えが口から漏れると、それは彼女にとっては心を削る様な言葉だった様だ。


「私、樹守の一族の神子なのに、継承も上手くできなくて。里も全部呑まれて、何も出来ない。せっかく助けてくれた人に何一つっ」


そこまで言った後に色々な感情を抑える様に唇を噛み締めている。こんな顔をさせる為に助けたかった訳じゃない。敵じゃないなら尚更そうだ。声もないのが痛みに耐えるようで、…なんだかなぁ。


「ごめん…、傷つけるつもりじゃなかった」


「いえ、わかっています。あなたは暖かい人ですから」


そう言うと柔らかな笑みを浮かべてくる。
 それにしても話が通じる位で初めて会った奴に気を掛けすぎじゃないか?もう少し疑ったほうが良いぞ? 俺みたいに理由があるなら、少しの無茶はするだろうが。


「何でそんなに気にかけるんだ? 名前も名乗れない様な奴、怪しいだろうに」


「……名乗れない理由があるのはわかっています、あなたが優しい人だと言うのもです。あの霧のそばで異形の酸で肉が見える程の怪我を負った私を助けるなんて、悪い人は出来ないです」


なんか、気恥ずかしいな。頬が赤くなる様だ、前にも優しいだなんて言われたことなかったなぁ。


「あーうん、話を続けようか。あの化物、異形だっけ? そのことについて教えてくれるかな」


「はい」


そう言うと一つの咳払いの後に、異形と呼ばれる霧と共に現れた魔物について話してくれた。


 主にそれは歩兵型・狩人型・剣士型の三種類いて、それぞれ順番に霧の外に出やすいらしい。歩兵型は他と比べると鈍いが筋力が強く、運が悪いと盾ごと潰されるし重い鎧なんて着てられないそうだ。多分それはあの腕の太いゴブリンの事だろう。
 結界が持つぎりぎりの所に多い剣士型は人飲みと、呼ばれる程強く。異常な速さと爪で飲まれる様に殺されるとのことだ、歩兵型の対策で軽装だと更に容易だそうで。


「あれ? 狩人型は」


「狩人型は特に危険なので最後に回しました。狩人型は…あいつらは悪魔です!、狩人とも呼びたくない!」


「悪魔…か」


悪魔と言われた瞬間、少しの驚きと自分に対してまだ気にしているのかと言う呆れが込み上げてくる。この子とずっと一緒にいるかは、わからないけどいつかは言いたいな。


「あいつらは腕の振り回しや足からの酸、そして舌の攻撃とそれなりですが。一番厄介なのは死んだ後です、自分を殺した相手に跡をつけて周りに伝えるんです! それで何人も怪我をして、帰ってくる人が減って」


腕の振り回し、それに足から酸?。もしかしてあれか。


「ごめん。その狩人型、殺したかも知れない。それってどこまでわかる?」


「ここは…もう少し離れたほうが良いかもしれません。霧が広がっていますから」


そう言うと強く怒りを込めて下の霧を睨んでいる。それを見て何も言えないけど。離れるしかないか、巻き込み事故みたいにはしたくない。


「何処に行くんですか?」


「あっ…いや。…巻き込みたくないから、ちょっと離れようかなって」


そう言って離れようとすると手を掴まれた、かなりの力を入れている。無理に外すと彼女の手が怪我をするだろう。


「待って下さい。一緒にいきませんか?」


つい足が引き戻される。それは自分が一人で居たくなかったのもあるが、そう言った彼女の顔が酷く寂しそうで、振り払うなんて出来なかった。


「わかったよ…。それじゃ行こうか」


辛い道に行くんだ、こんなこと位は出来るよね。


「…あの、その格好は?」


「おんぶだよ。俺のほうが疲れてないから、ほら乗って」


「えっと、あの」


「乗って」


「………はい」


━━━━━━━━━


「わっっ、ひゃあぁぁ! 速い!、速すぎですっ!」


「大丈夫だよ! 今凄く調子良いから!」


「何がですかぁぁ!」


声と肩にかかる手の力を感じながら、一歩一歩原っぱを落ちる様に駆けていく。


 ジェットと体幹移動でほとんど力を使わない様にされど素早く、ジェットも足裏から直接地面にじゃなく関節とかから上手く加減して全てを速度に変換するように。


「このあたりで大丈夫?」


「止まっ…てっ…だ…い、はや…くぅ」


「あ、あぁ!」


ゆっくり止まると、背中から荒い呼吸が聞こえてくる。少しすると全身で抱きつく様に力をかけてくる。


「これで大丈夫です。その放出にも耐えられます!」


「うん、でもごめん。もうそろそろこのあたりで大丈夫かな?と思うんだけど」


そう言うと少し落ち込んだ様に力を抜いて、降りる。そうして彼女は目を閉じて集中すると、何処かソナーに似た波の様な力を感じた。


「…大丈夫なはずなんですが。嫌な感じがします、もう少し行ってみましょう」


また彼女を背負って先に進むと見えてきたのは…霧だ。俺は大丈夫だが、この娘は耐えられるのか?
 そう思い、肌を破る様に握り締めているその手を守る様に重ねると。涙が肩に当たった。


「先は続いていなかったんですね。陸の孤島と言う奴ですか、生きていれば先は続くとあの娘から教えてもらった言葉が汚れるようです。それもこれも全部、全部っ!」


ただ彼女のすすり泣きが響く、まるで少しずつひびが入っていく様な涙の音。気丈に振る舞って、たった一人で足掻いて。その苦しみは想像するにあまりあるだろう。


「っ!」


だがその苦しみを洗い流すはずだった泣き声を切り裂く様な無数の狂声。瞬間的に張られた薄青い結界が、突進するように跳びかかる射手型をなんとか弾いていた。


「逃げてください!」


彼女は何を言ってるんだ。見つかるはめになったのは俺のせいなのに? 女の子を囮にして逃げろって?


「駄目だっ! そんなこと出来ない!」


結界に弾かれず少しずつすり抜けて襲いかかる舌を夢喰いで弾き続けるが、なんとかかすり傷で済ませている。それでも多勢に無勢で抜ける舌の数が増えていく。


「リィナ、君が逃げるんだ。俺は大丈夫さ、足が速いのはわかっただろう?」


「…駄目ですよ。何処かわかるんです あなたが寂しがり屋だって、私もそうですから。…独りは寂しいです」


そう言うと何処か透明な笑みを浮かべ。


「守られてばっかりで、見殺してばっかりで。たまには違うことをしたいんです」


この娘はここで死ぬ気だ。どうしたら、わからない…。


──まだ流されるのか?


前も流されて周りに合わせて道具みたいに使われるだけで、何も変わってない。
 今だって選ぶふりして結局流されてる。生きてない。こんなんじゃ俺、生きてるなんて言えない。


──もう諦めるのか?


「違うッ!!」


その言葉を否定する様に弾ききれない程の舌が息を狙い、宙を飛ぶ。その瞬間、限界まで防護服を背中に集め、リィナを庇った。


「なっ何で!?…私…何も、何もっ、何もっ!」


理由なんて、あの心のこもった言葉で、言葉だけで良かったんだ。


内臓までは行かないが背中に何本か突き刺さる舌に、真紅の血が這う。目に写るのは子供の泣き顔。何処か初めて自分で動けた様で心地よかった。
 近づいてくる敵を魔力を爆散させ吹き飛ばす。そして結界を補強すると思えば血が気化し、魔力の媒体となる。繋がっていた枷が外れた様に、何処までも行ける気がする。


「こんなところだけど、自己紹介しよう」


強気な笑みを浮かべる俺に、絶望が浮かんでいた少女の顔が呆気に取られた様に何処か赤くなる。


「…はい!。私は呪瞳の森を掲げる神子──樹守の神子リィナですっ!」


「俺は…ジーク勝利


それは今までの自分から一歩進む様に、それは心に積もる雪を溶かす様に、名を放つ。
 外ばかりに慰める様に足していた物ではなく。本当に欠けていた真ん中のピースが、いまここに埋まった。



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