異世界悪魔の生き方 ~最後に神が笑うと誰が決めた~

凛助

第五話「霧からの解放」



「いっち、にい、さん、し」


暗い場所で作ったせいかマントはちょっと身体に合わない、調整として軽く普通のラジオ体操しながら手間をかけて少しずつ直す。それに眠気覚ましにも、準備体操にもなるしな。


 普通はサバイバル中に無駄な動きは空腹の素と駄目だろうが、初日のように追われる時に脚にもつれるよりはましだ。


「んっ…ふあぁぁ。っと身体と装備の確認はOKっと、あとは飲み水の入手だな」


2日で少し喉が渇いて来た、普通の人間よりは長持ちするがやっぱりこの体でも生きている限り水は必要らしい。


「霧、閉じてきたな」


雲に見えるほど濃い霧が天窓の岩を4分の3覆う様に広がっている。それについ顔をしかめた、理由は…いや考えたくないな。


「迷宮作ってみるか」


このまま取り込まれるのを見ていたくない。【迷宮核作成】と【迷宮領域作成】この迷宮を作ると言うスキル、なぜ二つに別れているかわからないがまあやれるだけやってやる!。


「うーん駄目か?」


試して見ても、迷宮核はかんしゃく玉を作る程度だし迷宮領域は薄暗い空間を作る程度だ。別々に作ったほうがよっぽど長持ちする、魔力消費は少ないけど意味がない。だが何度か試してみると何処かチリっと言う音と共に大量の魔力が吸われ始めた。


「お!?おお!!」


体感三割位の魔力消費の後、出来たのは霧を押し出す黒い粒子が渦巻く結界だった。そのままのテンションで「とぅ!」やら「はぁ!」やらやっても何も変わらず気恥ずかしいばかりだった。またここにきて約束を守らないとな。


「はぁ」


外に出ると霧の濃度は昨日より濃く、前の半分しか見えない。それにしても俺に当たりたいのか、風もないのに霧が動いているみたいで少し不気味だった。


「やっぱりこの霧のせいか?」


それにしても走りながらでも目につくな、あまり生物の痕跡が無いことが。下にあった鳥の巣跡何かもなく作り物に見えるほどだ。


「困ったな、マーキングみたいな効果だったら狩とか出来ないかも」


 昨日の場所に着くと、霧の動きと言うか濃度が上がって重くなっている。下を見れば見るほど半固体化して、地面につく頃にはまるで吊り下げられた生物かスライムだ。


「これはもしかして、俺から何かを取り込んでそれっぽくなっているのかも。そうすると俺じみたスライムが生まれるかも知れないのか?」


生まれるかも知れないのか?と発音した辺りでもう更に深く皮は剥がれていた。その瞬間疑問が生まれた、なぜ靴と手袋を作らなかったとかいろんなことを思うがそれよりも――


「痒いのって尻尾かよ!こんなに草の種がくっついてるじゃん!」


――尻尾位別に最初から見せたってよくない?、この疑問だった。まるで林に突っ込んでいたほど汚れていると言うか、最初から林に突っ込んでいた尻尾を急いで抜き尾の先から種を掻き取り人心地着くと。


「悪魔っていいながら人と全く変わらないとか、皮肉かと思ったら」 


 身体を捻ってよく確かめると羽はなかったが、肩甲骨にカラスのヒナみたいな羽毛と鱗ぽいものが見える。


 腕は小指の先から肘まで、肘側の腕の半分が毛皮の生えた外骨格みたいなものになってる。手と言うか肌は異様に白い、真っ黒の爪との対比が目立った。


 尻尾はゴムみたいなな触り心地、スペードの様な尾先の縁は爪位に硬い。地肌は白か?、黒い紋章みたいなものが刻まれていてよくわからないな。


 一番の異形は足だ。膝下から足指の手前に向けて毛皮と鱗がある足、5本ある指の爪はまるで猛禽類だ。足裏とかふくらはぎ何かは人と変わんないな、やっぱり肌は絵の具見たく白いけど。


 中途半端に人の形をしているだけで異形の範囲が多い。隠しにくいし、一目で人じゃないとわかるだろう。まあでも、手足も顔も普通で良かった。あの時体から噴いた影に関係あるんだろうな、ヒビが入った場所が変化している。尻尾以外霊体みたくできるが尻尾はなぜか出来なかった。


「本当なんなんだろうなこれ」


尾てい骨部分にはヒビは入っていなかったのに、生えている。疑問を尻尾で吹き飛ばすように、振り回す。


「あー、でもまだマシなこと発見。すっげぇ髪つやつや、………こんなこと位しかねぇなぁ」


髪は前のままとくに変わらない、黒のショートカットだ。


何て言うかいろんな違和感が完全にほどけてから、スキルの難易度がと共に出来ることが急に増えた。魔法とかはまだ使ってないからわからないけど。
 【精密操作】が最初から常時使ってる様なものだったのと合わせてかなり良くなった。魔力で絵が作れる!、……まあ今は意味ないけど。


今わかるのはこれくらいだろう。あとは鏡、いや水溜まりでもいいか。
 出来ることが増えたってすることは変わらない。早く日の光がみたい、水が飲みたい。そんな風に気が抜けてたのか、濃い霧に隠れていた小さめの谷に落ちかけたその時。


「うぁっ!……へ?」


漏れでた間抜けな声と裏腹に、身体はイメージ通りに力を放出して綺麗に一回転して谷を飛び越えた、まるで審査員が見れば全員十点をつけそうな位に。


「これは…使える。いや使える所か超おもしろい!……でもあっぶねぇ、早くこんなとこから出ないと」


 魔力操作の新しい使い方を思い付いた瞬間、まるで天国だった。今は地獄だ、上げて落とすとはまさにこれ。


ジェットを使う為にはソナー・防護服の2つ必要なのに、そこまで制御しようとすると異様にギクシャクする。気持ち悪い、まるで油の指してないブリキ人形見たいだ。それにいくら【肉体再生】であっという間に治るとは言えふっ飛んで膝を打つ、たまに膝の皿にひびが入る。


「いっ!ったぁ…はぁ。痛い…はずなのに痛くない、いや痛過ぎない」


 何度か地面に強く膝をついても声を叫ばない程度で済む、普通なら泣き叫んで転げ回ってもおかしくない。それが耐えきれる程度の痛みに軽減されている。それに普通なら擦りきれている様な皮膚も、腫れている程度だ。
 それでも先には進める。ソナーみたいな応用無しに、身体と【解析】みたいな意識せずに効果が乗るスキルを使ってジェットをそれなりに慣れるようにする。


「この辺りも生き物とかほぼ感じ取れないな。霧の中なんてものは生態系豊富じゃあないのか?…今はいいか、倒れない程度に行こう」


そう口に出してから早十分、荒れた道をパルクール擬きで進む。速さは段違いだ、まるで鳥の様に跳ぶ身体は魔力を脚から吹き出しながら、霧の中を走り抜けて行く。


 魔力を軽く吹いて身体を押すだけでもかなり楽だ、疾走と言える速度を維持できる。これで補助魔法なんて使ったらどうなるのか。


「さてあとは水だな。このまま霧を横断しよう、出られそうだ」


多分北側の奥に入る、そうするとより入り組んだ道が見え。そこをゆっくりと進む、何十分か景色の変わらない道を切り開いて行くと。古い洞穴が見えた、そこからは強い風が轟々と吹いている。


「風があるってことは外に繋がってそうだな。中に入って見るか?」


洞穴かと思ったらその中はある程度整備されているトンネルの様で、鉄のレールが所々に敷かれていた。古びてはいるが、鉄器文明が築かれているのがわかる。
 それ以外は風が強く通っているからわかっていたが、特に問題なく難なく通れた。出口には深い霧が覆われているが、そこから強い風が抜ける。


「凄いなこれ、崖の次は谷か?」


断崖の変わりに谷と亀裂が眼下に広がる、上は霧に覆われ空は見えずその谷底は異様に暗い。そして谷の合間に無数の木が岩を宙に留めてまるで飛び石やバラバラの柱の様になっている。


「深い」


そう口から出るほどに深いとわかったのは、石を谷底に転がしても音が聞こえなかったからだ。落ちれば一貫の終わり、だが回り道も違う道もないこのまま進むしかないだろう。


それでもマシな所はある、道を踏み抜いたりしないだけな。


飛び石を支えている木はかなり硬い、道じゃ無ければ盾にしたい位だ。樹齢何百って木を歩き、何メートルって言う大岩を登る。


「よっと、ふぅ。後は3つ位かな」


上手くいけば時間が稼げるだろうと【補助魔法】をかけ大きくジャンプすると。


「あっ!。ドっりゃぁぁぁぁ!!」


最初とは比べ物にならない程の強化による跳躍それはイメージと大きく逸れ、2つ程の岩を跳び越え3つ目に差し掛かる前に無窮の闇に落ちる。
 その瞬間強くジェットを放ちギリギリで【補助魔法】で強化した腕と夢喰いを岩に腕ごと突き刺しこらえた。


「はぁはぁ、あっぶねぇ。死ぬかと思ったぁぁ!」


急いで登ると大きく倒れこむ。そのまま恥ずかしい様な後悔するように頭を抱え込むが。


「やっべぇ!夢喰いが!」


岩に刃を振るうだけでもヒビが入るというのに、岩に全力で突き刺せば折れるだろうに。だがその折れるはずの刃には傷一つない。同じ素材が同じ素材を断つ達人芸が無造作に出来るはずもない、無意識にかけた補助魔法がその刃と腕を守った様だった。


「はぁぁぁ!良かったー!。ぁぁぁあ、生兵法~大怪我所か~死にかける、字余り。っと」


そんな風にふざけていないと冷や汗が止まらない程ドキドキしているが、そんなこんなで谷を抜けてようやく霧の外に出られた。境界面は特に何もなく通るまで気づけなかった程だ。夏の日差しで、霧のじめっとしたこの重い服がようやっと乾きそうだった。


「水、いや川の音か?」


 何分かしないうちに大きめの川の音が聞こえてきた。霧を抜けた先に木々に囲まれた大きめの川が目にはいる、遠目でも水の透明さがよくわかる。手間に着いたその瞬間手に掬うのすら惜み、頭ごと突っ込み波を噛み千切る様に水に飲む。


「2日ぶりぃ!うっめぇ!」


水を喉いっぱいに飲んでから、水面を見つめる。黒目が赤銅の子供の様な顔、黒髪しか面影になくて、酷く前世の顔が懐かしくなった。


「変わったな」





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